昨年5月、「生活水準に関する国際比較」という記事を載せました。
日本を中心に先進国・主要国に関する比較です。
もう1年以上経ったので、データを更新しようと思ったのですが、取り上げる指標を一部変更することにしました。
まずこのブログでは取り上げてこなかった一人当たりの経済水準を載せたいと思います。
これを見ないと、なぜこのブログで不平等調整済み人間開発指数(IHDI)を重視しているのか、読者に分かりづらいと思うからです。
もう1点は、前回はジェンダー不平等指数(GII)とジェンダー・ギャップ指数(GGI)の両方を取り上げて、両指標の性格について議論したのですが、日本の問題点を見るためには後者が適切であるため前者は掲載しないことにしました。
この結果、取り上げるのは次の4指標となります。
a.1人当たり名目GDP(IMF統計)
b.不平等調整済み人間開発指数(IHDI)
c.世界平和度指数(Global Peace Index, GPI)
d.ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index, GGI)
「生活」という意味では、経済水準だけの比較ではなく、健康、教育、安全も含めた比較が重要だというのが私の主張ですが、今回は最初に経済水準の比較を行って、どの程度の違いがあるかを見たいと思います。
なお、私は主観的な満足度・不満に関するデータを比較するのは意味がないと考えています。
(極端な例を挙げると、独裁者が国民を「お前たちは幸せだ」と洗脳している国の主観的幸福度を見ても意味がないでしょう。他にも論点がいくつもあります。)
次に、日本を他のどの国と比較するかです。
世界には200強の国と地域があるわけですが、次の基準で選びました。
(後ろの括弧内は地域(Am米州、APアジア大洋州、Afアフリカ、E欧州)と人口(単位百万人)。世銀統計2023年)
1.人口2000万人以上の欧米系の先進国 ― 計8か国
米(Am335)、独(E84)、英(E68)、仏(E68)、伊(E59)、西(E48)、加(Am40)、豪(AP27)
うち、G7に属するのは米、独、英、仏、伊、加の6か国です。(漢字一文字で表記)
2.アジアの先進国・地域 ― 計5か国・地域(すべてAP)
韓国(52)、台湾(23)、イスラエル(9.8)、香港(7.5)、シンガポール(5.9)
中東などの産油国も所得水準だけでいえばアジアの先進国ですが、たまたま足元に石油が埋まっていたという理由で豊かになった国を先進国扱いするのは私にとって違和感があったため、比較対象から除いています。
3.東アジアの近隣諸国 ― 計5か国・地域(すべてAP)
中国(1411)、韓国(52再掲)、北朝鮮(26)、台湾(23再掲)、香港(7.5再掲)
4.日本より人口の多い11 か国
インド(AP1429)、中国(AP1411,再掲)、アメリカ(Am335,再掲)、
インドネシア(AP278)、パキスタン(AP240)、ナイジェリア(Af224)、ブラジル(Am216)、
バングラデシュ(AP173)、ロシア(E144)、メキシコ(Am128)、エチオピア(Af127)
日本(AP125)を含め重複を除いて、合計25か国・地域を対象とします。
前回との主な違いは、人口世界1が中国からインドに変わったことと、エチオピアの人口が日本を抜いたので加えたことです。
この種の比較では欧米系の小国が上位を占めるのですが、大国ほど統治が難しい面があるため、欧米系の先進国については「人口2000万人以上」という基準で切りました。
表に世界平均が載っている場合はそれも含めます。
a.1人当たり名目GDP(2023年、全191か国、IMF統計)
直接の出所はグローバル・ノート。有効数字二桁表示、単位はUS$。
順位 国名 1人当たり名目GDP
5 シンガポール 85,000
6 米 82,000
11 豪 65,000
18 加 54,000
19 独 53,000
20 イスラエル 52,000
22 香港 50,000
23 英 49,000
25 仏 46,000
28 伊 38,000
34 日 34,000
35 韓国 33,000
36 西 33,000
39 台湾 32,000
68 ロシア 14,000
69 メキシコ 14,000
74 中国 13,000
82 ブラジル 11,000
117 インドネシア 4,900
138 バングラデシュ 2,600
144 インド 2,500
159 ナイジェリア 1,700
161 エチオピア 1,500
162 パキスタン 1,500
(注) 北朝鮮は掲載なし
・日本は、G7のなかでは一番下です。
これは近年の円安でドル表示の値が低下した面があるため、円安以前の2021年の値をみると 27位 40,000 となっています。
その時も、イタリアよりは上ですが、G7のなかで下から2番目です。
・ここ数十年経済成長が著しかった中国ですが、それでも西側諸国から経済制裁を受けているロシアよりもまだ少しだけ下です。
上の表に出てくる68位ロシア~82位ブラジルまでの国々は中所得国とでもいうべきグループです。
中国がこのグループから脱出できるかどうかに大きな興味が湧きます。
(え、それより日本の心配をしろって?)
さて、生活の質の大きな部分が経済水準に依存することに異存ないでしょうが、すべてそこに還元できるわけではありません。
他にも、健康や教育水準(識字率を含む)も大きな役割を果たします。
いくら金持ちでも早死にしてしまっては意味がありません。
また、教育水準は国民一人一人が自分の人生を自分で決めるために大変重要です。
(昨今の日本のように学歴でマウントをとる愚行のためにあるのではありません。)
これらも大きくみれば経済水準と正の相関がありますが、必ずしも一致しないのです。
健康は平均寿命で代表させることができます。
平均寿命を比較すると、主要先進国(もちろん産油国を除く)のなかで米国の平均寿命だけが80歳に達していません。(女性だけとっても同様。その理由は分かりますか?)
いくら経済が上手くいっていても、こんな国に住みたいとは思えないのは私だけではないと思います。
また、経済水準を代表するのは1人当たりGDPですが、所得分布が不平等であれば必ずしも国民大多数の生活水準の高さにつながりません。
したがって、不平等度も考慮に入れる必要があります。
それらをすべて複合した指標が次の不平等調整済み人間開発指数(IHDI)です。
b.不平等調整済み人間開発指数(IHDI)(2022年、全165か国、国連開発計画UNDP)
人間開発指数(Human Development Index, HDI)とは、各国を平均余命、教育、識字、所得指数の複合統計により人間開発の4段階に順位付けした指数。
不平等調整済みHDIとは、HDIに所得格差のような国内の不平等を加味した指数。
List of countries by inequality-adjusted Human Development Index - Wikipedia
順位 国名 2022年 2021年
9 独 0.881 8 0.883
12 英 0.865 16 0.850
13 加 0.864 14 0.860
14 豪 0.860 11 0.876
19 日 0.844 16 0.850
20 韓国 0.841 21 0.838
21 香港 0.840 23 0.828
26 シンガポール 0.825 27 0.817
27 米 0.823 25 0.819
28 仏 0.820 24 0.825
31 イスラエル 0.808 29 0.815
34 伊 0.802 35 0.791
38 西 0.796 37 0.788
43 ロシア 0.747 42 0.751
66 中国 0.662 67 0.651
71 メキシコ 0.641 72 0.621
世界平均 0.576 0.590
89 インドネシア 0.588 87 0.585
95 ブラジル 0.577 90 0.576
112 バングラデシュ 0.470 104 0.503
118 インド 0.444 108 0.475
134 パキスタン 0.360 129 0.380
132 ナイジェリア 0.369 138 0.341
147 エチオピア 0.324
(注) 台湾、北朝鮮は含まれず。2021年は全156か国
・日本は上位にあり、G7のなかでは中間程度です。
前年と比べて、円安の影響でわずかに低下しましたが、1人当たりGDPほどの低下ではありません。
・イタリアとスペインは先進国のわりに低いです。
・これもロシアの方が中国より上ですが、その差が1人当たりGDPよりも大きいのは、中国の方が不平等度が大きいためです。
・インド亜大陸のインド、パキスタン、バングラデシュの3か国はいずれも低いです。
アフリカのエチオピアとナイジェリアはそれよりさらに下です。
ただ、インド亜大陸の3か国はいずれも前年と比べてはっきり悪化しています。
・世界平均が低下したのは、インド亜大陸3か国の低下と下の方の国々の人口増加によると思います。
c.世界平和度指数(Global Peace Index, GPI)(2024年、163か国、経済平和研究所)
「安全・安心」「国内・国際紛争」「軍事化」の3カテゴリー、23項目にわたって分析し、国・地域における平和の相対的な位置を測定する指数
GPI-2021-web-1.pdf (visionofhumanity.org)
順位 国名 2024年 2021年
5 シンガポール 1.339 11 1.347
11 加 1.449 10 1.330
17 日 1.525 12 1.373
19 豪 1.536 16 1.470
20 独 1.542 17 1.480
23 西 1.597 31 1.621
33 伊 1.692 32 1.652
34 英 1.703 33 1.658
43 台湾 1.818 34 1.662
46 韓国 1.848 57 1.877
48 インドネシア 1.857 42 1.783
87 仏 2.088 55 1.868
89 中国 2.101 100 2.114
93 バングラデシュ 2.126 91 2.068
116 インド 2.319 135 2.553
131 ブラジル 2.589 128 2.430
132 米 2.622 122 2.337
138 メキシコ 2.778 140 2.62
142 パキスタン 2.783 150 2.868
144 エチオピア 2.845
147 ナイジェリア 2.907 146 2.712
152 北朝鮮 3.055 151 2.923
155 イスラエル 3.115 143 2.669
156 ロシア 3.134 154 2.993
数字が少ないほど、平和であることを意味します。
前回使ったデータが古かったのか、2021年から2024年に飛んでいます。
・日本の順位は前回より下がりましたが、それでもG7のなかでは上から2番めです。
今の日本について「軍国主義の復活」とする批判は根拠がないと思います。
・ウクライナに侵略戦争を仕掛けているロシア、パレスチナに侵攻しているイスラエルはもともと低い数値がさらに悪化しており、またミサイル実験を頻繁に繰り返す北朝鮮も低い順位となっています。
・アメリカの順位が低いのは、日本など同盟国の軍備の肩代わりをしているためという面があります。
・フランスの順位が大幅に低下したのは、国内治安の悪化によると思います。
・北朝鮮と休戦状態にある韓国は、事前の予想ではもっと順位が低いかと思っていたのですが、先進国と同水準です。
・それ以外のパキスタン、ナイジェリアといった国々が低い理由については、前回は国力に比べて軍備を増やし過ぎているためかと思ったのですが、むしろ治安の悪さが影響しているのかもしれません。
日本の明らかな欠点である男女間格差、ジェンダーの問題については、前回は2種類の指標を挙げて比較しましたが、今回はジェンダー・ギャップ指数(GGI)のみを取り上げます。
d.ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index, GGI)(2023年、146か国、世界経済フォーラム)
経済・教育・政治参加などの分野で世界各国の男女間の不均衡を示す指標
順位 国名 2023年 2022年
6 独 0.815 10 0.801
15 英 0.792 22 0.780
18 西 0.791 17 0.788
26 豪 0.778 43 0.738
30 加 0.770 25 0.772
33 メキシコ 0.765 31 0.764
40 仏 0.756 15 0.791
43 米 0.748 27 0.769
49 シンガポール 0.739 49 0.734
57 ブラジル 0.726 94 0.696
59 バングラデシュ 0.722 71 0.714
75 エチオピア 0.711
79 伊 0.705 63 0.720
83 イスラエル 0.701 60 0.727
87 インドネシア 0.697 92 0.697
105 韓国 0.680 99 0.689
107 中国 0.678 102 0.682
125 日 0.647 116 0.650
127 インド 0.643 135 0.629
130 ナイジェリア 0.637 123 0.639
142 パキスタン 0.575 145 0.564
(注) 取り上げた国の数は146か国で、前回と同じ。ロシア、台湾、香港、北朝鮮は含まれない。
・日本はもともとかなり低いのですが、前回と比べてもむしろ少し悪化しています。
ただ、日本よりバングラデシュやエチオピアが上にあるからといって、それらの国々の女性が日本の女性より恵まれているわけではありません。
これはあくまでもそれぞれの国において男女間の不均衡の程度を表すものです。
それでも、女性が虐げられていることで有名なインドとほとんど変わらないというのはなんだかなぁ・・・
・日本は別格(^^;)として、他のG7諸国をみると、イタリアが下から2番目となっています。
★ 今日7月22日(月)は二十四節気の一つ大暑(たいしょ)。今日から立秋の前日までは一年中で最も暑い時期とされ、理科年表のデータもそれを裏付けます。一日の最高気温が35℃以上の猛暑日、一日の最低気温(夜明け前)が25℃以上の熱帯夜のダブルパンチが続きます。寝る前に空調を切って寝ると、寝苦しくて夜中に目を覚まし、結局また空調を入れることに。だんだん体が参ってきます。皆さん、頑張ってこの夏を乗り切りましょう。