△光のドップラー効果って音と同じなの?1 | 宇宙とブラックホールのQ&A

宇宙とブラックホールのQ&A

2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

Q 光についてもドップラー効果があると聞きましたが、救急車のサイレンが遠ざかるときに低く聞こえるのと同じ原理なのでしょうか?



 1.ドップラー効果とは?
ドップラー効果とは、波動(音や光など)の振動数がその発生源と観測者との相対的な速度により発生したときと異なって観測される現象のことです。
ここで振動数とは周波数ともいい、その波動が単位時間あたりに何回振動するかを表す物理量で、次元は時間の逆数になります。
発生源と観測者が相対的に遠ざかると、振動数がより小さくなって、音なら低くなり、可視光なら赤い方にずれます(赤方偏移)。
逆に、発生源と観測者が相対的に近づくと、振動数がより大きくなって、音なら高くなり、可視光なら青い方にずれます(青方偏移)。

このように音も光も波動の一種なのでドップラー効果が存在することは同じなのですが、光については相対論が必要になるため音のドップラー効果とは違ってきます。
(実は音についても光速に近い場合には相対論を考慮に入れなければなりませんが、通常はその必要はありません。6(3)参照)

 2.波動に関する基本的関係式など
音でも光でもそうですが、一般に波動については次の式が成り立ちます。
   波長 × 振動数 = 速度
したがって、速度が一定であれば、波長と振動数は互いに反比例します。

記号で書くと、速度(velocity)を v、波長を λ (ラムダ)、振動数(frequency)を f として次のようになります。
   λ f = v,f = v/λ,λ = v/f
ここで λ はギリシア文字(小文字)です。
振動数については、同じくギリシア文字の ν (ニュー)を使うことも多いのですが、速度 v (ヴィー)と見間違えやすいため、ここでは使いません。

ここでは、速度、波長、振動数のいずれについても、音源(光源) s から音(光)が発せられたときのものと観測者 o に到着したときのものの2つを考えるので、それぞれについて s と o を添え字として付けます。
( s は源 source、o は観測者 observer のそれぞれ頭文字です。)
たとえば、音源における振動数を fs、観測者が観測する振動数を fo とします。

以下では、音源(光源)と観測者の運動はいずれも等速直線運動とします。
また、特に断らない限り、両者が相対的に遠ざかる場合(赤方偏移)を扱うこととします。

 3.音のドップラー効果の場合
音には媒質(波動を伝える物質)があります。媒質がなければ音は伝わりません。
音はさまざまな媒質を伝わりますが、ここではもっとも一般的な空気を考えます。
また、風は吹いていない(媒質である空気は動かない)ものとします。
これはさらに、観測者が固定していて音源が運動する場合、逆に音源が固定していて観測者が運動する場合、両者がともに運動する場合の3つに区別できます。
音は媒質を伝わりますが、媒質に対して静止している座標系からみると音速は一定です。
その音速を V で表します。
音速は媒質、温度、圧力により変化しますが、媒質が空気であるとき常温常圧での音速は毎秒約340mです。

(1) 観測者が固定していて音源sが遠ざかるときは、次のように図示できます。
   ←○⇒|  ◎
     s  音  o
ここで、○は音源sの位置、◎は観測者oの位置、←は音源sの運動方向、⇒は音の伝播方向、|は音の位置をそれぞれ表します。

音源の速度を vs とすると、音源からみた音の速度は V+vs、振動数は fs ですから、その波長は λs = (V+vs)/fs となります。
これに対し、観測者からみた音の速度は V、振動数は fo なので、波長は λo = V/fo です。
音の速度や振動数は立場によって変わりますが、波長は不変なので、λs = λo とおけば、
   (V+vs)/fs = V/fo
となり、これを fo について解くと次の式が得られます。
   fo = (V/(V+vs))・fs = (1/(1+vs/V))・fs
音源の速度 vs を音速の6割の毎秒 204mとします。すると、
   fo = 1/(1+0.6)・fs = 0.625 fs
となります。

(2) 音源が固定していて観測者oが遠ざかるときは、次のように図示できます。
   ○⇒|  ◎→
   s  音  o

音源からみた音の速度は V、振動数は fs ですから、その波長は λs = V/fs となります。
これに対し、観測者からみた音の速度は V-vo、振動数はfo ですから、その波長は λo = (V-vo)/fo となります。
先ほどと同様に両者を等しいとして λs = λo を解くと、次の式が得られます。
   ((V-vo)/V) fs = (1-vo/V) fs
観測者が音速の6割の速度で音源から遠ざかっているとすると、
   fo = (1-0.6) fs = 0.4 fs
となります。

(1)と(2)の2つの場合を比べると、運動速度が同じであれば音源が運動するときより観測者が運動するときの方がドップラー効果はより大きい(音がより低くなる)ことがわかります。

(3) 音源と観測者の双方が相互に遠ざかる運動をしているときは、次のように図示できます。
   ←○⇒|  ◎→
     s  音  o

これまでと同様に計算すると、
   fo = ((V-vo)/(V+vo)) fs = ((1-vo/V)/(1+vo/V)) fs

たとえば、音源と観測者の双方がいずれも音速Vの3割の毎秒102mでお互いに遠ざかる運動をしているとすると、振動数の関係は次のようになります。
   fo = (1-0.3)/(1+0.3) fs ≒ 0.5385 fs

上の式では vo と vs という2つの速度が出てきます。
これは、音波が媒質を伝わるために音源と観測者双方の媒質に対する速度を考慮に入れなければいけないからです。
なお、ここでは媒質が不動不変としていますが、仮に媒質の各部分が一斉に同じ速度で動くのなら(速度には方向も含まれます)、上の式を適用するためには vo と vs の双方とも媒質に対する速度として定義し直さなくてはなりません。

 4.光のドップラー効果
光は媒質がない真空中でも伝わります。
真空中の光速度は、どの慣性系からみても約30万km/sとなります。
光のドップラー効果については、特殊相対論を考慮に入れる必要があります。

光に関する赤方偏移、青方偏移という言葉ですが、たとえば緑の単色光が赤方偏移で赤くなれば終わりかというとそうではなく、より偏移すれば赤外線となり、さらに偏移すれば電波となります。同じく、青方偏移の場合は青色光になり、より偏移すれば紫外線になり、さらに偏移すればX線、ガンマ線になります。
また、ここでいう光というのは可視光だけでなくすべての電磁波を含みますから、以下の説明は電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線のすべてに適用できます。

(1) 光の場合の基本
音は空気を伝わるので、音源の運動と観測者の運動とは区別されました。
光にはそのような媒体はないので、ドップラー効果を考えるときに光源の運動と観測者の運動とは区別されません。
光源と観測者とが直線上を相対速度 v で遠ざかるとき、振動数は特殊相対論によると次のようになります。
   fo = (√(1-β)/√(1+β)) fs = (√(1-β2)/(1+β)) fs
ここで、β は相対論でよく使う記号で、β = v/cです。
音の場合と比較すると、光の場合は音の2つの場合(1)、(2)の相乗平均となっていることがわかります。
(相乗平均とは字の通り平均の一種で、a と b の普通の平均(相加平均)が(a+b)/2となるのに対し、√(ab)となるものです。)
相互に遠ざかる速度vを光速の6割とすると、
   fo = √(1-0.62)/(1+0.6) fs = 0.5 fs
となります。

音の場合の3(3)の式と比べると、音では vo と vs という二つの速度が出てきたのに対し、真空中の光の場合には v 一つだけです。
これは、音が媒質を伝わる波であるのに対し、光が媒質を必要としないからであり、両者の本質的違いの一つです。

(2) 横ドップラー効果
光のドップラー効果は音のそれとは単に計算方法が異なるだけでなく、原理が本質的に違います。
それを示すのが「横ドップラー効果」です。
これは光源と観測者とが相互の距離を変えずに逆平行に運動する場合です。
   ↑     o
   ○⇒|  ◎
   s  光  ↓
光源は上方向に、観測者は下方向に運動しています。
この場合の式は次のようになります。
   fo = √(1-β2) fs
これも相対速度 v を光速度の6割とすると、
   fo = √(1-0.62) fs = 0.8 fs
つまり光源と観測者とが離れなくとも、光速に近い速度で運動するだけで赤方偏移が生じるのです。
音ではこんなことは起こりません。
これは、「運動する物体の時間経過は遅れる」という特殊相対論からの帰結です。

(3) 運動方向を一般化した場合の式
一般には、光源 s が観測者 o からみて角度 θ の方向に速度 v で運動している場合、次のようになります。
   fo = (√(1-β2)/(1+βcosθ)) fs
 θ = 0 : 観測者とは正反対の方向に遠ざかる場合((1)の場合)
 θ = π/2 : 横ドップラー効果((2)の場合)
 θ = π : 観測者に真直ぐ向かって来る場合


( 5000字の字数制限に引っ掛かったので、次へ続く )
 

https://ameblo.jp/karaokegurui/entry-12471778007.html