はやぶさ2とチバニアンの漢詩 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

裁錦会詩草 第285回(2020年5月開催)から。

 旧七帝大の卒業生を会員とする学士会の「學士會会報」第944回 2020-Ⅴ p.118~121に掲載されたものです。

 裁錦会詩草は、例会を東京神保町の学士会館で開催しているようですが、新型コロナウイルスの影響で3月に続き5月の例会も開けず、幹事を中心に大量のメールと郵送のやり取りを繰り返して、今回の作品をまとめたということです。

 また、掲載された22作品のうち過半数の12作品が直接間接にコロナを詠んだものです。

 

 今回は、はやぶさ2とチバニアンに関する漢詩を取り上げます。

 

 

 まず竹中淑子さんのはやぶさ2を詠んだ詩です。

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   宇宙船隼發龍宮  玉理 竹中淑子

 海媛匆呈一玉箱  海媛 (いそ)ぎて呈す 一玉箱

 無言何事促行裝  言無く 何事ぞ 行装を促す

 内蔵土塊證生命  内蔵の土塊 生命を(あか)さん

 待望帰程幾許長  待望の帰程 幾許か長き

 (註)海媛は、乙姫さま。行装は、旅じたく。

 (補説)小惑星探査機「はやぶさ2」は小惑星「リュウグウ」の地下のサンプル採取に成功し、昨年11月地球への帰途についた。その採集物には生命の起源に通じるものが含まれているかもしれない。はやぶさ号の快挙を、日本の昔話、竜宮の乙姫さまから浦島太郎に玉手箱が渡された話に擬した。

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 七言絶句です。

 韻は、裝と長が下平声七陽。

 “ang”という音が日本に入って「アウ」となり、音便で読みが「オー」、現代表記「オウ」に変化したのだと思います。

 

 JAXAの小惑星探査機はやぶさ2は2014年12月種子島宇宙センターから打上げ。

 小惑星リュウグウに2018年6月到着。

 2回の軟着陸に成功するなどの成果を上げた後、2019年11月にリュウグウを離れて帰還開始。

 今年2020年12月6日に地球に帰還しサンプルの入ったカプセルをオーストラリアの砂漠に落とした後、本体は再び別の小惑星を目指す予定。

 

 意味は補説で分かるとして、読み方ですが、 海媛は「かいえん」。

 一玉箱の読み方が分かりません。

 難しい漢字はないのに(T T

 行装は「こうしょう」だと思います。

 幾許は「いくばく」。

 

 前半は浦島太郎伝説に基づき、後半ははやぶさ2の実際の行動に沿った表現と解釈しました。

 

 それでは、例によって拙い意訳です。

   宇宙船はやぶさ、リュウグウを()

 乙姫さまはなぜか玉手箱を急いで手渡し

 言葉もなく、帰りをせかした

 (はやぶさ2が)内蔵した(リュウグウの)土塊は、生命の起源を明らかにするかもしれない

 待ち望まれているその帰還は、一体どのくらいの時間がかかるのだろうか

 

 竹中淑子さんの漢詩は、これまで6作品取り上げています。

 9.「重力波報道夜」

 14.「黎明に天空の珍事を観る」

 15.「太陽系外天体の初飛来」

 19.「はるかに七夕の星を想う(緬想七夕星)」

 23.「地球外生命(エイリアン)」

 26.「宇宙往還牽牛花」 宇宙朝顔の漢詩

 これまで掲載した漢詩一覧:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12589872784.html

 また、竹中さんのプロフィールについては、14の後半で詳しくご紹介しています。

 

 

 次は、竹内淳実さんの、地質時代名にチバニアンが採用されたという漢詩です。

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   更新世千葉期(チバニアン)  常春 竹内淳実

 養老懸崖海底層  養老の懸崖 海底の層

 造山鑿谷只今呈  山を造り谷を鑿ち只今(あらわ)

 是方人類創世紀  是れ方に人類創世の紀

 温故探渓別緒縈  (ふるき)(たず)ね渓を探れば別緒縈る

 (補説)第四紀更新世中期12万9000~77万4000年前の代表的地層として千葉県養老渓谷にある地層が選ばれ、「チバニアン」と命名された。ホモサピエンス誕生の時期を含むという。

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 これも七言絶句です。

 韻は、呈と縈が下平声八庚。

 “eng”という音が日本に入って「エイ」となったのだと思います。

 

 地質時代の新生代更新世はさらに4つに分けられますが、そのうち新しい方から2つ目がチバニアンChibanianで、「千葉時代」の意。

 2020年1月、国際地質科学連合IUGSが決定しました。

 チバニアンの年代については、英文wikiには補説の通りの数字が載っていますが、日本語wikiは少し異なる数字です。理由は不明。

 

 懸崖(けんがい)は、切り立ったがけ。

 「鑿ち」は「うがち」。

 「只今」は「ただいま」。

 「是れ方に」は「これまさに」。

 別緒は「べつしょ」と読んで、他と異なる物事の始まりを意味するのだと思います。あまり自信はありませんが。

 縈は音読みが「エイ」、訓読みが「めぐる」「まつわる」で、この場合は「めぐる」かと。

 

 それでは、いい加減な意訳です。

  養老渓谷の切り立った崖に、海底でできた地層

  山を造り谷をうがち、現代になってあらわれた

  これはまさに人類が誕生した時代の地層だ

  昔の出来事を知ろうとして渓谷を探り、ここにしかない糸口をめぐる

 

 竹内淳実さんの漢詩はこれまでに3作品取り上げています。

 5.竹内 淳実 「惑星探査機 隼」

 12.竹内 淳実 「憶星天 入律古風」 重力波の初観測の詩

 20.竹内 淳実 「オーロラを古書に見る(極光見古書)」

 番号は先に挙げた「これまで掲載した漢詩一覧」の掲載順です。

 竹内さんについては、5の最後で簡単にご紹介しています。(ご経歴などは分かりませんでした。)