劇団ヨロタミ『アンサンブル』 | カラサワの演劇ブログ

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劇団ヨロタミ第26回公演『アンサンブル』於池袋・シアターグリーン BOX in BOX THEATER

 

司会者「おなじみ、中澤隆範が所属する劇団ヨロタミの最新作です。舞台は昭和も30年代くらいを思わせる、共同空間のあるアパートで、名前だけは現代風に“シェアハウス”となっている『いなば荘』。なんらかの事情があって、この社会に生きる場所が他にない人びとに、70代ロックシンガーの大家(中島佳継)の主義で解放され、その娘の美幸(南井貴子)が管理しているという設定です。元アイドルで、40歳になっても夢を捨てられず劇団で役者をやっている三浦(金藤洋司)、親の作った借金を返しながら地下アイドルの追っかけをやっているオタクの長谷部(中澤隆範)、対人恐怖症で、新興宗教に入信することで何とか生き甲斐を見出している笠原(河嶋健太)、単身赴任中の不倫で離婚され、娘とも会えなくなってしまった岩本(勝又保幸)といった住人たちの中に、福島の震災で家族を亡くした松川(坂本直季)、金のために少女のわいせつ写真をネットで売りさばいて刑務所に入っていた青年・白倉(大矢三四郎)などが新たに入居してくる、という展開の話です」

 

ヨロタミファン「……作り込まれたセット(美術・鎌田朋子)を見ただけで、“あ、ヨロタミの舞台だ”とワクワクします。ヨロタミはここ最近はちょっとこれまでの毛色とは違った作品……重い社会問題を提起した『硝子の途』やミステリ趣味の『同想会』、ドタバタギャグの『代役!』などが続いていましたが、この『アンサンブル』は久しぶりに“大いに笑ってちょっぴり号泣”の原点に戻った感があって、安定感は抜群でした」

 

熟年男「ああいう共同炊事場などがある下宿が実に懐かしかったな。風呂は普段はシャワーで、湯船にお湯をためるには三人以上の使用者の申請が必要、などという共同ルールがあるのはいかにも昭和の日本の生活だ。個人のプライバシーだの自由だのばかり主張する現代人にはああいう場所での生活は無理だろう。この話の登場人物たちのように、どこかに悩みや欠陥を持っている人びとだからこそ、お互い支え合い協力し合うことができる。……これが隠しテーマかな、今回の作品の」

 

若い演劇ファン「若い世代の私にもああいう生活は魅力的に映りましたよ。……ところで私はまだヨロタミを観始めたのは前回の『代役!』からなんですけど、そこに出てきた『コングラチュレーション5』ってアイドルグループがまた出てきて笑っちゃいました。あと、中澤隆範さんファンで、そのつながりで観た劇団天然ポリエステルの『君♡ふりーく』でも、中澤さんは地下アイドルの追っかけオタク役で、それも笑いました。……劇団ヨロタミって、そういう風にいろいろリンクさせて話を作る作風なんですか?」

 

ヨロタミファン「うーん、以前は役柄を定着させて、ネクラとかホモとか、共通する役を同じ役者が演じていたことがあったけど、最近はそういうのはあまりやらなくなっていたんです。でも、そう言えば勝又さんも『代役!』から続けて、娘と再会する父親の役ですね。そういう設定をあちこちに作って、イメージを輻輳させて広げようとしているのかもしれませんね」

 

演劇おじさん「役のイメージというのなら、大家の役はいつもなら座長の寺林伸悟の役柄のはずだが、彼は今回、“家庭の事情”とかで降板して出演していない。代役(?)の中島も頑張っていたが、何年かヨロタミを観続けていれば、あの役が寺林にアテ書きされたことははっきり分かるだけにちょっと残念だった」

 

俳優プロダクション社員「……それが原因かどうか知りませんが、何か今回、劇団員と常連たちのキャスティングがどうもしっくり来ない感じが強いんですよね。全体の狂言回しである元アイドルの三浦役を金藤さんがやってますが、こういう回しはアドリブの効く坂本さんが最適任なんだから、彼がやるべきだった。基本的に“陰”のキャラである金藤さんには家族を亡くした松川の方が適任でしょう。あと、河嶋さんは熱演でしたが、心流マーキュリー教などというアヤシゲな宗教にハマって妙な祈祷を始めるというファナティックな演技はやはり中澤さんに一日の長がある。これも、役を交換した方がいいと思ったなあ。今回のキャストの振り分けはどういう基準でやったのかしらん」

 

ギャグ好き「そう言えば、追っかけをしているアイドルの子(水谷千尋)が実はヤンキーキャラだったのを中澤さんから隠そうと金藤さんがドタバタするギャグシーンがどうにも中途半端でじれったかった。あそこはもっとスラップスティックに徹して爆笑させないと。こればかりでなく、今回“もっとやれるだろう”と隔靴掻痒感にさいなまれる部分が多かった。いちばん面白かったのはそのヤンキー娘が義理の弟の大矢三四郎を何かというと罵倒するシーンだけど、ギャグ専科の劇団ならもっとあそこで罵倒を暴走させてナンセンスの領域まで踏み込ませるだろうね。要はディフォルメが、この劇団の持ち味であるリアリズム性に足を取られて徹底できてないわけで、これはもったいないですね」

 

ヨロタミファン「……いや、そこで寸止めで抑えるのがヨロタミの芸風だと思います。笑わせればすべて許される、というような悪じつこいところがないのがヨロタミの良さですよ」

 

ギャグ好き「でも、それなら、楽屋オチというのかな、ひとりの人間が役を替えて回想シーンに出てくるのを坂本直季が“今ここにいるのは回想ですか現実ですか”と質問したり、“あっち(回想キャラが出てくる上手側)は大変だから”と口走ったりするギャグはどうなのかな。面白かったが、ちょっと中途半端さも感じてしまった。あれをやるなら、途中で本役のセリフの順番になってあわてるとか、回想キャラが出ているときに本役をみんなが“そう言えばあいつ、どこに行った”とわざとくさく探したりとか、いろいろ遊べるのになあ、と思いましたけどねえ」

 

演劇ファン「面白いことは面白いがもったいない部分が多すぎ、というのが今回の正直な感想です。まず、個性あるキャラを揃えるのはいいが、その紹介に時間をかけすぎ。住人全員の紹介が終わって本題であるアイドルのくるみん(水谷)が弟を連れていなば荘にやってくるまで30分以上かかっている。ダンドリに忠実なのはいいが忠実すぎで、展開のもたつきが最後まで尾を引いてしまっている。観客を話の中に引き込むのは設定じゃない、展開です」

 

医療従事者「設定で気になったのは南井貴子の管理人が何回か倒れる、という伏線があった末に、肝臓がんだとわかるシーン。みんなが彼女を余命幾ばくもないと思い込んでいたら、それが手術で治っていた、というギャグ(?)があるが、何度も倒れ込むような症状が出ている肝臓がんは大抵の場合、ステージ4くらいまで行っている。これはもう末期で、手術をしても完治は不可能です。余命一ヶ月のレベルですね。脳腫瘍とかにした方がよかったんじゃないか」

 

オタク評論家「それで言うなら中澤さんのドルオタが、追っかけていた癒し系アイドルのくるみんが実はヤンキーだった、という事実に自分を何とか納得させてしまうのもリアルじゃない。アイドルが自分をだましていた(ことに処女じゃなかった)、と知ったときの追っかけオタたちの切れ具合は尋常じゃありません。あんなに物わかりのいいオタクはそもそも追っかけオタになりません。アイドルに自分を合わせて好きになるんじゃなく、自分の理想形をアイドルに当てはめて要求しているんです。もちろん、金もやたけたにかけている。だから相手の人生が自分の思った通りのものであることを望む権利がある、と主張するのがああいうオタです」

 

演劇科・脚本専攻の学生「作品のタイトルが『アンサンブル』なんだから、それぞれの抱える人生が組みあわさり、関係しあってひとつの問題が解決する、というようなストーリィが欲しかった。今回、それぞれの持つ過去や事情がからみあうのは勝又の生き別れの娘が中澤の追っかけているアイドルだった、ということと、大矢が刑務所で南井の夫と同房だったということくらいで、あとはバラバラじゃないですか。坂本の、息子の遺骸が津波の後から掘り出された、というラストなど、唐突すぎて何が関係あるのかわからない。私はてっきり、大矢が実は行方不明のまま成長した坂本の息子なのかと思っていました」

 

脚本家の卵「あ、それは面白いな。ついでに金藤のアイドル時代のビデオを見て小さいころエロ写真を売られて人生に嫌悪感を感じていた水谷がアイドルを志し生きる目的を持てたという設定にして、中澤の父親の事業を失敗させて借金を背負わせたのが勝又の会社で、担当が勝又だったということにし、坂本が実は福島の喜多方ラーメンチェーン店の経営者で、中澤が仕事で開発していたプログラムがそこの経営プログラムで、坂本がそのつながりで勝又を自分のチェーン店の経営スタッフとして雇い入れるということにすればいい。あと、大家の中島が路上で演奏していたロックが音楽関係事務所の目にとまり、そこの事務所がかつて自分のところに所属していた金藤を探していることがわかって……」

 

司会者「あまりに出来過ぎでわざとくさくないですか、それ」

 

脚本家の卵「映画だったらリアルじゃない、と言われるが、演劇というものはそもそもリアルよりも寓話的なアーティフィシャル性が“運命のいたずら”として設定に盛り込まれるのが常なんですよ。その作り物的な仕掛けを感じさせない、むしろ感動を盛り上げるための仕掛けにするのが脚本と演出の腕、です」

 

演劇ファン「……じゃ、管理人のガンはどうなるの?」

 

脚本家の卵「……心流マーキュリー教の水を飲んだら奇跡が起こって全快し、みんなハッピーエンド」

 

全員「それはダメだろう!」