読売新聞2019年12月10日(火)
歌壇
栗木京子 選
ネットには仮想空間広がれり別の地球と言う人のあり
(秋田市) 斉藤 敏也
・こういう見方ができるというのは、ご本人はあまりネットに接しておられないのかもしれません。
毎日新聞2019年12月10日(火)
歌壇
加藤治郎 選
公式で埋まる黒板こっそりと放課後きみは星座に変える
(東京) 嶋村 純
・恋の歌。数学の公式でしょうか。それを星座に変える恋人たちに拍手。
宇宙の話をするときは誰だって自分を光と錯覚している
(福岡市) 植木 滉
・実感として何となく分かるような気がして、でもやっぱり全然分かりません(^^;
篠弘 選
月の夜も書痙(しょけい)の指は強張(こわば)りて乱れにみだる日記の文字は
(玉野市) 松本 真麻
・書痙は、文字を書く身にとって最大の敵でしょう。それでも、日記をつけておられる作者に敬服します。
伊藤一彦 選
四万十や人がなしたるネットなく銀河なしたるネット息衝く
(須崎市) 野中 泰佑
・日本最後の清流と言われる四万十川の上に広がる、天の川が見えるほどの夜空。インターネットと銀河とを同じネットとして対比しているのが面白いです。
生物の系統樹中の一枝は太るか細るか突如消えるか
(神奈川) 中島 やさか
・突如消える枝が増えつつあるという危機感。
朝日新聞2019年12月8日(日)
俳壇
高山れおな 選
松島にのこる朝月翁の忌 (千葉市) 相馬 詩美子
・翁忌は松尾芭蕉の忌日で、陰暦10月12日。昨年は新暦11月8日、月齢11なので、月は朝にはすでに沈んでいたはずです。以前訪れた思い出に基づいてつくり、この時期に投句されたのかもしれません。
毎日新聞2019年12月2日(月)
片山由美子 選
星月夜森にゴッホの美術館 (羽曳野市) 池川 晴美
・ゴッホ美術館はオランダ・アムステルダムにありますが、この句は、東京上野の森美術館で昨年10月11日~今年1月13日まで開催されているゴッホ展を詠んだものかと。作者は大阪府在住なので、違っていたらごめんなさい。
読売新聞2019年12月2日(月)
俳壇
宇多喜代子 選
天に天狼地に狼を祀る村 (神戸市) 北條 幸夫
・選者評:今や日本にはいないとされる狼(おおかみ)。かつて居た狼を祀(まつ)る伝承が日本の各所にある。作者もそれを思いながら空の天狼(てんろう)を仰いだのだろう。
・天狼と称されるシリウス。冬の夜空を代表する1等星です。
歌壇
小池光 選
十等分私のケーキ小さいけど楽しかったよお月見の晩
(羽曳野市) 鎌田 靖子
・選者評:十等分というからには家族が十人もいたということだろう。核家族化して、こういう家族のあり方が失われた。貧しくても、あのころ楽しかったよ。しみじみ懐かしい。
朝日新聞2019年12月1日(日)
歌壇
永田和宏 選
「死刑になってもいい」そういうことでない放火殺人容疑者の罪
(神戸市) 安川 修司
・選者評:京アニ事件の容疑者の言葉だが、「そういうこと」ではないとは誰しもの思い。
俳壇
大串章 選
手のとどく盥(たらい)の月を掬(すく)ひけり (茨城県阿見町) 鬼形 のふゆき
・月には手が届きませんが、確かに盥の月には手が届きます。それにしても、「盥」という文字は読むのがやっとで、一生書けるようにはなれそうもありません。
風信
佐佐木定綱歌集『月を食う』 角川短歌賞受賞者の第1歌集。330首。(角川書店・本体2200円)
ぼくの持つバケツに落ちた月を食いめだかの腹はふくらんでゆく