Ｑ 宇宙の温度は絶対温度で３Ｋだと聞きました。摂氏でいうと、マイナス270℃ですね。
でも、よく考えてみると、私も宇宙の一部なのに私の体温は36℃です。
なんか変だな？
宇宙の温度についてはどう考えたらいいのでしょうか？
Ａ
１．温度は熱平衡にあるときに定義されます。
たとえば、風邪を引いたときに脇の下に体温計を入れて体温を測りますね。
このとき、体温計と脇の下が熱平衡になるまで(たとえば10分間)体温計を挟んでおかなければいけません。
このように、熱平衡の状態になるまでにはそれなりの時間がかかります。
一般的には、より大きな物体、より大きな体積ほどその中が熱平衡になるまでにより長い時間がかかります。
なお、物理では物理法則を表すのに摂氏よりも絶対温度のほうがずっと適しているので、後者を用います。
単位はＫ(ケルビン)で、摂氏との換算は次のとおりです。
ｔK ＝ ｔ℃ ＋273.15
２．宇宙空間には、後で述べる理由で３Ｋに対応する光(宇宙マイクロ波背景放射)が充満しています。
一方、太陽の中心部は約1,500万Ｋ、その表面温度は5780Ｋというように、恒星などは非常に高い温度をもっています。
また、われわれの住んでいる地球表面の平均気温は摂氏10℃(283Ｋ)前後となっています。
このように、宇宙は全体として熱平衡にあるわけではありません。
したがって、「宇宙の温度」を定義することはできません。
３．物体はそれぞれの温度に応じた光(電磁波)を放射しています。
これを黒体放射といいます。
たとえば、太陽はその表面温度に対応した可視光を放射しています。
また、われわれの身体は赤外線を放射しています。
この点は、正確には黒体放射といって光を完全に吸収する物体(黒体)についていえるのですが、実際上は地上の身近な物体から太陽などの恒星に至るまでほぼ黒体放射を行っているとみなして差し支えありません。
より詳しくいうと、どの物体もさまざまな波長の光を放射している(スペクトル)のですが、そのうちで最も強い光の波長が太陽の場合には可視光、われわれの身体では赤外線となっているのです。
４．よく「宇宙の温度が３Ｋ」だと言われるのは、宇宙マイクロ波背景放射の波長についてのことです。
宇宙が誕生して最初の数十万年間は高温のために陽子と電子の分離したプラズマ状態であり、光(電磁波)は電子と常に衝突するために直進することができませんでした。
この頃は、宇宙全体が熱平衡にあったために「宇宙の温度」を定義することが可能です。
そして、宇宙が誕生してから約38万年経ったときにバラバラだった陽子と電子が結合して中性水素(水素原子)となり、光は直進できるようになりました。
この現象は宇宙の全域でほぼ一斉に起こったために、宇宙がその光で満たされることとなりました。
これを「宇宙の晴上がり」あるいは「光子と電子の脱結合」、「電子と陽子の再結合」などといいます。(「晴上がり」は佐藤文隆さんの命名による文学的香り高い表現ですが、残念ながら国際的には採用されず、日本でしか使われていません。)
このときの温度は約3000Ｋであり、この温度の下で最も強い波長は可視光の赤色となります。
５．それから137億年経過して宇宙は約1100倍に拡大しました。
それに伴い、放射されたときには赤色だった光も波長が1100倍に伸びて今ではマイクロ波となりました。
(マイクロ波は電子レンジに使われている電磁波です。)
放射されたときには熱平衡にあったので3000Ｋという温度を表していたのですが、現在のマイクロ波は恒星などの物質と熱平衡にはありません。
したがって、厳密にいえば宇宙マイクロ波背景放射が「３Ｋの光」だというのは間違いです。
しかし、このときの光は波長が伸びて対応する温度が低くなっただけで、黒体放射の特徴をそのまま残したスペクトルとなっています。
ですから、３Ｋの物体が放射する光とほとんど同じスペクトルなので、通常３Ｋ放射などと呼ばれています。
６．以上をまとめると、つぎのようになります。
・宇宙は熱平衡にないので、厳密にいえば宇宙の温度を定義することはできない。
・しかし、宇宙晴上がり時の光がその後の宇宙膨張により現在は宇宙マイクロ波背景放射となって宇宙を満たしており、それを黒体放射とみなすと対応する温度は約３Ｋである。
・その意味で、宇宙の温度は３Ｋであるというのは分かりやすい表現としてよく使われている。
なお、これまで３Ｋと書いてきましたが、正確には2.725Ｋです。
参考
△黒体放射って何のこと？：http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68303163.html
★ 2016年3月2日、黒体放射のＱ＆ＡのURLを追加。
参考
△Ｑ＆Ａ一覧：http://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/68743060.html