小さな群その他2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

小さな群その他1:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471787694.html

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 4.位数5から15までの有限群
さて、本稿の主な目的は「位数15までの有限群を列挙してそれらにある程度慣れ親しむこと」ですが、位数4までのようにひとつひとつ丁寧に見ていくのではなかなか先に進まないので、群論の諸定理を使ってまとめて処理することにします。

・定理4-1 : nが素数のとき、位数nの群は巡回群 Cn の 1 種類である。その部分群は自明な群に限る。
この定理から、15以下の素数位数 2,3,5,7,11,13 の群は、C2,C3,C5,C7,C11,C13 に限ることが分かります。
元の位数は、位数 1 の元が 1 の1個、位数nの元が他のn-1個です。

・定理4-2 : nが3以上の素数のとき、位数2nの群は巡回群 C2n と2面体群 Dn の2種類である。
この定理から、位数6、10、14の群は、C6,D3,C10,D5,C14,D7 に限ることが分かります。
C2n の元の位数は、位数 1 が 1 の1個、位数 2 が an の1個、位数nが a2i (1≦i<n)の形のn-1個、位数2nが残りのn-1個です。
Dn の元の位数は、位数 1 が 1 の1個、位数 2 の元が aib (0≦i<n)の形のn個、位数nの元が ai (1≦i<n)の形のn-1個です。

定理4-3 : nが素数のとき、位数n2 の群は巡回群 Cn2 と Cn×Cn の2種類である。
この定理から、位数 4 と 9 の群は、C4,C2×C2=D2,C9,C3×C3 の4種類に限ることが分かります。
Cn2 の位数 1 の元は 1 の1個、位数nの元がain (1≦i<n)の形のn-1個、位数n2の元が残りのn2-n個です。
Cn×Cn では、位数 1 の元は 1 の1個、位数nの元は残りのn2-1個です。

・定理4-4 : nとmが素数で、n>m、n≡l(mを法として)かつ l≠1 のとき、位数nmの群は Cnm の1種類である。
この定理と次の式から、位数15の群は、C15 に限ることが分かります。
  5 ≡ 2   (3を法として)
Cnm では、位数 1 の元は 1 の1個、位数mの元はaim (1≦i<n)の形のn-1個、位数nの元はain (1≦i<m)の形のm-1個、位数nmの元は残りのnm-n-m+1個です。

さらに、次の定理が成り立ちます。
・定理4-5(中国式剰余定理Chinese Remainder Theorem) : nとmが互いに素(最大公約数が1)のとき、次の同型が成り立つ。
  Cnm Cn×Cm
これにより、C6C2×C3,C10C2×C5,C12C3×C4,C14C2×C7,C15C3×C5 であることが分かります。
以上により位数15以下の群では位数 8 と位数12の群を残すだけとなりました。
ところで、アーベル群については次の定理が役に立ちます。

・定理4-6(有限アーベル群の基本定理) : 任意の有限アーベル群Gは有限巡回群の直積に分解される。
  G Cn1×Cn2×・・・×Cnr

この定理を使うと、8 = 2×4 = 2×2×2 なので、位数 8 のアーベル群は C8,C2×C4,C2×C2×C2 の3種類しか存在しないことが分かります。
これらの群が互いに異なることは、元の位数の最大値が C8 では8(4個),C2×C4 では4(4個),C2×C2×C2 では2(7個)であることから分かります。

次に、位数 8 の非アーベル群としては、2面体群 D4 と四元数群 Q8 が挙げられます。
D4 の元の位数は、位数 1 が 1 の1個、位数 2 が a2,b,ab,a2b,a3b の計5個、位数 4 がa,a3 の2個です。

Q8 では、元 a2=b2 は a とも b とも可換なので、これを-1 と置きます。
また、a= i ,b= j ,ab= i j =k と置きます。
この表記では、 Q8 の元は次のようになります。
  Q8 = {1, a, a2, a3, b, ab, a2b, a3b}
     = {1, i,-1,-i, j, k,-j,-k}
基本関係から次の式が導かれます。
  i 2 = j 2 = k2 = -1, ij = k,jk = i, ki = j, j i = -k, k j = -i, ik = -j 
Q8 の元の位数は、位数 1 が 1 の1個、位数 2 が-1 の1個、位数 4 が i,j,k,-i,-j,-k の6個です。
位数別の元の数が異なるので、D4 と Q8 は異なる非アーベル群であることがわかります。
位数 8 の群は以上の5種類です。
本当は5種類しかないことを証明しなければいけませんが、定理も証明抜きで示しているので、まあ勘弁してください(^_^

最後に、位数12の群です。
まず、アーベル群は、12 = 2・2・3 なので、次の4種類があり得ます。
  C12,C2×C6,C3×C4,C2×C2×C3
しかし、これらのいくつかが同型である可能性があります。
中国式剰余定理から、
  C12 C3×C4
また、C6 C2×C3 なので、
  C2×C6 C2×C2×C3
C12 は位数12の元を4個もちます(a,a5,a7,a11)が、C2×C6 は位数12の元をもたないので、両者は異なることが分かります。
結局、位数12のアーベル群は2種類です。

次に、非アーベル群としては、二面体群 D6、四元数群 Q12、4次の交代群 A(4)正4面体群T12 の3種類が挙げられます。
二面体群 D6 では、位数 1 の元が 1 の1個、位数 2 の元が a3,b,ab,a2b,・・・,a5b の7個、位数 3 の元が a2,a4 の2個、位数 6 の元が a,a5 の2個となります。

四元数群 Q12 で、 ω3=1 となる ω と i2=-1 を使って、 a=-ω,b=i と置けば、最後の基本関係は  iω=ω2i  と表わされます。
これにより、12個の元は次のように表示されます。
  Q12 = {1,a,a2,a3,a4,a5,b,ab,a2b,a3b,a4b,a5b}
     = {1,-ω,ω2,-1,ω,-ω2,i,-ωi,ω2i,-i,ωi,-ω2i}
このうち、位数 2 の元は -1 の1個、位数 3 の元は ω,ω2 の2個、位数 4 の元は i,-i,ωi,-ωi,ω2i,-ω2i の6個、位数 6 の元は -ω,-ω2 の2個です。
-ω,-ω2 が位数 6 なのに対して、-ωi,-ω2i が位数 4 である点にご注意ください。

A(4) は正4面体群 T12 と同型なので、次の記事をご覧ください。
正多面体と群2:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471786555.html

 

位数 2 の元の数が、 D6 では7個、 Q12 では1個、 A(4) では3個とすべて異なるので、位数12の非アーベル群は3種類あることがわかります。

この場合も、全部で5種類に限ることの証明は省きます。

以上から、位数15までの有限群は全部で28種類、うちアーベル群が20種類、非アーベル群が8種類あることが分かります。
  位数15までの有限群の種類
.  群の位数   1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 計
  種類の数    1 1 1 2 1 2 1 5 2 2  1 5 1 2 1 28
うちアーベル群   1 1 1 2 1 1 1 3 2 1  1 2 1 1 1 20
  非アーベル群 - - - - - 1 - 2 - 1 - 3 - 1 - 8

位数15までの群28種類と4次の対称群 S(4)、5次の交代群 A(5) の元の位数を、表の形でまとめておきます。
  有限群の元の位数
番号  名称       元の位数
 群の位数      1 2 3 4 5 6 7 8以上 
1 1  E       1 - -
2 2  C2       1 1 -
3 3  C3       1 - 2 -
4 4  C4       1 1 - 2 -
5 4  D2=C2×C2  1 3 -
6 5  C5       1 - - - 4 -
7 6  C6=C2×C3  1 1 2 - - 2 -
8 6  D3       1 3 2 -
9 7  C7       1 - - - - - 6
10 8 C8      1 1 - 2 - - - 8 : 4
11 8 C2×C4    1 3 - 4 -
12 8 C2×C2×C2  1 7 -
13 8 D4       1 5 - 2
14 8 Q8       1 1 - 6
15 9 C9       1 - 2 - - - - 9 : 6
16 9 C3×C3     1 - 8 -
17 10 C10=C2×C5 1 1 - - 4 - - 10 : 4
18 10 D5      1 5 - - 4 -
19 11 C11      1 - - - - - - 11 : 10
20 12 C12=C3×C4 1 1 2 2 - 2 -  12 : 4
21 12 C2×C6    1 3 2 - - 6 -
   =C2×C2×C3
22 12 D6=D3×C2  1 7 2 - - 2 -
23 12 Q12      1 1 2 6 - 2 -
24 12 A(4)     1 3 8 -
25 13 C13      1 -           13 : 12
26 14 C14=C2×C7 1 1 - - - - 6 14 : 6
27 14 D7      1 7 - - - - 6
28 15 C15=C3×C5 1 - 2 - 4 - - 15 : 8
・  24 S(4)=O24  1 9 8  6 -
・  60 A(5)=I60   1 15 20 24 -
(注)  位数8以上の元については、右側に示した。たとえば19番C11の「11:10」は 位数11の元が10個あるという意味である。


 5.部分群
群Gの部分集合HがGの演算に関して群となるとき、HをGの部分群(subgroupサブグループ)といい、次の記号で表します。
  H
ここでは、位数15までの有限群の部分群を求めることにします。
任意の群Gについて、単位元だけからなる群 E={1} とG自身は常に群Gの部分群です。
  E G, G
この2つをGの自明な部分群(trivial subgroupsトリヴィアル・サブグループス)といいます。

部分群に関しては、次の各定理が有用です。
・定理5-1 : 巡回群の部分群は、巡回群である。
・定理5-2 : mがnの約数であるとき、巡回群 Cm は巡回群 Cn の部分群である。
  Cm Cn
・定理5-3 : 群Hが群Gの部分群である(HG)とき、Hの位数はGの位数の約数である。(これは、巡回群に限定されない一般的な定理です。)
・群Gに自明でない部分群が存在するとき、その最大位数はGの位数の1/2以下である。
以上から、素数位数の巡回群C2、C3、C5、C7、C11、C13の部分群は自明なものに限ることが分かります。
また、
 C4 の自明でない部分群は C2、
 C6 の自明でない部分群は C2 と C3、
 C8 の自明でない部分群は C2 と C4、
 C9 の自明でない部分群は C3、
 C10 の自明でない部分群は C2 と C5、
 C12 の自明でない部分群は C2、C3、C4、C6
 C14 の自明でない部分群は C2 と C7、
 C15 の自明でない部分群は C3 と C5
にそれぞれ限ることが分かります。

・定理5-4 : pが素数のとき、群 Cp×Cp の自明でない部分群は、p+1個のCpだけである。
  (p2-1)/(p-1) = p+1
これから、C2×C2 の自明でない部分群は3個の C2、C3×C3 では4個の C3 であることが分かります。
  C2×C2 = {1,a}×{1,a}={(1,1),(1,a),(a,1),(a,a)}
とすると、部分群は<(1,a)>,<(a,1)>,<(a,a)>の3つです。
  C3×C3 = {1,a,a2}×{1,a,a2
とすると、部分群は<(1,a)>,<(a,1)>,<(a,a)>,<(a,a2)>の4つです。
たとえば、最後のものは、<(a,a2)> = {(1,1),(a,a2),(a2,a)}となります。

・定理5-5 : mがnの約数であるとき、2面体群 Dm は2面体群 Dn の部分群である。
  Dm Dn
・定理5-6 : 巡回群 Cn は2面体群 Dn の部分群であり、両者の位数の比は 1 : 2 である。
  Cn Dn
・定理5-7 : 2面体群 Dn は、nが奇数のとき部分群として C2 をn個含み、nが偶数のとき同じく(n+1)個含む。
・定理5-8 : nが3以上の素数のとき、 Dn の自明でない部分群はn個の C2 と Cn だけである。

以上から、
 D3 の自明でない部分群は 3C2、C3、
 D4 の自明でない部分群は 5C2,C4,2D2、
 D5 の自明でない部分群は 5C2,C5、
 D6 の自明でない部分群は 7C2,C3,D2,C6,2D3、
 D7 の自明でない部分群は 7C2,C7
にそれぞれ限ることが分かります。
なお、D4 = {1,a,a2,a3,b,ab,a2b,a3b} の部分群 2D2 は、次の2種類です。
  {1,a2,b,a2b}, {1,a2,ab,a3b}
また、D6 = {1,a,・・・,a5,b,ab,・・・,a5b} の部分群 D2 と 2D3 は、次のとおり。
  {1,a3,b,a3b}
  {1,a2,a4,b,a2b,a4b}, {1,a2,a4,ab,a3b,a5b}
2D2 と 2D3 の最初の群の鏡映(b,a2b,a4b)は頂点軸によるものであり、同じく2番目の群の鏡映(ab,a3b,a5b)は辺中点軸によるものです。

・定理5-9 : 群AとBは、いずれも直積 A×B の部分群とみなすことができる。
・定理5-10(推移律) : 群Aが群Bの部分群で、群Bが群Cの部分群ならば、AはCの部分群でもある。
  A B, B C → A

・定理5-11 : 群Gに部分群として含まれる C2 の数は位数 2 の元の数に等しい。


群 C2×C2 ={1,-1}×{1,-1} は、位数 2 の元を3個含むので、定理5-11からその部分群は以下の3個の C2 に限ることが分かります。
  {(1,1),(-1,1)}, {(1,1),(1,-1)}, {(1,1),(-1,-1)}


次に、群 C2×C2×C2={1,-1}×{1,-1}×{1,-1} は、単位元以外に位数 2 の元を7個含むので、その C2 部分群は7個です。
また、位数 8 未満の群で位数 2 以下の元しか含まないのは C2 の他に D2 もあるので、D2 部分群を列挙すると以下の6個となります。
  {(1,1,1), (-1,1,1), (1,-1,1), (-1,-1,1)},
  {(1,1,1), (-1,1,1), (1,1,-1), (-1,1,-1)},
  {(1,1,1), (1,-1,1), (1,1,-1), (1,-1,-1)},
  {(1,1,1), (-1,-1,1), (1,1,-1), (-1,-1,-1)},
  {(1,1,1), (-1,1,-1), (1,-1,1), (-1,-1,-1)},
  {(1,1,1), (1,-1,-1), (-1,1,1), (-1,-1,-1)}
後半の3個は、ちょっと思いつきにくいかもしれません。

部分群のまとめとして、位数15までの群28種類と S(4) = O24 の自明でない部分群を表の形でまとめておきます。
(この表は私のオリジナルなので、他の表と比べ間違いの確率が相対的に高いです(^^; ご注意を!)

  有限群の自明でない部分群
番号 名称       自明でない部分群
 群の位数      個数  内訳                .
 1  1 E       0   ―
 2  2 C2       0   ―
 3  3 C3       0   ―
 4  4 C4       1   C2
 5  4 C2×C2=D2  3   3C2
 6  5 C5       0   ―
 7  6 C6=C2×C3  2   C2,C3
 8  6 D3       4   3C2,C3
 9  7 C7       0    ―
10 8 C8       2   C2,C4
11 8 C2×C4     6   3C2,2C4,D2
12 8 C2×C2×C2  13   7C2,6D2
13 8 D4       8   5C2,C4,2D2
14 8 Q8       4   C2,3C4
15 9 C9       1    C3
16 9 C3×C3     4   4C3
17 10 C10=C2×C5 2   C2,C5
18 10 D5      6   5C2,C5
19 11 C11      0    ―
20 12 C12=C3×C4 4   C2,C3,C4,C6
21 12 C2×C6    8   3C2,C3,D2,3C6
   =C2×C2×C3
22 12 D6=D3×C2 12   7C2,C3,D2,C6,2D3
23 12 Q12      4   C2,C3,C4,C6
24 12 A(4)=T12  8   3C2,4C3,D2
25 13 C13      0    ―
26 14 C14=C2×C7 2   C2,C7
27 14 D7      8   7C2,C7
28 15 C15=C3×C5 2   C3,C5
・  24 S(4)=O24  28   9C2,4C3,3C4,4D2,4D3,3D4,A(4)

--------------------- 続 く -------------------

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