軍事ジャーナル(7月10日号) 日曜版

*地獄の黙示録は反戦映画か?

 地獄の黙示録という映画がある。1979年公開された米国映画でベトナム戦争が舞台となっている。公開当初から大変な話題となり興行的には大成功だったが、映画そのものは難解だった。反戦映画という位置付けが映画評の中では一般的だったが、もし単純に反戦を謳っているなら難解ではなかったであろう。

 つまり映画の中では戦争の狂気を強調している半面、戦争そのものは否定していない。従って製作者の意図が分からなくなるのである。
 2001年にこの映画監督は未公開のシーンを50分以上追加して再編集した特別版を公開した。これを見ると79年版では意味不明であった数々のシーンの意味が理解できるのである。その分、それまで強調されていた戦争の狂気の印象が薄められ強烈なインパクトが失われている。
 要するに監督は01年版に現れた様な製作意図を持って撮影していたが、編集段階でインパクトを強めるために本来ストーリーを理解する上で必要な場面をカットしてしまい難解な映画になってしまったのであった。
 では映画作品として79年版と01年版とどちらが優れているか、と言われると何とも言えない。79年版はその難解さに魅力があったし、ストーリーは別にしても、その戦闘シーンは映画館の大きなスクリーンと音響設備で観賞すると圧倒的な臨場感があった。
 だが現在これを観賞するのは映画館ではなくDVDである。もはやあの臨場感は望むべくもなく、難解なだけの映画になってしまう。だとすればストーリーの理解しやすい01年版の方がいいであろう。
 ベトナム戦争時、米軍は南ベトナムとその周辺に駐留していたが、映画ではその米軍の一人の指揮官が米軍を離れ現地人に神のように崇められ、現地人からなる独立した軍隊を創設しそこの最高指揮官になってしまう。米軍にとっては反乱に他ならず、彼を殺すべく刺客を送るという設定になっている。

 評論家の副島隆彦氏は、この映画はベトナム戦争を舞台にしているが、実は日本を描いていると言う。米国軍人であったダグラス・マッカーサーは連合軍最高司令官として日本を占領したが、その日本で神のように崇められ本国のトルーマン大統領と対立するに至った。結局マッカーサーは解任されたが、映画はこの史実を隠喩しているという。
 だが南ベトナムからは米軍は撤退したが、日本にはいまだに駐留を続けている。おそらく映画の真意は「一体いつまで日本に駐留を続けるつもりなのか?」、米国民のそんな素直な問い掛けなのだろう。