しぃぼるとぷろだくしょん「ドロセラ~DROSERA~」 | カラサワの演劇ブログ

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演劇関係の雑記、観劇記録、制作日記、その他訃報等。観劇日記は基本辛口。これは自戒とするためでもあります。
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しぃぼるとぷろだくしょんロンサム・ジョージプロデュース『ドロセラ~DROSERA~』於・中野あくとれ

 

司会者「準ミス・インターナショナルの鳳恵弥や『宇宙刑事シャリバン』『時空戦士スピルバン』の渡洋史が所属するしぃぼると・ぷろだくしょんの舞台です。もちろん、上記2人も出演。作・演出は舞台『サイレントメビウス』などの細川博司が担当しています。昭和40年代に実際にあった中革派による警官焼殺事件『渋谷暴動事件』の犯人がこの5月に逮捕されましたが、それをモデルに書かれた作品と思われます。中革派の思想的リーダーで事件の主犯である虫掛稔をめぐって、その革命思想にいまなお共鳴する若者、彼を利用しようとする若い事業家、彼への取材を書籍にした女性ライター、事件の追跡の最中に謎の自殺を遂げた刑事とその同僚たち、そしてなぜか民間人なのにこの事件の捜査を警察から依頼された私立探偵・真島の行動を描いているハードボイルド・ドラマです」

 

演劇ファン「正直、劇場のレベルからいって入場料がちょっと高すぎかな、と最初思っていたのだけれど、作品のレベルはそれに見合うものだったと思う。ハードボイルドものとしての緊張感がファーストシーンから、途切れずにラストまで継続する。それでいて、観客を疲れさせる重さがない(重い内容ならいいだろうとばかりに、重すぎてへとへとになる芝居を作る劇団も多いんだ)。90分という長さも心地よい。これからこういう芝居を観る際には、この作品を基準にして評価してしまいそうだなあ。同じ刑事サスペンスものをよくかける劇団で、ちょっとここの爪の垢でも煎じて飲んでほしい、と思うところがある」

 

現代史ファン「虫掛を演じた笹井敬文が麻原彰晃みたいな風貌で笑いました。若い人には中革派の革命思想もオウム真理教のカルト思想も同じに見えるんだろうな。共産主義革命なんて今の若者にとり古いと思えるかもしれないけれど、自分の存在よりはるかに価値のある思想のために、命までかけて戦うという行為は、ある意味現代の若い世代にとって新鮮に映るものなんだよね。アニメなんかにも“使命”という言葉がやたら出てくるし。案外親和性が高いのではないでしょうか。」

 

深読みファン「そういう思想に殉ずる行為の強烈な酩酊性が人間を虜にする、という比喩としてドロセラ(モウセンゴケ。甘い香りの蜜で昆虫をおびき寄せとらえる食虫植物)というタイトルがあるわけね」

 

ツッコミ屋「そのタイトルは優れていると思うんだが、残念なことにフライヤーのイラストに描かれているのはドロセラではなくてディオネア(ハエトリグサ)やネペンテス(ウツボカズラ)なんだよねえ。誰も気がつかなかったのか?」

 

辛口ファン「まあ、トリビアルなことは措いといて……そのテーマは十全に作品の中で語られていたと思うんだが、唯一、ラストで、裏で全てを操っていた真犯人が暴かれる、という部分だけ、テーマとは関連しないのが惜しいと思ったな。あそこは蛇足のような気がした。あそこではむしろ裏テーマというか、事件を追う警察(権力側)もまた、国家という思想の虜なのではないか、というような思わせぶりなセリフを言わせて〆とした方が、観てるものをスッキリと内容に共鳴させられたように思う」

 

役者ファン「事件ものの話を描く際に、小劇場演劇の脚本がよく陥る陥穽のひとつに、主人公が事件の傍観者になってしまって、なにもしない、というのがある。そこが、この作品の主人公の真島(亀井達也)は実に優れていた。暴力に対しては徹底して弱いのに、決して暴力に尻込みしない、という性格がいいし、いろいろ独自の情報ルートを持っていて、頼りにならなさそうで実は案外活躍する、というのが面白い。途中で女性刑事からの色仕掛けに屈したか、と思わせて、実は何もしなかった、というオチがつくが、あそこはむしろ真島のキャラクターとして、誘惑には弱い、という風にした方がよくはなかったかな。なんとなく演じた亀井の顔を見ていると、いい目にあわせてやりたかった、という気になるんだよ」

 

色気評論家(自称)「誘惑した女刑事だけど、演じた江守沙矢が、メガネを外したとたんに色っぽい美女になる、というルーティン演出をやっていた。最初は苦笑しかけたんだが、ホントにぐんと色っぽい女になったんでびっくりした。あれは彼女の演技力だな」

 

女優ファン「虫掛に取材して逆にそのカリスマ性の虜になってしまう女性ライターを演じた鳳恵弥もいい演技をしていた。と、いうか、演出ではそれが虫掛への、恋愛感情に見えてしまう部分があったが(実際、そういう演出だったのかもしれないが)、あそこはやはり思想的な心酔と愛情を一緒にしてしまう女性心理を見せて欲しいと思ったな。インタビューシーンがあるが、そこで虫掛のカリスマ性に当てられ、逆にとらわれて行く状況を象徴的に見せれば、この芝居は全部彼女が持って行くこともできたはずだし、彼女なら演じられると思う。最後、虫掛の変節を目の当たりにして彼を殺し自分も死のうとするというあたりがいい演技だっただけに、やや望蜀の嘆を感じてしまった」

 

ヒーローものマニア「……今まで誰も触れてないけど、ねじめ刑事を演じたのが『シャリバン』『スピルバン』の渡洋史ですよ! アクションのキレのよさには痺れました。キャラクターも渋くてカッコいいし、最高! 殉職しちゃうのが惜しい」

 

脚本学校の先生「いや、あの殉職シーンのカッコよさは特筆ものでしょう。惜しむらくは、その殉職の前と後で、主人公の行動の状況に、観客にはっきりわかる変化をつけてないことです。主人公と近しかった人物の悲劇的な死。これはそれまで態度が不鮮明だった主人公を、敵との本格的対決に向かわせる大きなファクターになる出来事で、その死を目にした主人公の決意はもっと明確に見せないと、無駄死にとは言わないまでも、単なるストーリィ進行における死、ととらえられてしまう危険性があります」

 

悪役ファン「むしろあの死で主人公よりも、悪役である久慈(上村潤)の存在がぐんと浮き出てきた。実行犯の学生(明道皐我)がビビりまくるのも、いかにも頭でっかちな今の学生ぽくていいし、彼をいなす久慈のキャラがはっきり見える。40年前の思想に殉じて自決する菊一紋二郎のキャラとの対比で、思想に対し登場人物中唯一、その力を歯牙にもかけていない超現代人的な考えの持ち主で、“思想”を共鳴者から金を引き出す手段にしか思っていたに現代ベンチャービジネス至上主義者というキャラ造形は、あの役がこの作品でいちばんユニークな存在なのではないかと思えてきたな。少なくとも、他の作品では観たことがない」

 

劇団主宰者「私がこの作品を脚本にしたら、もう少し革命思想に対する世代間ギャップを誇張してギャグにし、若いのになぜか強い興味をしめす女刑事の裏の設定を最後にあかすサプライズにしたと思います。これは“思想”というものの現代の価値基準をどの程度に置くか、という立ち位置の違いで、作・演と私の作劇のコンセプトは180度異なるものですね。それだけに、インパクト強く、こちらに迫ってきました。ラストでこれだけ印象に強い作品を見てしまうと、原稿用意していた今年の観劇まとめを大きく書き換えないといけない。面倒だなあ。まあ、喜ばしい面倒だけど」