目次
1.三段論法とは?
2.ラテン語による記憶法
3.現代の述語論理の立場から
4.三段論法すべての現代的表現
1.三段論法とは?
三段論法syllogism とは、伝統的な論理学において認められてきた、3つの命題からなる正しい推論の一種です。
三段論法を最初に考案したのは、「万学の祖」アリストテレスです。
アリストテレスの『オルガノン』とは彼の論理学関係の著作を総称したものですが、『オルガノン』に含まれる『分析論前書』と『分析論後書』に三段論法が載っています。
早速、例を見ましょう。
すべての人間は死すべきものである。
すべてのギリシア人は人間である。
ゆえに、すべてのギリシア人は死すべきものである。 ・・・ (1)
これは正しい推論です。
初めの2つの命題から最後の命題が導かれます。
3つの命題の最初のものを大前提、2番目を小前提、3番目を結論といいます。
3つの命題は、いずれも主語と述語からなります。 (ここでは述語も名詞をとる概念です。)
主語と述語を結び付けるのは、印欧語族の言語では繋辞(けいじ)、copula(コピュラ、コプラ)と呼ばれる単語です。
繋辞の「繋」は、主語と述語の間に入って両者を「つなぐ」働きを意味します。
英語では、be動詞がそれに当たります。
ただ、日本語では「である」が間ではなく最後に来ますし、また助詞の「は」も必要なので、まったく同じようには考えられませんね。
先の例では、各命題の主語と述語として3つの概念が登場します。
人間、死すべきもの、ギリシア人
結論の主語となる概念を小概念、結論の述語となる概念を大概念といいます。
大前提と小前提だけに出てきて結論に出てこない概念を媒概念といいます。
小概念、大概念、媒概念を、それぞれS,P,Mという記号で表します。
大前提と小前提の決め方は、大概念が含まれる命題を大前提、小概念が含まれる命題を小前提とします。
別の例を挙げます。
あるクレタ人は嘘つきでない。
すべてのクレタ人は人間である。
ゆえに、ある人間は嘘つきでない。 ・・・ (2)
これも正しい推論です。
(1)と(2)を比べると、主語に「すべての」が付く命題と「ある」が付く命題の2種類が存在することが分かります。
また、「である」で終わる命題と「でない」で終わる命題の2種類が存在することも分かります。
「すべての」を全称、「ある」を特称といいます。
「である」を肯定、「でない」を否定といいます。
そうすると、それぞれ2種類ずつあるので、組合せは2×2=4通りです。
全称肯定、 全称否定、 特称肯定、 特称否定
ラテン語の肯定”affirm”、否定”nego” の母音から、4つの組合せに次のような記号が付けられています。
記号 名称 形態
A 全称肯定 すべてのSはPである
E 全称否定 すべてのSはPでない
I 特称肯定 あるSはPである
O 特称否定 あるSはPでない
肯定 否定
全称 A E
特称 I O
さて、記号が出揃ったので、例示に出した2種類の三段論法を記号で表示してみましょう。
例(1)は、次のようになります。
MaP,SaM ⇒ SaP
伝統的論理学では ⇒ という記号を使っていませんが、ここでは分かりやすさを優先しまして、推論における前提と結論の間に ⇒ を挿入します。
⇒ という記号の左側が前提、右側が結論です。
各命題については、主語と述語の間の繋辞の位置に aeio を小文字で挿入するわけです。
3命題とも全称肯定なので、a が入ります。
例(2)は、次のようになることをご確認ください。
MoP,MaS ⇒ SoP
逆に、上に挙げた形式であれば、S,P,Mがどんな概念であっても内容の如何を問わず推論が成立するわけです。
「形式」論理学たるゆえんです。
ただし、三段論法の形をしていてもすべてが正しいわけではなく、正しいものとそうでないものがあります。
伝統的論理学では、三段論法のうち正しいものを19種類選び出し、それらに名称を付けるとともに、分類を行いました。
三段論法の大前提は、大概念Pと媒概念Mからなるので、次の2種類のいずれかです。
M-P, P-M
また、小前提は、小概念Sと媒概念Mからなるので、次の2種類のいずれかです。
S-M, M-S
そうすると、2×2=4通りの組合せができます。
その組合せにより、4つの格が設定されます。
それぞれの格とそれに属する三段論法の数は、次の通りです。
第1格 M-P,S-M ⇒ S-P 4種類
第2格 P-M,S-M ⇒ S-P 4種類
第3格 M-P,M-S ⇒ S-P 6種類
第4格 P-M,M-S ⇒ S-P 5種類
例(1)は第1格、例(2)は第3格であることが分かりますね。
詳細は第2節で紹介します。
ただ、19種類のうち、後で説明するように現代論理学の立場からはそのままでは認められないものが計4種類あります。
これまでに出てきた用語の英語も載せておきます。
大概念 : Major term
小概念 : Minor term
媒概念 : Middle term
大前提 : Major premise
小前提 : Minor premise
結論 : Conclusion
A全称肯定 : Universal Affirmative
E全称否定 : Universal Negative
I 特称肯定 : Particular Affirmative
O特称否定 : Particular Negative
--------------- 続 く ---------------
★ 今日のロジバン さまざまな表現
同じ意味のことを縛位詞や関係詞を使ったさまざまな表現で表すことができます。
これは建物を洗う機械だ。
1 ti dinju lumci minji 「ティ ディンジュ ル゚ㇺシ ミンジ」
2 ti lumci be lo dinju be’o minji 「ティ ル゚ㇺシ ベ ロ゚ ディンジュ ベホ ミンジ」
3 ti me lo minji poi ke’a lumci lo dinju
「ティ メ ロ゚ ミンジ ポイ ケハ ル゚ㇺシ ロ゚ ディンジュ」
4 ti minji lo nu lumci lo dinju 「ティ ミンジ ロ゚ ヌ ル゚ㇺシ ディンジュ」
dinju : 建造物だ,x1は x2(目的)のための
lumci : 洗う,x1は x2の汚れx3を x4(洗浄剤/用具)で
minji : 機械だ,x1は x2(機能/用途)の
me : 後ろに続く体言を述語に変換する
1は内容語の列(tanru)、2は縛位詞 be と終止詞 be’o、3は関係節をそれぞれ使っています。
3では、関係節が付くのは体言でなければならないので、冠詞 lo を付けていったん体言にして関係詞を付けてから、me を付けて述語にしています。
4は、minji がx2として命題をとっています。
出典は、20. 縛位詞(BE, BEI類) - はじめてのロジバン第2版 (cogas.github.io)