銀河団の高温ガスの組成 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

・銀河団と太陽で同じ化学組成、高温ガスが語る超新星爆発の歴史
アストロアーツ2017年11月15日付記事、元はJAXA宇宙科学研究所とNASAです。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9517_perseus

概要>X線天文衛星「ひとみ」の観測から、ペルセウス座銀河団中心部の鉄属元素の組成比が太陽と同じであることが明らかになった。銀河団の高温ガスの元素組成比は太陽の値と異なるとする従来の説を覆す研究成果だ。

X線天文衛星「ひとみ」は、昨年2016年2月17日にJAXAが打ち上げましたが、3月26日の運用開始時に電波を正常に受信できず、その後回転異常により分解したことが確認されました。
原因は、複数の設定ミスです。
日本が誇ってきたX線天文学の輝かしい伝統とJAXAの宇宙開発技術の歴史に大きな汚点を残したことになります。
詳しくは、以下の記事をどうぞ。
X線天文衛星「ひとみ」の安否は?:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/69257888.html
「ひとみ」の状況:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/69305117.html
「ひとみ」の運用断念ほか:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/69325692.html

ところが、本格運用はできなかったのものの、壊れるまでのわずかな期間に観測したデータを使って研究が行われていたというのですね。

>数百個から数千個の銀河の大集団である銀河団には、全体に広がる数千万度もの高温ガスも存在している。この高温ガスは、宇宙誕生から現在までに恒星内部や超新星爆発で合成された元素をため込んでいるため、その化学組成を調べると現在の宇宙の平均的な化学組成を知ることができる。

われわれの天の川銀河(銀河系)はせいぜい数十個程度の銀河からなる局部銀河群に属していますが、局部銀河群にはアンドロメダ銀河M31、天の川銀河、さんかく座銀河M33、大マゼラン雲、小マゼラン雲の5つ以外にはチンケな銀河しか属していません。
ところが、宇宙には立派な銀河が数百から一万も集まった銀河団と呼ばれる銀河の大集団が存在します。
われわれに一番近い銀河団は、おとめ座銀河団です。
銀河団を宇宙の繁華街とすれば、われわれは田舎に住んでいるのです(^_^
銀河団は、単に銀河が数多く集まっているというだけではなくて、その内部に「数千万度もの高温ガス」が広がっているのです。
この高温ガスは超新星爆発によって銀河間空間に撒き散らされたものと考えられます。

>X線天文衛星「ひとみ」を開発した国際研究チーム「ひとみコラボレーション」のメンバーである、米・メリーランド大学の山口弘悦さんと東京理科大学の松下恭子さんは、約2億4000万光年彼方に位置するペルセウス座銀河団の中心部を「ひとみ」で観測したデータを解析し、ケイ素からニッケルまでの特性X線の強度から、約5000万度の高温ガスに含まれる元素の組成を導き出した。

天の川銀河の直径が約10万光年、アンドロメダ銀河までの距離が約200万光年ですから、約2億4000万光年彼方というのは銀河にとってもかなり遠い距離です。

>「ひとみ」の軟X線分光検出器のエネルギー決定精度(スペクトルの分解能)が非常に優れているおかげで、これまでの検出器では分解できなかった鉄とニッケルの特性X線の分離や、さらに微弱なクロムやマンガンの特性X線の検出が可能になり、鉄属の元素量を初めて正確に測定することに成功した。

軟X線というのは、X線の中でも波長の長い(振動数の小さい)領域のものです。
特性X線というのは、軌道電子が電子殻の間を遷移するときに出す各元素に特有の輝線スペクトルのうちX線領域のものです。(水素の輝線だとせいぜい紫外線のエネルギーですが、原子番号が二桁である元素の原子核は陽電荷が大きいので、ポテンシャルの井戸が深くなるのでしょう。)

>その結果、銀河団中心部の高温ガスに含まれるケイ素、硫黄、アルゴン、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケルの元素の比がすべて太陽と同じであることが明らかになった。従来の、銀河団の高温ガスに含まれる鉄属元素の組成比は太陽と比べて高いという説と異なる結果である。

大都会と田舎では全然違うだろうと思ったら、似たようなものだった、という驚きの結果です。

>太陽が存在する天の川銀河は渦巻銀河であり、銀河団中心部の主要構成銀河は楕円銀河やS0銀河だ。それらで元素比が同じということは、鉄属元素の主要な生成源であるIa型超新星爆発の性質が母銀河の性質に依存しないことを示唆していると考えられる。

Ia型超新星爆発というのは、恒星進化のなれの果てである白色矮星が超新星爆発を起こすもので、連星の一方が白色矮星になってもう一方の星から流れ込んだガスがその表面に溜まって爆発する場合と、連星のどちらも白色矮星になって衝突合体する場合とが考えられます。
日本の研究者では前者が主体だと考える人が多いようです。

>ところで、Ia型超新星の爆発のメカニズムによって鉄属元素の組成比が異なってくるので、反対に組成比からIa型超新星爆発についての知見を得ることもできる。Ia型超新星爆発は白色矮星の質量が伴星からの物質輸送で増加したり、白色矮星同士が衝突合体を起こしたりして発生すると考えられているが、どの程度の質量で爆発を起こすかによって、マンガンやニッケルと鉄の組成比が変わると予想されているのだ。白色矮星が太陽質量の約1.4倍の質量で爆発すると、マンガンやニッケルと鉄の組成比は太陽と同程度か若干高くなり、より軽い質量で爆発すると組成比は低くなる。

太陽質量の約1.4倍というのは、チャンドラセカール限界と呼ばれる白色矮星の質量の上限で、これを上回るとIa型超新星爆発を起こすとされています。

>ペルセウス座銀河団の中心部で得られた鉄属の組成比が太陽と同じという今回の結果から考えると、銀河団中心部の高温ガスの組成比を再現するには、太陽質量の約1.4倍の質量で白色矮星が爆発するタイプと、もっと軽い質量で爆発するタイプの両方が必要であるということになる。超新星爆発の歴史やメカニズムの理解を深める成果だ。

「もっと軽い質量で爆発するタイプ」というのが分かりません。
太陽質量の約1.4倍に達していなければ爆発しないのではないかと思うのですけど。
私の「理解を深める」努力が必要なようです(^^;

>「ひとみ」は打ち上げから約1か月後に発生した不具合のため運用を終了しており、現在は国内外の協力のもとで後継機の計画が進められている。今回の成果をもたらしたような軟X線分光検出器を搭載したX線天文衛星が実現すれば、元素の生成現場である超新星爆発の残骸や銀河間空間に流れ出す元素、銀河団ガスに含まれる元素までの量を測定することができ、宇宙の化学進化史や物質循環の歴史の解明につながる成果が得られると期待される。

「ひとみ」の後継機については、次の記事をご覧ください。
「ひとみ」後継機:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/69524800.html

わずかなデータからでもこれだけの研究ができるのですから、「ひとみ」がもし順調に運用され観測が継続されたらと思うと、返す返すも残念です。
まあでも、後継機が絶対に失敗しないように計画が進むことを期待しましょう。