巨大銀河の片隅に紫外線で輝くミニ銀河 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

アストロアーツ1月18日付記事、元はNASAです(全文引用)。
http://www.astroarts.co.jp/news/2013/01/18galex/index-j.shtml

概要>2億光年かなたの巨大な銀河の腕の先に、紫外線でしか見えない小さな銀河の存在が明らかになった。1億3000万年前に起こった銀河同士の接近の名残と見られる。

まずアストロアーツの記事に載っている画像をご覧ください。
クリックすると拡大します。

>画像は、南天のくじゃく座の方向約2億1200万光年かなたにある棒渦巻銀河NGC 6872だ。そのすぐ上には小型の銀河IC 4970も見える。

さすがアストロアーツ、距離だけでなく、ちゃんと「くじゃく座の方向」であることも記載していますね。
ナショジオあたりとは姿勢が違います。
すぐ上に見える小型の銀河IC 4970は、見かけだけでなく実際に近くにあって、1億3000万年前に接近して重力的な相互作用を及ぼしあったようです。

>NASAの衛星「GALEX」による紫外線観測データから、NGC 6872の渦状腕の先端に、紫外線でしか見えない小さな銀河(左上の黄色枠)があることが初めてわかった。これを含めると、NGC 6872は端から端まで52万2000光年もの広がりを持つ巨大な渦巻銀河ということになる。これは天の川銀河の5倍以上という大きさだ。

GALEXは、2003年にNASAが打ち上げた紫外線宇宙望遠鏡(天文観測衛星)。
1000万個の銀河を含む星図を作成するなどの成果を挙げた後、2012年には完全退役する予定だったが、民間資金で運用継続することとなった、とwikiにあります。

NGC 6872は「端から端まで52万2000光年」、「天の川銀河の5倍以上」の大きさというのは、渦巻銀河としては異例の規模ですが、これは後でみるように引き伸ばされたためで、質量も5倍ということではなさそうです。

>発見された矮小銀河は、次々と生まれる恒星が輝く北東の部分にあり、銀河同士が重力的に干渉し合う天体系に見られる潮汐矮小銀河(tidal dwarf galaxy)と思われる。紫外線で見るとNGC 6872の他のどの部分よりも明るく、生まれて2億年にも満たない高温の幼い星が多く存在していることがうかがえる。
>GALEXの他、地上の望遠鏡や天文衛星の観測データから渦状腕の恒星の年齢分布を調べると、先端ほど恒星が新しく生まれ、銀河の中心に近づくほど古い星が存在することがわかった。これはもう1つの渦状腕である南西部分でも同様だった。銀河同士が近づいたりぶつかったりすると銀河内の星形成が誘発されるが、このNGC 6872銀河も、IC 4970との作用によって腕の先端で星が活発に生まれるようになったものと思われる。

潮汐矮小銀河(tidal dwarf galaxy)という言葉は初めて見ましたが、そういう現象自体はよく起こることです。
というのも、銀河の大きさを基準とした銀河どうしの相対的距離は、星の大きさを基準とした星どうしの相対的距離よりも、ずっと近いので、重力的な相互作用が起こりやすいのです。
重力で引き合うといっても、角運動量があるので、すぐに衝突して合体するというわけではなく、楕円軌道を描いていったん接近してからまた離れるのですが、接近したときに重力の二次的な効果である潮汐力が働いて、引っ張られて長く引き伸ばされることになります。

伸ばされた二つの腕の先端部分では新たな星がどんどん生まれているということですが、一つ疑問に思うのは、北東部分は元の銀河とは切り離された別の銀河と認定されているのに、南東部分はそうではないという点です。

紫外線では見えるけれども可視光ではほとんど見えないのであれば、黒体放射換算で1万2千度以上であり、星のスペクトル分類ではOB型星となると思います。

>NGC 6872とIC 4970については、2007年に別の研究チームが1億3000万年前に最接近した様子をコンピュータシミュレーションで再現しているが、今回の観測成果はそのシミュレーションと一致した結果となった。

すでに5、6年前にコンピュータシミュレーションの対象となっているということであれば、結構有名な相互作用銀河なのでしょう。
二つの銀河の相互作用の歴史についても間違いなさそうですね。

>一方NGC 6872の中心には、2万6000光年にも及ぶ棒状構造がある。しばらく星形成が行われた形跡がなく、数十億年以上前に作られた構造のようだ。ここに存在するのは、銀河同士の接近以前の名残である古い恒星ばかりである。

中心にある棒状構造が棒渦巻銀河の証しで、わが天の川銀河にも同様の構造があるとされます。
NGC 6872はIC 4970との相互作用がなければ、いつまでも古い星が徐々に冷えていくだけだったのでしょう。
相互作用により喝を入れられて(^_^、変形し再び星形成が始まったというわけです。
相互作用前にも渦状腕部分には星形成に必要なガスが存在していたはずですが、イベントが何もなければ現在のような大規模な星形成には至らなかったと思います。

>「他の銀河と作用した銀河の構造や力学を調べることで、宇宙の歴史においてどのようなことが起こったのか、正しい理解へと近づいていくことができます。そこからさらに昔の、宇宙がまだ若かったころの銀河を探ることにもつながるんです」(研究チームのEli Dwekさん)。