ベテラン声優、大木民夫氏死去。89歳。
クリストファー・リーとピーター・カッシングの両方を持ち役にしていた人で、同じく両方を持ち役にしていた千葉耕市氏とは互いに役を交換しながら(なにしろ共演の多い2人なので)、あっちが大木氏のときはこっちが千葉氏、あっちが千葉氏のときは……と務めており、観ながら(聞きながら)、
「どっちかに決めておけばいいのに」
と思ったものである(実際には親友であったリーとカッシング同様、大木氏と千葉氏も親友であったとか)。
そう言えば、Wikipediaによると、カッシングの演じたモフ・ターキン総督を映画では吹替え、ゲームではジェダイ側のリーダーであるオビ・ワン・ケノビを演じていたそうで、要は善悪どちらにしろ、リーダー、権力者にふさわしい威厳ある声質だったということだろう。
印象に残るのは同世代の大塚周夫氏とやりとりをした、『事件記者コルチャック』の中のエピソード、『悪夢が生んだ植物魔人』における“マッドドッグ”・シスカ警部(キーナン・ウィン)。狂犬と異名を取る(日本語訳では“カミナリ”と訳されていたが)怒鳴り屋の警部だが、イライラしすぎて体調が悪くなり、グループ療法を受けて“怒らない”ことを自分に課している。しかし当然、コルチャックの傍若無人な取材を受けて、我慢も限界になり……。
「馬鹿、死ね!」
とキレる演技が抜群だった。
これが人気だったのか、コルチャックには再度登場。『地獄の底からはい上がる女悪魔』で、例によって怒鳴りまくるキャラではあったが、グループ療法の成果か、少しは落ち着いて話すようになり
「コルチャック、私には昔から夢があるんだ……お前の顔をデコボコにすることだ!」
とやるのが、なんともおかしかった。
大木氏のような第一次世代の声優は、そもそも数が少なく、そのため「どんな役でもくればやる」がモットーであり、それが演技の幅を広げていった。ひるがえっていまは、多すぎる声優の中で記憶に残るために、自分の役柄を限定させ、その範疇での技術を競うものとなっている。時代は変わり、声優の必要性も変わってきた。当然のこととはいえ、何とも寂しいことは確かである。
ご冥福をお祈りする。