圏の構成1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12613083607.html
--------------------------------
6 スライス圏と余スライス圏
圏C とその対象cが与えられたとき、スライス圏(slice category) C /c あるいはcの上のC の圏とは、
・対象が、C の任意の対象xからcへの射 f :x→c,
・射が、C の射の3つ組 (f, g, h) で次の可換図式をみたすもの
です。
h f =g〇h.
x――→y
f ↘ ↙g
c
・対象 f:x→c の恒等射は、1f = (f, f, 1x) となります。
・射の合成は、次のようになります。
h k (g, j, k) 〇 (f, g, h) = (f, j, k〇h).
x → y → z
f↘ ↓g↙j
c
スライス圏 C /c からC への域関手 dom が存在します。
dom : C /c→C ; f|→x,(f , g, h) |→h.
ただし、 f:x→c とします。
C の対象 c,d,射 j:c→d に対して、
スライス圏 C/c から同 C /d への関手 C/j :C/c→C/d が存在し、
・C /c の対象 f:x→c を C/d の対象 j〇f に写し、
・C /c の射 (f, g, h) を C /d の射 ( j〇f, j〇g, h) に写します。
C /j :C /c→C /d; f|→ j〇f,(f, g, h) |→(j〇f , j〇g, h).
対象 f|→ j〇f.
x
f↓↘ j〇f
c → d
j
射 (f, g, h) |→ (j〇f , j〇g, h).
h h
x → y x → y
f↓ ↙g j〇f ↘ ↓j 〇g
c → d c → d
j j
小圏全体からなる圏を Cat と表しました。
小圏C から小圏の圏 Cat への関手 C /― : C → Cat は、
・C の対象cを小圏の圏 Cat の対象 C/c に写し、
・C の射 j:c→d を Cat の射 C/ j :C /c→C /d に写します。
C /― : C → Cat ; c|→C /c,( j:c→d) |→ (C/j :C /c→C /d).
圏C とその対象cが与えられたとき、余スライス圏(coslice category) c/C あるいはcの下のC の圏とは、
・対象が、cからC の任意の対象xへの射 f:c→x,
・射が、C の射の3つ組 (f, g, h) で次の可換図式をみたすもの
です。
c g=h〇f .
f ↙ ↘ g
x――→y
h
余スライス圏の恒等射、射の合成などは省略します。
余スライス圏 c/C からC への余域関手 cod が存在します。
cod : c/C→C ; f|→y,(f, g, h) |→h
・点付き集合の圏 Set*と 1 の下の集合の圏 1/Set は、自然同型である。
証明:1={*}とする。
関手 Set*→ 1/Set : (X, a)|→ f ,h’|→( f , g, h).
ただし、 f:1→X;*|→a, h:X→Y;a|→b, h': (X, a)→(Y, b),
g:1→Y;*|→b, a∈X, b∈Y.
この関手は全射かつ1対1対応なので、同型である//証明終
(X, a) a ∈ X ↖ f
h'↓ ←→ ↓ h ↓ 1={*}
(Y, b) b ∈ Y ↙g
in Set* in 1/Set
7 一般射圏(コンマ圏)
最後にご紹介するのは、一般にはコンマ圏と呼ばれているものです。
ただ、コンマ圏という名称は記号から付けられただけで、非概念的つまり内容を表さないので、ここでは西郷甲矢人さんに従って一般射圏と呼ぶことにします。
(西郷さんは一般射圏の上に「コンマ」という振り仮名を振っていますが、何だかなぁー)
3つの圏C ,D,E と2つの関手F :C →E,G :D→E に対して、一般射圏 F ⇒G あるいはコンマ圏(comma category)は、次のように定義されます。
・対象は、C の対象x,D の対象y,E の射 f:F x→G y の3つ組 (x, f, y) 全体の集合、
・射 (x, f , y)→(x', f ', y') は、 f '〇F g=G h〇 f をみたす g:x→x',h:y→y' の対 (g, h) 全体の集合
図示すると、
対象 (x, f , y) f
F x→G y in E
射 (g, h) : (x, f , y)→(x', f ', y')
f
x F F x → G y G y
↓g → F g↓ ↓G h ← h↓
x’ F x' → G y' y'
f '
in C in E in D
一般射圏 F ⇒G からC とD への関手が存在して、4つの関手からなる次の可換図式が成り立ちます。(→はいずれも関手)
(F ⇒G )→ D
↓ ↓G
C → E
F
(F ⇒G )→C ; (x, f, y) |→x,(g, h) |→g.
(F⇒G)→D;(x, f, y) |→y,(g, h) |→h.
また、関手 (F ⇒G )→C →E と関手 (F ⇒G )→D→E の間に自然変換が存在します。
(F ⇒G )→C→E ; (x, f, y) |→F x,(g, h) |→F g.
(F ⇒G )→D→E ; (x, f, y) |→G y,(g, h) |→G h.
自然変換は、(x, f, y) |→ ( f:F x→G y) となります。
・スライス圏は、一般射圏の特殊な場合です。
関手 1→C :*|→c は、C の対象cとみなすことができました。
いま、C の対象cについて、一般射圏 (1C ⇒c) を次の図式にしたがって考えます。
(1C ⇒c)→ 1
↓ ↓c
C → C
1C
ここで、1C はC の恒等関手です。
f: x→c とすると、一般射圏 (1C ⇒c) の対象は (x, f, *) となり、これは f と同一視できます。
射については、くたびれてきたので省略します(^^;
8 おわりに
矢印の絵(可換図式)全開で、圏論らしい気持ちのいい記事になりました(^_^
(文字装飾に相当手間取りましたが。)
もともとは、「「現代思想2020/7」圏論特集」の書評を書いた際、「15 圏論による現象学の深化」については 詳細を別稿で取り上げるとしたのですが、その理解に不可欠であるスライス圏の紹介がまだであることに気づきました。
ところが、スライス圏は一般射圏の特殊な場合であり、後者まで取り上げるのであれば、この際「圏の構成」全般について書いてみようかという気になったわけです。
「圏論の簡単な入門」の最後で、続きは「極限、一般射圏(コンマ圏)、圏の同値、随伴、米田の補題、トポスくらいまでは展開するんでしょうね」と書きました。
今回、「一般射圏(コンマ圏)」を取り上げたので、次は極限・余極限か随伴のどちらかを取り上げたいと思います。
期待しないで乞うご期待!?
圏論関係の書評・記事のまとめ:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12609720363.html