『宇宙物理学入門』 | 宇宙とブラックホールのQ&A

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2019年6月6日にYahoo!ブログから引っ越してきました。よろしくお願いします。

久々の書評です(^^
桜井那朋 『宇宙物理学入門 宇宙の誕生と進化の謎を解き明かす』 講談社ブルーバックスB-1480 171頁 2007年5月発行 本体\800(税込\840)
http://books.yahoo.co.jp/book_detail/31891299

桜井さんは1933年生まれ、ということは今年74歳、神奈川大学の学長までされたので大家とお呼びすべき方です。
著書も昔から相当あるようですが、私の蔵書データベースには一冊もありませんでした。
ご専門は高エネルギー宇宙物理学で、そういう名前の高い本を昔買った覚えがあるので、たぶん入力漏れでしょう。
例によって読んだとはいえませんが(^^;

構成は、導入部に続いて、第3章から第6章までは星(恒星)の性質、構造、進化、終末で、私の好きなHR図も6回出てくるなどオーソドックスな内容となっています。
続く第7章が銀河、第8章が高エネルギー現象、第9章が宇宙論です。

帯に「『星の一生』がわかる宇宙の教科書」とあります。
この点は今みたように間違いないのですが、第9章の宇宙論は19頁しかないのでサブタイトルの「宇宙の誕生と進化を解き明かす」を期待すると肩透かしを食います。
「宇宙の誕生と進化を解き明かす」のであれば、当然別の著者をもってくるべきしょう。
宇宙物理学の本だからといって安易にこういうネーミングをしてはいけません>編集者の方(^^

サブタイトルは別として、どの項目についても少ない分量の中で手際よくまとめていて、表題どおり宇宙物理学の優れた教科書になっていると思います。
ただ、逆に言うと個々のテーマを詳しく論じているわけではないので、読み物としては同じブルーバックスでも谷口義明さんの『クェーサーの謎』や『暗黒宇宙の謎』の方がずっと面白いです。
それは本の性格の違いで、仕方ないでしょう。
体裁は縦書き右開きで、数式もほとんどなく、文系の宇宙好きを取り込もうという配慮がうかがえます(^^

以前ここで書評を書いた谷口義明著『宇宙を読む』や福江純責任編集『宇宙旅行ガイド』をすでに読んで、もう少し理論的なことも学んでみたいと思う読者には最適です。
ただ本書はそれらと違って白黒なので、きれいな図版はありません。
図は結構いいですが、写真はパッとしないものばかりです。
まあ、とにかく安いから仕方ないよね(^^

あと細かい点でいくつか気がついたことを書いておきます。
・連星が一般的であるとして、「太陽のように単独で存在している星はむしろまれなのである。」(p.29)とありますが、「まれ」という言葉はいくら何でも強すぎるのでは。単独星と連星の数の比を示してほしい。
・図5-1と図5-2で原始星の進化経路をHR図上で示していますが、ただの線なのでどちらの方向に向かうかがわかりづらい。こういう図では矢印を付けてほしかった。
・「(銀河系中心のブラックホール)あたりには、小さな伴銀河があることがわかっており」(p.118)とありますが、銀河系の中に取り込まれてしまっているのであれば、すでに伴銀河とは呼べないのでは?

内容には無関係ですが、ブルーバックスのシリーズ番号B-1480というのは、2年くらい前まで遡るものです。番号だけ先にとっておいて執筆が遅れたのか。
謎です・・・