ただ、これまで「3次元球面」については分かっていることを前提としたような文章を書いてきましたが、実は全然説明していなかった(^^;ので、改めて説明したいと思います。
まず形式的な定義から。
4次元ユークリッド空間 R4 を考えます。
球面というのは、中心からの距離が一定の点の集合です。
すなわち、中心の位置と半径を決めれば定まります。
中心は、分かりやすいように原点 (0, 0, 0, 0) に置きましょう。
また、半径は a とします。
このとき、
√(x2+y2+z2+w2) = a
となる点 (x,y,z,w) の集合が3次元球面S3です。
3次元球面と3次元ユークリッド空間は、もし交わればその部分は2次元球面S2となります。(他に交わらない場合と1点で接する場合があります。)
3次元ユークリッド空間をたとえば (x,y,z,0) とすると、交わりは次式を満たす2次元球面
√(x2+y2+z2) = a
となります。
3次元球面と平面(2次元ユークリッド空間)は、もし交わればその部分は円周(1次元球面)となります。
『体験する幾何学』でも以上のような説明をしているのですが、こういう文章をいくら読んでもイメージは湧きませんよね(^_^
そこで、厳密さは損なわれますが、直感的に分かるような説明をしたいと思います。
こういうときの常套手段ですが、まず次元を落として考えてみます。
1次元球面S1というのは「円周」のこと。
円周を「作る」にはどうしたらよいか。
1.線分を一つ用意し、x軸上に置きます。
それを ab とし、その長さを 2 とします。
2.それを鏡に映して(鏡映)、まったく同じ線分 b'a' を作ります。
3.次に、ab、b'a' ともに真ん中を上から指で押して下に(y軸負の方向に)丸くへこませます。
へこみの深さが 1 となり、全体の長さが π=3.14 となるまで伸ばします。
4.abを円周の下半分、b'a' を同じく上半分と考えて、b'a' を引っくり返してabの上に乗せます。
そのとき、a と a'、b と b' が重なるようにします(数学では「同一視する」といいます)。
これで、円周のできあがりです。
同じように2次元球面S2、つまり普通の球面を作ってみましょう。
1.半径1の円盤(円周とその内側の部分を合わせたもの)を一つ用意し、xy平面上に置きます。
半径が1ですから、面積はπ=3.14となります。
2.それを鏡に映して、まったく同じ円盤をもう一つ作ります。
3.次に、円盤二つの真ん中を上から指で押して下に(z軸負の方向に)丸くへこませます。
へこみの深さが1となり、全体の面積が2π=6.28となるまで伸ばします。
4.片方を引っくり返してもう片方の上に乗せ、縁の円周部分をくっつけます。
これで、2次元球面S2ができあがりました。
皆さんもコツが分かってきたと思います。
いよいよ3次元球面S3の番です。
1.半径1の球体(球面とその内側の部分を合わせたもの)を一つ用意します。
われわれのいるxyz空間の原点に中心Oを合わせて置くこととします。
1'.後で便利なように球体のいくつかの場所に名前を付けておきます。
(0, 0, 1)を「北極」、(0, 0, -1)を「南極」と呼びます。
z=0のxy平面を「赤道面」、赤道面と球面の交わる円周(大円)を「赤道」と呼びます。
(0, 1, 0)を「赤道上の前の点A」、(0, -1, 0)を「赤道上の後の点C」、(1, 0, 0)を「赤道上の右の点B」、(-1, 0, 0)を「赤道上の左の点D」と呼びます。
「赤道上」であることが分かっているときは、前半を略します。
北極、南極と赤道上の4つの点の球面上の距離はπ/2=1.57ですが、それらの最短距離は球体の中を通って結ぶ線で√2=1.41です。
赤道上の4つの点のうち隣り合うもの同士の距離についても同じです。
2.球体を鏡に映して、もう一つの球体を作ります。
ただ、表面の点の名称は元のままにしておきます。
A 第1の球の赤道面 A' 第2の球の赤道面
D O B B' O' D'
C C'
3.これまでは指で押しましたが、今度はそうはいきません。
そこで、魔法の膨らし粉を二つの球体に注入して、電子レンジでチンしてみます。
その結果、球体の表面(球面)は変化がないのですが、球体の内部はわれわれに見えないw軸方向に膨らみました。
第1の球体では中心Oがw軸の正方向に1だけ動き、(0, 0, 0, 1)となりました。
第2の球体では中心O'がw軸の負方向に1だけ動き、(0, 0, 0, -1)となりました。
球面上の点はいずれの球体でも動かないので、6つの点のw座標は0です。
4.二つの球体の表面の対応する点同士(AとA'、BとB'など)をくっつけて、一つにします。
われわれのいる空間では表面同士を貼り合わせるのは不可能なのですが、頭の中でそういう操作をするのです。
表面は両方の球体に共有されていると考えてもいいでしょう。
できた図形が3次元球面S3です。
とはいっても、2つの球が以上の説明でくっついたものを想像するのは、実際は無理です(^^;
そこで、2つの球体はそのままにして、一方の球体の内部から球面に到達したらその瞬間に他方の球面の対応する点にワープするものと考えてください。
ここから、3次元球面の性質をみていくことにします。
(証明などなしで天下り式に解説しますが、ご了承ください。)
円周の長さや(2次元)球面の面積が有限だったのと同様に、3次元球面の体積も有限であることはすぐ分かりますね。
測地線(真っ直ぐな線)はユークリッド空間では直線、(2次元)球面では大円でした。
3次元球面の測地線も、同じく大円となります。大円ですから閉じているのはもちろんです。
まず第1の球体の中心Oを通る大円を考えます。
たとえば、O-S-O'-N-Oをまっすぐ結ぶ線は大円となります。
第1の球体の中心Oを通る大円は、必ず第2の球体の中心O'をも通るのです。
また、球体の中心O、O'と両極など球面上の点との距離は、もともとは半径の1でしたが、今ではπ/2=1.57まで伸びています。
したがって、Oを出てO'を通り反対側からOに戻ってくる大円の一周の長さは、2π=6.28です。
元の球面上に乗った大円、たとえば赤道(A-B-C-D-A)などは、3次元球面においても大円となります。
元の球体では、球面上よりも球体の中を通る線の方が短かったのですが、中がw次元の方向に膨らみ線も伸びたせいで、元の球面上を通るのが一番短いことになりました。
円周上の各点や(2次元)球面上の各点は、すべて対等です。
3次元球面上の各点も、すべて対等となっています。
また、円周上の各点や(2次元)球面上の各点が
たとえば、これまで挙げてきたA,B,C,D,O,O'の6つの点は、いずれも隣接する4つの点との距離が等しく(π/2=1.57)、残りの1つの点は対蹠点となっています。
中心Oと赤道上の前の点Aの中間にある点Xを通りOAに垂直でかつ赤道面を通る大円は、BとDを通り、第2の球体の中心O'と赤道上の後の点Cの中間にある点Y'を通り、O'Cに垂直です(X-B-Y'-D-X)。
一周の長さは他と同じ2π=6.28です。
A A
X
D O B B O' D
Y'
C C
中心Oと赤道上の前の点Aの中間にある点Xと、Oと右の点Bの中間にある点Zを結ぶ大円は、赤道上のAとDの中間点Wおよびその反対側のBとCの中間点Vを通ります。
第2の球体の中では、O'と後の点Cの中間にある点Y'およびO'と左の点Dの中間にある点U'を通ります。(X-Z-V-Y'-U'-W-X)
このあたり、下図を見ながら考えてみてください。(いい加減な図ですが、OX=OZであれば以上の説明の通りとなります。)
A A
W X W
D O Z B B O' U' D
V V Y'
C C
一周の長さはこれまでと同じです。
元の球面(A,B,C,D,N,S)は、3次元球面においても球面となりますが、大円を含むもっとも大きい球面なので、「大球面」と呼ぶことにしましょう(これ私の造語です(^^)。
赤道面(A,B,C,D,O,O')も、大球面ですし、南北両極を含む2つの面(A,N,C,S,O,O')と(B,N,D,S,O,O')も大球面となることが分かりますね。
円周、(2次元)球面、3次元球面の半径ρを、その空間の中の円や球の半径と区別して、「曲率半径」と呼びます。
また、円周、(2次元)球面、3次元球面の「曲率」は、それぞれK=1/ρ、1/ρ2、1/ρ3として定義されます。
直線、平面、3次元ユークリッド空間は、それぞれ半径無限大の円周、(2次元)球面、3次元球面とみなせば、いずれも曲率0となり、定義は整合的です。
さて、ここで『体験する幾何学』に載っていた定理を一つご紹介します。
・3次元球面における大円の組aとbで、a上のどの点からでもb上のどの点も等距離であり、b上のどの点からでもa上のどの点も等距離であるものが存在する。
その距離はπ/4=0.78となる。
aとbの例としては、赤道A-B-C-D-Aと両球の中心を南北を貫く大円N-O-S-O'-Nが挙げられます。
この定理はもちろんユークリッド空間や双曲空間では成り立たないですし、また2次元球面でも同様の定理は成り立ちません。
まさに3次元球面らしい定理です。
ただ、2次元球面における赤道(大円)と南北両極(点)の関係がこれに対応するとはいえるでしょう。
3次元球面については以上でおしまいですが、分かったような気になっていただけたでしょうか。