中秋の月を待つ漢詩など | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

 裁錦會詩草 第306回(2023年11月開催)から。

 旧七帝大の卒業生を会員とする学士会の「學士會会報」第965回 2024-Ⅱp.103に掲載されたものです。

 今回取り上げるのは、秋の月を詠った漢詩二編です。

 

 

 >         技風 鬼頭 國二

  月下吟     月下吟

 庭院新涼風露淸 庭院 新涼 風露 清し

 桂花馥郁百蟲聲 桂花 馥郁 百虫の声

 今宵相會酒詩侶 今宵 相会す 酒詩の侶

 一詠一觴邀月明 一詠一觴 月明を(むか)

 

 七言絶句です。

 韻は、淸聲明が下平声八庚。eng という音だと思います。

 

 鬼頭國二さんは、1987年に名古屋大学で工学博士を取っていて、国立国会図書館に「電力供給信頼度向上のための新しい碍子の開発」という博士論文がデジタルで収録されています。

 ただ、同名の論文が1958年に「鬼頭国二」名でその分野の民間企業の雑誌に掲載されているので、相当のお年と推測されます。

 

 難しい漢字もあるので、先に読み下し文の読みを示します。間違いがあれば、ご教示ください。

 「  げっかぎん

 ていいん しんりょう ふうろすがし

 けいか ふくいく ひゃくちゅうのこえ

 こよい あいかいす しゅしのりょ

 いちえいいっしょう げつめいをむかう 」

 

 題名の月下吟とは、月の下で詩歌を詠む意。

 庭院(ていいん)は、建物内の庭、中庭のこと。

 桂花は、木犀(もくせい)の花のことで、花期は9~10月。

 中国の伝説では、桂樹は月にあるという高い理想を表す木です。日本の桂(かつら)ではありませんが、万葉集の時代から混同されてきました。

 馥郁(ふくいく)は、よい香りが漂っているさま。

 侶(りょ)は、仲間、友だちのこと。

 觴(しょう)は、さかずきのこと。

 

 それでは拙訳です。

 「  月下に詩を詠む

 庭もようやく涼しくなってきて、風も露も清々しい

 モクセイの花は良い香りを漂わせ、たくさんの虫の声が聞こえる

 今宵、酒と詩の仲間と会合をもった

 詩の一節を口ずさむごとに一杯ずつ酒を飲み、明るい月に向かい合う 」

 

 

 >         恭堂 高津 有二

  中秋月待    中秋 月を待つ

 涼風蕭瑟絳河悠 涼風 蕭瑟 絳河悠かなり

 獨坐東窓灝氣流 独り東窓に坐せば 灝気流る

 尚待嬋娟淸夜興 尚お待つ 嬋娟 清夜の興

 一輪晧月十分秋 一輪の晧月 十分の秋

 (註) ○絳河…天の川。○灝氣…秋の大気。○晧月…明るく輝く月

 

 これも七言絶句です。

 韻は、悠流秋が下平声十一尤。iu の音だと思います。

 

 結句は、一輪晧月と十分秋という数字を含む言葉を対比しています。

 

 高津有二さんについて分かっているのは、神奈川県で漢詩サークルの活動をされていることくらいです。

 

 これも先に読みを示します。

 「

 りょうふう しょうしつ こうがはるかなり

 ひとり とうそうにざせば こうきながる

 なおまつ せんけん せいやのきょう

 いちりんのこうげつ じゅうぶんのあき 」

 

 蕭瑟(しょうしつ)は、秋風が寂しく吹くさま。

 絳の字は「こう」と読み、赤いという意味です。

 なぜ天の川が「赤い川」になるのかは分かりません。

 嬋娟(せんけん)は、容姿のあでやかで美しいさま。

 十分(じゅうぶん)の秋は、「すっかり秋になった」という意に解しました。

 

 それでは拙訳です。

 「

 涼しい風が寂しく吹き、天の川もはるか彼方に見える

 ひとり東の窓際に座れば、秋の気配が漂う

 それでもまだ待っているのは、清い夜の美しいたわむれ

 明るく輝く月が昇ってくるのを見れば、もうすっかり秋になったことを感じる 」

 

 

 どちらも月を詠んだ良い詩だと思います。

 季節がちょうど半年もズレていなければもっと良かったのですが、仕方ありませんね。

 

 なお、次の記事(昨年)で鬼頭、高津御両人のやはり月の詩を取り上げています。

 ラマヌジャンの漢詩ほか | 宇宙とブラックホールのQ&A (ameblo.jp)

 

 

 ★ 昨日3月14日(木)、用事で新宿に行ったついでに、映画『ゴールデン・カムイ』を観てきました。野田サトルの漫画(集英社週刊ヤングジャンプ連載)が原作で、TVアニメ化もされていますが、この映画自体は実写です。明治30年(1897年)、日露戦争二〇三高地戦の生き残りである「不死身の杉本」とアイヌの娘アシリパが雪の北海道で出会い、隠された埋蔵金を探し求める冒険が始まります。敵は、北海道征服を求める陸軍第七師団の鶴見中尉ら、そして新選組の生き残り土方歳三らであり、三つ巴の戦いとなります。主人公の杉本役に山崎賢人、ヒロインのアシリパ役に山田杏奈、鶴見中尉役に玉木宏、土方歳三役に舘ひろしなど。お勧めしたい映画です。

 

 ★★ 今日のロジバン 不思議の国のアリス172

   ni’o «lu .ei do ckeji —sei la .alis. cu cusku—

  [新段落] 「恥を知りなさい」とアリスは言いました。

 .ei : 義務。義務/当然だと見なす気持。心態詞(命題態度)UI1類

 ckeji : 恥ずかしさ/引け目を感じる,x1は x2(事)について x3(公衆)に対する。-kej-, -cke-

 

 アリスが泣いている自分自身に説教するシーンの出だしです。

 lu で始まるアリスの発言がこの後しばらく続きます。

 主述語は ckeji で、そのx1が2人称 do 、その前に心態詞が付いています。

 sei 以降は挿入部分。

 出典は、

 lo selfri be la .alis. bei bu'u la selmacygu'e (lojban.org)

 

 ロジバンも書き溜めた分がなくなったので少しお休みしましたが、また再開します。