読売新聞2014年1月20日(月)
俳壇
宇多喜代子 選
冬木立きのふと同じ星の位置 (吹田市) 山崎 隆子
・厳密にいえば同時刻の比較で角度で1度動いているはずですが、もちろん肉眼では識別できません。
小澤實 選
耳奥にメサイアありぬ冬の星 (さいたま市) 大石 誠
・メサイアはイギリスの音楽家ヘンデルによるオラトリオ。それに含まれるハレルヤコーラスのことかもしれません。
冬銀河ブルートレイン発ちにけり (秩父市) 中島 由美子
・ブルートレインは客車を使用した国鉄時代以来の寝台列車ですが、新幹線の開業などで次々と廃止されていっているようです。冬銀河とブルートレインはピッタリの組合せと感じられます。
歌壇
俵万智 選
ブログとかツイッターとかではなくて君がわたしにあてる文章
(堺市) 一條 智美
・であれば、メールのことでしょうか。いかにも現代的な恋の歌です。
朝日新聞2014年1月20日(月)
歌壇
佐佐木幸綱 選
マンタはたシロナガスクジラ・ジンベイザメ
(松戸市) 猪野 富子
・「はた」は「また」の意。「食む」の読みは「はむ」。最大の動物シロナガスクジラも最大の魚ジンベイザメも最大のエイであるマンタ(オニイトマキエイ)も、みな魚ではなくプランクトンを食べて生きています。これだけ並べられると、迫力を感じますね。
俳壇
長谷川櫂 選
明星を一つ残して年新た (北杜市) 北村 和利
・元日の金星は明けの明星で、午前8時に昇りました。北杜市(ほくとし)は平成の大合併で生まれた山梨県北西部に位置する市。
毎日新聞2014年1月20日(月)
俳壇
大峯あきら 選
注連張りて物理学棟灯りけり (尾張旭市) 古河 勇理央
・選者評:物理学研究室の正月である。そこだけが夜おそくまで灯がともっている。
k:注連は「しめ」と読み、注連縄(しめなわ)の意。物理学としめ縄の対比が面白いです。
歌壇
伊藤一彦 選
深海に島ひねり出す力持つ地球は揺れる津波も起きる
(東松山市) 巣田 新一
・選者評:東日本大震災から間もなく三年である。地球の秘めるエネルギー、自然の抱く力について改めて作者は考えている。
米川千嘉子 選
仕事おえホームに戻る
(葛城市) 鈴木 保彦
・"I, Robot" はアイザック・アシモフのSF短編集の題名(邦訳名「われはロボット」)であり、またそれを原作としたアメリカ映画(「アイ、ロボット」)。決まりきったスケジュールに従って行動するだけの自分自身を皮肉な視線で観察しています。
朝日新聞2014年1月13日(月)
俳壇
大串章 選
柚子風呂にアルキメデスのやうな人 (長崎市) 中村 誠示
・選者評:柚子風呂に浸る人を見ながら、アルキメデスの原理を思っている。
k:アルキメデスの原理は、「流体中の物体は、その物体が押しのけた流体の重さと同じ大きさの浮力を受ける」というもの。
稲畑汀子 選
深深と渡りし月の寒さかな (広島県海田町) 末廣紀恵子
・月が渡っていくにつれ、寒さも一層つのります。
星一つ梢に点る聖夜かな (枚方市) 嶋林 岳紹
・クリスマスの時期であれば、東の空の木星でしょう。
読売新聞2014年1月13日(月)
俳壇
正木ゆう子 選
寒昴つまびらかなる島の夜 (流山市) 久我 渓霞
・伊豆諸島あたりを旅行されたときでしょう。空気も空もきれいで、すばる(プレアデス星団、M45)を構成する星々がよく見えるという意味かと。
歌壇
栗木京子 選
人間と川の時間の交叉する橋に佇みオリオンを見る
(笠間市) 北沢 錨
・選者評:人間の時間、川の時間、橋の時間、そして星の時間。いくつもの時間の出会いを慈しむ思いが伝わってくる。冬の冷気の中で詠まれたことで、歌に凛とした雰囲気が出た。
k:橋の時間と星の時間にも言及した選者の目の付け所は、さすがに違うと感じました。
俵万智 選
バレルとふ単位を使ひナノといふ単位使ひて職を退きたり
(市原市) 井原 茂明
・バレルは石油の単位であれば約159リットル、アメリカの液量単位であれば約119リットルなど。ナノはSI(国際単位系)接頭辞で10億分の1。単なる並列のようですが、きめ細かく言葉を変えています。どんなお仕事をされていたのでしょうか。
毎日新聞2014年1月13日(月)
俳壇
鷹羽狩行 選
凍星や夫の帰りを一人待つ (東京) 桑山 実代子
・「いてぼしや つまの」。残業で遅くなるご主人を、夕食を作って待っておられるのでしょうか。
小川軽舟 選
寒満月下り最終電車過ぐ (龍ヶ崎市) 白取 節子
・昨年12月17日の満月あたりでしょうか。帰宅する人ももう絶えれば、誰もが寝静まる深夜です。
明け遣らぬ空に三日月欅散る (東京) 鈴木 利恵子
・欅は「けやき」。三日月は普通名詞として使っていますが、月齢25か26あたりであれば、昨年11月29日か30日だと思います。
大峯あきら 選
返り花昼の月ある法隆寺 (由利本荘市) 松山 蕗州
・返り花は11月ころの小春日和に本来の季節とは異なって咲いた花のこと。昼の月が午後であれば、11月後半かと。由利本荘市は秋田県南部なので、作者が奈良に旅行されたときの作品でしょうか。
「音楽」 大串章(「百鳥」主宰)
枯木宿庭に出て星見よといふ
・旅の友からの誘いかと。大都会に住んでいては満天の星を拝む機会はありません。
朝日新聞2014年1月6日(月)
歌壇
馬場あき子 選
カシオペア・ベガ・オリオン・はくちょう座師走の夜ぞらに宇宙の詩あり
(成田市) 神郡 一成
・夏・秋・冬の星座が勢ぞろいして賑やかな有様を「宇宙の詩」と表現したのがいいです。
佐佐木幸綱 選
顕微鏡とフラスコのある仕事場に本屋の配達はエプロンで来つ
(大牟田市) 桑野 智章
・医学・生物系か化学系か。本屋さんもエプロンをして仕事をすることがあろうかと思いますが、配達では普通不要でしょう。
高野公彦 選
口角をあげて微笑む月がいて冬の夜空に励まされてる
(東京都) 西出 和代
・擬人化された月と夜空。寒いばかりではありませんね。
葉ではなく砂塵が舞って目にしみる涼しさだけは秋もさながら
(アラブ首長国連邦) 太田 千陽
・選者評:ドバイの日本人学校からの投稿。砂漠地帯の「秋」。
俳壇
金子兜太 選
ながれ星ニイと笑つた赤ん坊 (長崎市) 横山 隆
・選者評:「ながれ星」が気味悪い。
冬の月古希の心の鏡へと (刈谷市) 石川 春子
・古希は数えの70歳(≒満69歳)。杜甫の詩「人生七十古来稀なり」が出典です。
負けん気で砕氷船のごと生きる (伊賀市) 福沢 義男
・観測船「しらせ」が海氷を2227回割って3年ぶりに南極昭和基地に接岸成功したのは1月4日でした。たまたまでしょうが、前後して載りましたね。
毎日新聞2014年1月6日(月)
俳壇
西村和子 選
飛行機がとぼとぼとゆく冬の星 (川越市) 峰尾 雅彦
・ふつう「とぼとぼと」は歩く様子に使いますが、よほど頼りない飛行機のようですね(^_^
歌壇
加藤治郎 選
理科室の香りなつかし新しき職場にピペットの目盛り見つめる
(春日市) 伊藤 亮
・ピペットはスポイトに類する化学実験器具で、口で吸引するものとゴム製吸引具付きのものとがあるようです。
米川千嘉子 選
原発に右往左往のこの世紀アインシュタインの舌は出たまま
(高崎市) 熊沢 峻
・おそらく「アインシュタインが舌を出したのは人類に対する警告だ」という解釈に基づいているのでしょうが、それは単なる都市伝説です。
★ どうも昨年12月23日付の新聞各紙を入手・保存し損なったようで、日付が飛んでしまいました。
★★ 本日最大の科学ニュースといえば、小保方(おぼかた)晴子さんの大発見でしょう。
医学・生物系の話題なので私はまったくの素人ですが、短くてもまとめて明日にはアップしたいと思います。