記憶のための宇宙の速度 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

「記憶のための宇宙の数値」シリーズを続けてほしいというご要望は特になかったのですが、「宇宙の距離」のブログの方に「拍手」が一つあったのに気をよくして、「宇宙の速度」も載せることにしました。

最初に、物理学における速度と速さの違いについて。
物理では速度は3次元の量です。
これは空間が3次元であることに対応しており、こうした量をベクトル(vector)といいます。
ベクトル量は大きさと方向をもちます。
これに対して、速さは大きさだけで方向は問題にしません。
ただし、以下では特に区別しないで速度という言葉を用います。

それではまず単位から。
速度の基本的な単位は「m/s」です。sは秒(second)ですから、秒速何メートルかを表します。
一方で、日常的には「km/h」(時速何キロメートル、hはhour)も使いますね。
SI(国際単位系)で単位として採用されているのはmとsで、kmとhはそれから派生したものです。
   1 km = 1 000 m、1 h = 3 600 s
ですから、「m/s」と「km/h」の関係は、
   1km/h m ≒ 0.28 m/s、 1 m/s = 3.6 km/h
つまり
・時速1キロは秒速0.28メートル、秒速1メートルは時速3.6キロ。
なお、表記の仕方としてたとえば「m/s」を「m・s-1」と書くこともありますが、意味は同じです。

宇宙に出る前の肩慣らしとして音速を取り上げましょう。
音速は温度に依存し、1気圧( 1 013 hPa)の乾燥空気では 331.5 +0.61t [m/s](tは摂氏温度)と表されます。
たとえば、25℃では 346 m/sとなります。
きりのいいところで、
・0℃で 330 m/s強、15℃で 340 m/s、1℃上がるごとに 0.6 大きくなる
と覚えてはいかがでしょうか。

マッハ数というのは速度が音速の何倍かを示すもので、高速の飛行機などについて用いられます。
昔のSFアニメではマッハいくつというのがよく出てきましたし、女子プロレスラーの名前にも使われましたね。
ただし、高度や温度により音速自体が変化するので、注意が必要です。

宇宙では秒速何メートルも時速何キロも単位として小さすぎる(遅すぎる)ので、主に「km/s」(秒速何キロ)を用いることにします。換算は次のとおり。
   1 km/s = 1 000 m/s = 3 600 km/h (≒ マッハ3)

さて、速度にはその名も宇宙速度と呼ばれるものがいくつかあります。
地球表面から横倒しで飛び出すロケットを考えます。
・第一宇宙速度とは、地球の地表すれすれに飛んで衛星として公転するために必要な速さで、約 7.9 km/s。
・第二宇宙速度は脱出速度ともいい、地球の重力を振り切るために必要な最小初速度のことで、約 11 km/s。
第二宇宙速度は第一宇宙速度の√2 (≒ 1.4 )倍となっています。
ロケットの初速が第一宇宙速度と第二宇宙速度の中間の場合には、ロケットは地球の重力から逃れられないので、地球の衛星となります。
また、周回ごとに地表の飛び立った地点に必ず戻ってきます。

宇宙速度については注意すべき点があります。
それは、空気の抵抗を無視していることです。
宇宙速度の計算は地表に水平に飛び出すことを前提としていますが、現実のロケットは地表に垂直に打ち上げられ、徐々に横倒しになっていきます。
これはできるだけ早く空気の抵抗を無視できる高さまで昇るためです。
そして、高く昇れば昇るほどその高度での脱出速度は第二宇宙速度よりも小さくなります。

次に、人工衛星の速度の例を挙げると、
・国際宇宙ステーション(ISS)の公転速度(平均軌道速度)は 7.7 km/s。
・静止衛星の公転速度は 3.1 km/s。
円軌道を描く衛星では、一般により高い軌道を回る衛星ほど公転速度が小さくなります。
これは高い軌道ほど重力が小さくなるので、それに釣り合う遠心力も小さくなければならないためです。
したがって、円軌道を描いて地球を回る人工衛星の公転速度の上限は第一宇宙速度です。
ただ、歪んだ楕円軌道の近地点前後ではより速いこともあります。

・月の公転速度は 1.0 km/s。

太陽系の惑星では、先に述べたのと同じ理由で太陽に近いものほど公転速度が大きく(速く)、遠いものほど遅くなります。
円軌道とすると、より精確には、公転速度は太陽までの距離の平方根に反比例します(注)。
・水星の公転速度は 48 km/s。
・金星の公転速度は 35 km/s。
・地球の公転速度は 30 km/s。
・火星の公転速度は 24 km/s。
・木星の公転速度は 13 km/s。
・土星の公転速度は 9.7 km/s。
・天王星の公転速度は 6.8 km/s。
・海王星の公転速度は 5.5 km/s。

・第三宇宙速度とは、地球公転速度で太陽から脱出する速度のことで、42 km/sです。
ロケットがすでに地球の公転に合わせて太陽の周りを公転している場合には、
   42 -30 = 12
ですから、相対速度 12 km/sとなります。
さらに、地球上から飛び立つ場合には、今度は地球重力から脱出するのに必要な速度を加える必要があります。

われわれと天体を結ぶ線を視線と呼び、天体の視線方向の速度を視線速度といいます。
・アルファ・ケンタウリ(二重連星)の次に太陽に近いバーナード星(5.9光年)の視線速度は、-108 km/s。
つまり秒速 108 キロで太陽に近づいてきています。
ただ、これは視線速度(の絶対値)がもっとも大きい方の例です(より大きいのはカプタイン星の視線速度で、+245 km/s)。

銀河系は棒渦巻銀河なので、円盤部は回転しています。
・太陽近傍における銀河系の公転速度は、約 220 km/s。

局部銀河群を構成する銀河のうち、最大のものはアンドロメダ銀河、第二が銀河系ですが、両者は現在接近しつつあります。
・アンドロメダ銀河の接近速度は、約300 km/s。

宇宙は膨張しているため、遠方銀河はすべて後退しています(われわれからみて遠ざかっているということ)。
しかも遠方の銀河ほど後退速度が大きくなります。
われわれに一番近い銀河団はおとめ座銀河団ですが、
・おとめ座銀河団の後退速度は、約 1 200 km/s。

遠方銀河の後退速度vはその銀河までの距離Dに比例します(ハッブルの法則)。
この場合の距離は通常、Mpc(メガパーセク)で表されます。
   1 Mpc = 100 万pc ≒ 326 万光年 ≒ 31 兆km
   v [km/s] = H0・D [Mpc]
比例定数H0 はハッブル定数と呼ばれます。
下添字の0は現在時点を表します。定数という名称ですが、時間的に変化することにご注意。
ハッブル定数H0の精確な値を求めることは、宇宙論研究の重要テーマの一つです。
・ハッブル定数H0の値は、現在はおおむね 70 km/s・Mpcとされています。
つまり遠方銀河の後退速度は、1 メガパーセク遠くなるごとに秒速で70キロ大きくなります。

最後に忘れてはいけないのが光速度。
・速度の絶対的な上限は光速度で、30万km/sです。
これは皆さまご存知のとおり。
物理学や天文学でこれより速く動くように見える現象はいくつもあります。
しかし、そうした場合でも因果関係あるいは情報がこれより速く伝わることはありません。

(注) 惑星質量をm、太陽質量をM、惑星-太陽間距離をr、惑星の公転速度をv、万有引力定数をGとします。
惑星に働く重力はGMm/r2、一方、遠心力はmv2/r。両者が等しいとして、vについて整理すると、
   v = √(GM/r)
すなわち速度vは惑星-太陽間距離の平方根√rに反比例することが分かります。
なお、地球を回る人工衛星や月についても同様ですが、人工衛星では「地球との距離=高さ+地球半径」であることに注意する必要があります。


★ 「記憶のための宇宙の数値」シリーズ
宇宙の距離:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471781354.html

宇宙の質量:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471781366.html

宇宙の密度:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471781397.html

8惑星の一日と一年:https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471781962.html