『1行物語 第1章 月神アリウスト夜祭』【追跡】 | メモ用紙に走り書き。

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『1行物語 第1章 月神アリウスト夜祭』



【 追跡 】

先程まで明るかった空が次第に暗くなってきた。もうすぐ夜祭りが始まる。軒先に大きなロウソクを灯す屋台もポツリポツリと現れ始めた。
ロウソクの光に誘われたのか、精霊たちも空中をフワフワと漂いながら、ポォッと淡く輝いている。


バルドは振り向かず、賑やかな屋台に集まる人波の中をゆったりと歩いている。

微かに殺気の籠る視線を背中に感じながら。


その視線の持ち主たちは、顔を黒い布で覆い、コートを深く着込み、3人共に同じ黒く長いマントを羽織っていた。


黒マントの1人が少し離れて歩いている仲間に耳打ちをした。
男はこくりと無言でうなずく。他の2人に目で合図して、周囲に散らばりながらも一定の距離を保ちつつ、バルドを追跡させた。


「そろそろ聖火塔に行ってみようぜ。」
「うん。そうだね。行こう、行こう。」
バルドのすぐ脇を子供たちがはしゃぎながら通り過ぎてゆく。気付けばもう周りが薄暗い。もうすぐ月神祭のメインイベントである聖火塔の灯下が始まろうとしている。


ふと、バルドはぴたりと歩みをとめ、薄暗くなった森林の方を眺めた。


黒マントの男たちも、それに気づき、やや離れたところで屋台を覗きこんだり、あちこちを眺めたりと何気ないそぶりをしながらも、バルドの気配に集中していた。


「付かず、離れず・・・か。さて、どこの猟犬どもなのか・・・」
ギッと剣の柄を握り締める。
「試させてもらうぞ。」
そう呟くと、バルドはフッと林の中に入って行った。