太陽系外縁天体の衛星は巨大天体衝突で形成 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

太陽系外縁天体の衛星は巨大天体衝突で形成された可能性

アストロアーツ72日付記事、元は東工大です。

http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10704_tno_moons

 

概要>冥王星など太陽系外縁天体の大きな衛星は、巨大天体衝突によって太陽系初期に形成された可能性が高いことが、数値シミュレーションによる研究で示された。

 

太陽系外縁天体とは海王星軌道以遠を公転する天体のことで、英語では"transneptunian objects"、略して"TNO"といいます。

英語と日本語で、海王星以遠天体と太陽系外縁天体という違いがあるわけです。

 

>太陽系外縁天体のうち冥王星やエリス、ハウメアなど直径1000km以上の天体にはすべて衛星が見つかっている。衛星の質量は中心天体の約10分の1から1000分の1と大きく(太陽系の惑星の衛星の質量は、月を除いてほとんどが主星の1万分の1未満)、軌道はほぼ円形であることがわかっている。

 

冥王星は皆さまご存知の通り惑星から準惑星に「降格」された天体ですが、エリスとハウメアも冥王星と同じ準惑星です。

衛星の数は、冥王星が5、エリスが1、ハウメアが2です。(wikiによる)

準惑星は今のところ全部で5つあり、残りの2つはケレスとマケマケです。

ケレスは太陽系外縁天体ではなくずっと内側を回るメインベルト天体ですが、太陽系外縁天体でありかつ直径1000km以上という条件もみたすマケマケについては衛星が1つ発見されています。

 

「太陽系の惑星の衛星の質量は、月を除いてほとんどが主星の1万分の1未満」とありますが、例外とされる月の質量は主星である地球の1.2%程度です。

また、冥王星最大の衛星カロンの質量は冥王星の12%程度なので、約10分の1です。

ちなみに、カロンはギリシア神話で三途の川に相当する川の渡し守で、ギリシア語の綴りはΧαρων、英語ではCharonです。

 

ここで、アストロアーツ掲載の上の画像をご覧ください。

「直径1000km以上の太陽系外縁天体とその衛星」のイラストです。

これまで出てきていなかった外縁天体は、2007OR10とクワオアーの2つで、衛星の数はどちらも1つです。

カロンを除き、衛星たちの名前を覚える意義はないと思います。

なお、ハウメアが卵のような形状をしているのが目につきますね。

 

>これらの衛星がどのように形成されたのかはよくわかっていないが、冥王星とその最大の衛星カロンについては、地球の月と同様に巨大天体衝突によって形成されたという説が提唱されている。そこで東京工業大学の荒川創太さんたちの研究グループは、冥王星とカロンの衛星系以外も巨大天体衝突によって形成されるかどうかを数値シミュレーションで調べた。

 

主星と比べて質量が例外的に大きい地球の月と冥王星のカロンは、ともに巨大天体衝突で形成されたという説が有力なのですね。

では、それ以外の衛星の起源はどうなのか。

 

荒川創太さんは、東工大の学部、修士課程を経て、20174月以降東工大理学院地球惑星科学系博士課程在籍。

ホームページはこちら。

http://www.geo.titech.ac.jp/lab/nakamoto/arakawa/cv_ja.html

 

>荒川さんたちはまず、天体衝突の速度や角度、衝突前の2つの天体の組成や質量比などを様々に変化させたシミュレーションを行った。そして、衝突速度が脱出速度程度と小さく、衝突角度が約45度以上のかすり衝突の場合には衛星が形成されることを明らかにした。この結果は天体の分化状態や組成、質量といった条件などには依らないが、衝突の速度や角度によって衛星の質量が変わり、観測されている衛星の質量比も再現される。

 

観測されている衛星の諸データが再現できるのであれば、シミュレーションは成功したといってよいでしょう。

 

>次に研究グループは、巨大天体衝突後に形成された衛星について潮汐による軌道進化を計算し、どのような場合に現在の衛星や中心の天体の自転・公転周期や離心率が説明できるのかを調べた。このシミュレーションでは、潮汐の大きさが天体の溶融状態によって変化するという条件を取り入れ、衝突後にある程度の時間が経過したところで溶融していた天体が冷却され固化するという過程を考慮している。

 

一口に天体の溶融といっても、素人考えでは組成が水の氷か岩石か金属かで全然違ってくると思うのですが、組成には依存しないという結論なのですね。

 

>計算の結果、衛星系を構成する2つの天体が衛星形成後すぐに固化していた場合は離心率が上昇してしまうため、観測を説明できないことが示された。一方、衛星系の天体が衛星形成後の数万年から数百万年の期間だけ溶融していた場合には、自転・公転周期と離心率の両方を説明できる。

 

離心率というのは、衛星の楕円軌道が真円から外れている割合です。

離心率が小さいということは、楕円があまり細長くないことを意味します。

 

>巨大天体衝突や潮汐による加熱量の見積もりから、直径1000kmサイズの太陽系外縁天体が衛星形成後に溶融していたとすれば、巨大天体衝突以前から溶融していたはずであることがわかる。さらに、このサイズの天体が溶融するためには、太陽系の初期数百万年以内に形成されなくてはならない。この「巨大天体衝突が太陽系初期の数百万年程度で発生する」という仮説はちょうど、「衛星を形成する巨大天体衝突の衝突速度は小さい」という数値シミュレーションから得られた制約と整合している。

 

「巨大天体衝突が太陽系初期の数百万年程度で発生する」という仮説と、「衛星を形成する巨大天体衝突の衝突速度は小さい」という制約とがセットで得られたわけです。

40数億年前起こったことを推測できてしまうシミュレーションの威力に、今更ながら驚かされます。

 

ここで、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。

左上が「巨大衝突の数値シミュレーション」の図解で、巨大衝突直後、2日後、12日後を対比しています。

左下が「形成された衛星の潮汐による軌道進化」で、形成直後の細長い軌道が現在はより丸くなっています。(離心率が低下)

右側は、横軸に「軌道進化前の離心率」、縦軸に「45億年後(現在)の離心率」をとったグラフで、左の「衛星形成後から常に固化」では離心率がむしろ上昇し、中央の「衛星形成後1000年間溶融」でも実際の離心率ほどは低下しないという結果になり、ともに観測と矛盾します。

右の「衛星形成後100万年間溶融」の場合には、潮汐による軌道進化で離心率が低下し、観測と整合的です。

 

>これらのことから、太陽系外縁部に離心率の小さい衛星が普遍的に存在することは、海王星以遠においても直径1000kmサイズの天体が太陽系初期に形成され、そうした巨大天体が溶融した状態で衝突して衛星が形成された可能性を示唆するものだと言える。今後は衛星の軌道や組成をより詳しく調べ、仮説を検証する必要がある。すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡などによる太陽系外縁天体とその衛星の観測から、今後太陽系の姿が明らかになっていくことが期待される。

 

太陽系形成史の謎の解明が、また一歩前進したわけですね。

すばるやアルマによる検証に期待しましょう。