*
彼らの抱擁を見て、青い髪の少年はうるうると目に涙を溜めていた。私も彼と同じようにこみ上げる涙を堪える。
「……ヒノたん?」
小声で話しかけてくる赤い目のドッペルゲンガー。彼女は不安そうにもじもじと、抱き合う彼らを見つめていた。
「何ですか? 微妙な顔しちゃって」
「よかったねぇ。恭司くんがちょこっと感情を出せるようになってきたみたい」
「そうですね。この件で得たものは大きいです……」
「でも、今度は夏帆たんがまずそうなの。見てよあの顔」
言われるまま、白い制服を着た少女へと目を向けた。
その幼げな双眸は幸せそうに涙を流している――自分の瞳から光が消えかけているとも知らずに。
「あれってさ、あの時の恭司くんと同じ目付きだよね?」
「え、えぇ……」
「夏帆たん、どうしたんだろう?」
「私には分かりません……夏帆さんの記憶を覗いてみてはどうでしょう?」
「あー、何か分かるかもしれないね。それじゃあ記憶を覗きに行ってくるよ。何度やっても気が引ける事だけど」
メディシンの体から光が迸る。黒いマントがばさばさと幾度か揺れ、その体は光の渦に呑み込まれるように消えた。
「あれ、メディシンちゃんはどしたの?」
「急用です」
「急用ねぇ。ドッペルゲンガーも結構忙しいんだな」
「ええ、メディシンはそれなりに忙しそうです」
「そうか……それじゃ、私もそろそろ現実に戻るよ。あの二人の邪魔をしてるみたいで居心地悪いからな」
「分かりました。さようなら、古城さん」
「じゃあな、ヒノビウスちゃん」
古城さんは片足のつま先で地を叩き、離脱していった。
満たされた表情で涙を流す青年。微笑みながら聖母のように青年を抱く暗い目付きの少女。
メディシンが戻ってくるまで待つか、それとも後を追うか暫し迷う。
「ヒノビウスさん?」
少年の高めの声が耳に入ってきた。たしか、古城さんと行動を共にしている〝クリフト〟という名前のドッペルゲンガーだったはず。
「何です?」
「メディシンの用事って、もしかして夏帆さん絡みですか?」
「ええ、そうですが……」
「断言しますけど、夏帆さんの状態はヤバイです。恭司さんほど酷くはないにしろ、近いうちにツールの暴走を起こすでしょう」
「……本当ですか?」
「ええ、本当ですよ。オレは人の心を読めるんです。夏帆さんの今の精神はすごく不安定で……とにかく、メディシンの後を追いましょう。今すぐに」
そう言って、青い髪の少年は光に包まれて消えていった。
間髪を入れずに私も後を追う。
恭司さんは幸運だった。何故ならば、ツールの暴走を乗り越えた先に待つのが安息とは限らないからだ。
ツールに精神を歪められ、永い地獄を味わう事になった人が数人居た。暴走によって大切なものを失った人は数え切れないほどだった。
夏帆さんのツールが暴走してしまう前に、その原因を取り除く必要がある。
普段は使用する事の無い、非常用のツールを用いて。
