『宇宙の誕生と終焉』2 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

『宇宙の誕生と終焉』1: http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68189180.html
---------------------------------

3.宇宙の起源
 ・宇宙の進化 ビッグバン以前
 宇宙がどのように始まったかは、宇宙論研究者にもまだ分かっていない。
しかし、いくつかのシナリオが議論されるようになり、この問題はいまや科学の領域に入った。
シナリオA ビッグバン以前の時代はない
 物質とエネルギー、空間、時間がビッグバンでいきなり出現した。
シナリオB 量子力学的な出現
 量子重力理論で記述されるような原初状態から、私たちが知る普通の空間と時間が生まれてきた。
シナリオC マルチバース
 私たちの宇宙を含め、多数の宇宙が永遠の空間から芽吹いた。
シナリオD サイクリック宇宙
 宇宙は膨張→収縮→再膨張を繰り返しており、このサイクルのなかで収縮から再膨張に転じた最近のステージがビッグバンだった。


・「宇宙の歴史」(続き) ビッグバンから現在までの出来事については、かなりよくわかっている。
  ビッグバンでの出来事
10-43秒 「プランク時代」。意味のある時間として最も早い時期。空間と時間が形成された。
10-35秒 インフレーションによって空間が拡大し、滑らかな空間をクォークスープが満たす。
10-30秒 暗黒物質の候補のひとつ「アクシオン」ができる。
10-11秒 反物質より物質が優勢になる。
10-10秒 もうひとつの暗黒物質候補である「ニュートラリーノ」 ができる。
10-5秒 クォークが集まって陽子と中性子ができる。
0.01~300秒 陽子と中性子が集まって、ヘリウム原子核、リチウム原子核、重水素の原子核が生成。
38万年 原子核と電子が集まって原子が生まれ、宇宙マイクロ波背景放射が放たれる。
  暗黒時代
38万~3億年 空間を満たしているガスの密度のムラが重力によって拡大し続ける。
  現代へ
3億年 最初の星と銀河ができる。
10億年 現在の観測限界(これまで確認されたうちで最大の赤方偏移を示す天体)
30億年 銀河団が形成される。星の形成がピーク。
90億年 太陽系ができる。
100億年 暗黒エネルギーが支配権を握り、宇宙膨張が加速し始める。
137億年 現在。(k:プランク衛星の最新の観測結果により、今は138億年に訂正されています。)

・宇宙の未来
 近い将来には、銀河どうしの衝突といった出来事が予想される。
200億年 天の川銀河がアンドロメダ銀河と衝突する。
 ただ、宇宙の最終的運命は、暗黒エネルギーが宇宙膨張を加速し続けるかどうかにかかっている。
大きく分けて、4つの結末が考えられる。
シナリオA 宇宙膨張の加速はやむが、膨張は永遠に続く。
 100兆年 最後の星が燃え尽きる。
シナリオB 加速膨張が続く。
 300億年 宇宙のレッドアウト。加速膨張によってすべての銀河が私たちの視界から消える。ビッグバンの証拠はすべて失われる。
シナリオC 加速膨張がさらに激しくなる。
 500億年 ビッグリップ 超銀河団から原子まで、すべての構造が暗黒エネルギーによってバラバラに引き裂かれる。
シナリオD 加速膨張が急激な減速に変わり、さらに収縮に転じる。
 300億年 ビッグクランチ 宇宙は一点に潰れる。おそらくは新たなビッグバンにつながって、永遠のサイクルが続く。


5 ブラックホールからの大逆流

・銀河団内を覗くと
 “モノ”と呼ぶのにふさわしいもののうちで宇宙最大の存在、それは銀河団(直径1000万光年)だ。
それに含まれる1000個あまりの銀河は、球状の高温ガス内を蜂のように飛び回りつつも飛び散らないように重力で束縛されている。
銀河団の中心には、特別に大きな銀河がある。(k:cD銀河と呼ばれる楕円銀河)
現在の宇宙で最も激しく活動している領域だ。

・冷えたガスはどこへ?
 X線がエネルギーを持ち去ることで、銀河団ガスは冷え、中心に向かって落ち込むはずだ(k:冷却流)。
何十億年という時間をかけて何兆個もの星が作られているはずだが、そのような星は見つかっていない。

・銀河団のエネルギーサイクル
 銀河団の中心に多くの星が存在しないのは、加熱と冷却のサイクルのためだ。
ブラックホールのジェットがエネルギーをガスに戻し、冷却流を止めるのだ。
  ※→ ブラックホールが物質を吸い込む → ブラックホールの回転が速くなり、ジェットが作られる → ジェットが散逸し、ガスを加熱する → ガスの流入が止まる → ブラックホールは燃料を使い果たし、ジェットの噴出は止まる → ガスの温度が下がり、中心への流入が始まる → ※

・この世で最強のエンジン
 ブラックホールは単なる宇宙の落とし穴ではない。
回転運動を直線運動に変えるモーターでもあるのだ。
流れ込む物質はブラックホールに回転を与え、ブラックホールのふちは光速に近い速さで回転する。(k:これはカー・ブラックホールのこと)
その結果生じる磁場が、流れ込むガスの一部をジェットとして噴き出す。
速く回転するブラックホールは、流れ込んできたガスの1/3を噴き出すことが可能だ。

・冷却流問題に関する日本のグループの貢献(訳者 深沢泰司)
 銀河団のX線観測が始まった1980年代当初から、欧米を中心に冷却流説が唱えられてきたが、その根拠は銀河団の中心付近のX線放射率が高いという事実のみだった。
東大と都立大(現・首都大学東京)のグループは、1993年に打ち上げられた日本のX線観測衛星「あすか」のデータを使って、銀河団の中心付近のガスは冷却流説を支持するほどには冷えていないことをつきとめた。
また、同グループは、銀河団の中心付近でX線放射効率が高いのは、銀河団の中心銀河周辺に大量の暗黒物質が存在し、それが大きな重力源となってガスを銀河(団)中心に引き寄せているためだと主張した。
さらに東大の牧島一夫教授は、ガスは銀河団中心に存在する巨大銀河と磁場を介して相互作用することで加熱され、冷却流は起こらないとする独自の説を唱えた。
これは、現在でもガス冷却抑制の可能性の一つと考えられている。
日本のグループと欧米のグループの間で論争が続いたが、2000年代に入り、優れた撮像性能をもつチャンドラ衛星とXMMニュートン衛星の観測により、冷却流説は否定された。
その後も、日本の研究者によって冷却流を抑制する独自の説が複数提案されており、本文で取り上げられたブラックホールによるエネルギー放出説と並んで注目されている。


6 Mサイズのブラックホール
 ほぼすべての巨大銀河の中心には、太陽の数百万倍~数十億倍の質量をもつ超大質量ブラックホールが存在している。
大質量星が崩壊してできる恒星質量ブラックホールは、理論的には太陽の3~100倍の質量(観測されているものでは4~30倍)しかもたず、超大質量ブラックホールに比べれば極めて小さい。
超大質量ブラックホールは、なぜ銀河中心に普遍的に存在するのか?
銀河とブラックホールのどちらが先にできたのか?
そもそもそれらはどのように形成されたのか?

 2011年6月には観測史上最も古いブラックホールが報告された。
100億年も前(ビッグバンからたった7億7000万年後)に20億太陽質量ものブラックホールが存在していたというのだ。
ブラックホールはいかにしてそんなに早く巨大になれたのか?

・タネブラックホール誕生の2つのシナリオ
 ブラックホールの形成に関する古典的描像では、星の崩壊によって生まれた“タネ”ブラックホールが成長して超大質量ブラックホールに育ったのだと考える。
しかし、通常のガス降着による成長では時間がかかりすぎて、短時間で超大質量ブラックホールとなることができない。
そこで、大きなタネがいかにしてできたのかが問題となる。

シナリオA : 宇宙の初代の星々は現在の星と比べると非常に重かったため、早々と燃え尽きて100太陽質量程度のブラックホールが生まれた。
それらが互いに合体して1万太陽質量程度(Mサイズ)のブラックホールにまで成長し、それがさらにガスを吸収することで、超大質量ブラックホールに成長した。

シナリオB : 原初の巨大ガス雲が星の段階を経ずに直接ブラックホールにまで崩壊し、1万~10万太陽質量のタネブラックホールを一挙に作り上げたとする。

どちらのシナリオが実際に生じたかを突き止めるために、中間質量ブラックホールの探索が続いている。
シナリオAが正しければ、初代の星は銀河のどこでも死んだだろうから、多くの残存タネブラックホールが銀河中心のみならず銀河周辺部でも見つかるはずだ。
また、ブラックホールの成長は“食料”が尽きた時点で止まるので、その質量は100~10万太陽質量の範囲にまんべんなく分布するはずだ。
一方、シナリオBが正しければ、ガス雲の直接崩壊は星の死と比べ極めてまれなできごとだったはずなので、残存タネはかなり希少となる。
また、その質量は理論モデルによると10万太陽質量以上である。

楕円銀河あるいはバルジをもつ円盤銀河はその中心に超大質量ブラックホールをもち、ブラックホールの質量はバルジの1/1000程度である。
また、「活動ブラックホールはバルジのない銀河には見られない」という一般法則が成り立つ。
その例外が円盤銀河NGC4395であり、その中心のブラックホールは最初に確認された中間質量ブラックホールである。
ただし、その質量の推計値は10万~数10万太陽質量程度と幅が大きい。
2002年、2番目の中間質量ブラックホールとして確認されたのが、特異銀河POX52の活動ブラックホールである。
その後SDSS(スローン・デジタル・スカイ・サーベイ)のデータを用いて、中間質量ブラックホールの候補は数百個に増えた。
おそらく、バルジなし銀河の5~25%に検出可能な中間質量ブラックホールが存在していると推定される。
これに対し、訳者の福江純さんは、著者らの方法は不確定要素が多いため、数百個の中間質量ブラックホールが存在しているとは言い切れない、とコメントしている。

大きなバルジのある銀河とその中心に存在する超大質量ブラックホールの質量比が1/1000程度になることを説明する有力な説は次のとおり。
楕円銀河と大きなバルジは、円盤銀河たちが合体するときに形成される。
合体中、重力場が円盤をかき混ぜるので、星はもはや円盤内を周回せず、球形の領域をランダムに動き回るようになり、新たに楕円銀河やバルジができる。
一方、円盤内を周回していたガス雲たちは衝突し合い、バルジの中心部に落ち込む。
そこでは星が爆発的に生まれ、星の総質量が増える。
同時に、各銀河に含まれていたブラックホールは合体し、銀河中心に落ちてきたガスを食べて成長する。
このように、大きなバルジと超大質量ブラックホールは銀河合体に伴いともに成長・進化する。
そしてブラックホールの質量がバルジの1/1000程度になる頃には、ブラックホールのジェットが強くなり、銀河中心部に残されたガスを吹き飛ばして急成長は止まる。

NGC4395によく似た円盤銀河M33には1500太陽質量より重いブラックホールは存在しないことが確認されている。

中間質量ブラックホールに関する2つのシナリオについては、今のところ中間質量ブラックホールが希少とみられることなどから、シナリオBの方が支持されている。
ただし、今後の新たな観測結果によっては逆転することもあり得る。

------------------------ 続 く ------------------------

『宇宙の誕生と終焉』3:http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68247333.html

★ いっぺんに掲載したいのですが、なかなかパソコンに向かう時間が取れません。