狂躁亭日乘・『春の祭典』初演は大失敗?1805291200 | おととひの世界

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今日5月29日
“  Le Sacre du Printemps ”
    “  The Rite of Spring ”

1913年5月29日パリ
イゴール・ストラヴィンスキー
  『春の祭典』初演記念日

元々ロシア貴族で
チャイコフスキーのいとこ
セルゲイ・ディアギレフが
興行主になっていた

    “  Ballet Russes   バレエ・リュス  ”

(ロシアバレエ団くらいの意味か)

これスポンサーは
スペイン王室だったらしいんだけど

日本で『東洲斎写楽』の正体がおそらく
『ツタジュウ・蔦重』こと
蔦屋重三郎と言われる版元だった

レンタルソフト店
『TSUTAYA』 の名前の元

蔦屋重三郎は出版プロデューサー

東洲斎写楽は
どの絵描きだったか?
なんて話を議論するのは
ほとんど意味がありません

東洲斎写楽は
短期間に突如現れ
おびただしい作品を残して消えました

浮世絵版画は
一人でやるものじゃありません
元デザインの絵を書く人

これが作者とも言えないんで

まず絵師がいて
そして版木を細工する彫り師がいて
そして刷り師・印刷のプロへ

そもそも画のレイアウトを
どうするかということまで
『版元』が決めている

他のすべての浮世絵もだけど
ほとんどがそうやってできている

どんな絵師を使うかで
画のデキが決まるということは
あるかもしれません

出版プロデューサーが
なにか決めなければ
何も動かない

最終的にカラーコーディネートまで
そっちの仕事です

確かに現場のアーティストも
大事かもしれない
しかし芸術作品

その出来を決定するのは
多くは『プロデューサー』なんです

ですからもはや
『誰が絵を書いていたか?』
なんていうことは
たいした問題じゃない

『東洲斎写楽』は
『絵師』ではない

天才美術プロデューサー
そして出版コーディネーター
そう考えるしかありません

今ハリウッド映画が
絶望的にダメになっているのは
プロデューサーを
ヘッジファンドがやっているからで

金儲け優先だから
漫画中心になります
マーベルのアメコミとかね

文化って
アーティストも大事だけど
プロデューサーも同じくらい
じつは大事なんで

スターウォーズが面白かった
おそらく面白くなくなると思うけど

いやマニアが見ていた目から見れば
面白くなくなるだろうということ
あざとい面白さは
増してくるだろうけどね

FOX 映画をディズニーが
買い取っちゃったでしょ?

しかしシリーズの根底に横たわる
生命力みたいなものは
早晩なくなるだろうと思うね

あのシリーズは
製作者・プロデューサーと監督が同じ
『ジョージ・ルーカス』

映画監督は板前なんですよね
ネタを選ぶ権利はない

プロデューサーがいて
呼んで来られて
与えられたネタで料理を作るだけ

そこでプロデューサーと喧嘩すると
監督はクビになります

何から何まで
思った通りに映画を作ろうと思ったら

プロデューサーと監督を
兼ねるしかないんですよ
『スパルタカス』は
スタンリー・キューブリックの映画だけど

主演兼プロデューサーの
カーク・ダグラスと衝突

だから100%
キューブリック映画とは言えない
これはなかなかできないけれども
映画監督は思い通りに
映画を作ろうと思ったら

自分がカネを集めてきて
スポンサーも見つけてきて
プロデューサーになるしかない
そしてキャストも全部
自分一人で決める

スターウォーズにおける
ジョージ・ルーカスがそうだった

あれは巨大な自主制作映画なんですよね
だから面白かった

黒澤明監督が晩年に
大作をたくさん作りましたけど

あれはコッポラとかスピルバーグとか
あるいはルーカスとかが
カネを出し合って

心酔する黒澤明監督のために
自由に映画を創る環境を
用意してくれたからできた

現在なかなかそうはいかない

芸術に隅々まで
資本主義が侵食してくる以前には
そういう人があちこちに

ディアギレフは典型的に
そういうタイプのプロデューサーです
集めてきた才能だけでもすごいですよ

イゴール・ストラヴィンスキー
モーリス・ラヴェル
マヌエル・ド・ファリャ
クロード・ドビュッシー

しかも下働きに
舞台装置を作らせ描かせていた
絵描きさんのこの凄さ

マルク・シャガール
パブロ・ピカソ
サルバドール・ダリ
そしてマリー・ローランサン

私は中止された東京都市博の
美術展示だけ集めた展覧会を
見に行ったけど

バレエ・リュスの舞台緞帳幕の巨大な絵
ピカソでしたよ
おそらくピカソにしても
最大級の作品じゃないかと思うけど

そしてここから育っていった指揮者
エルネスト・アンセルメ
ピエール・モントゥー
モントゥーは『春の祭典』の初演を担当
客席から瓶が飛んでくる中で
タクトを振ってたらしいですよ

そしてあのイゴール・マルケヴィッチね
マルケヴィッチは10代になるか
ならないかぐらいの頃から
参加してます

そして踊り手は
あの伝説的なバレエダンサー
ニジンスキーです

後に発狂してますけどね
NHK の『映像の世紀』に
その発狂した姿が映ってて哀れでしたが

興行主ディアギレフとは
同性愛関係だったと言われてますが
どうなんでしょう?

どうです?
これだけの才能を
一人でかき集めてきて
文化興業をやってたんですよね
綺羅星のごとくどころじゃない

かかる事業におカネを出していた
スペインの王様ってのも
本当に偉いと思いますな

教養はカネの使い方に出るんで
どうせ使うなら少しでも
マシなことに使うべきだね

マヌエル・デ(ド)・ファリャ
『恋は魔術師』『三角帽子』
バレエ・リュスが初演

ファリャという人
自分から売り込むことを
ほとんどしない人だったので
こういうことがなければだよね

そしてこの舞台装置を作っていたのが
あのピカソだった
ピカソは前からここで働いていて
仕事をもらっていた

しかし興行主の相次ぐ設計変更に
かなりウンザリ閉口していた

そこで新素材・ダンボール紙を
使うこと思いついた

ダンボール紙に直接描き
それを切り取って組み立てる
おそらくキュビズムって
このあたりから

だからディアギレフの貢献度って
大変なものですよ
今こういう人がいないでしょ?
バレエ団の末期に
近いところにいたのが

あの大詩人ジャン・コクトーなんだけど
映画監督としての方が有名な
『美女と野獣』とか
絵描きとしても有名でした

でこういう人はだいたい
サロンを持ってるんだよね
あらゆる分野の芸術家が集まるわけ
今そういう人がいないじゃん?

居心地のいい奴同士で
ホームパーティーやってるだけだよ
ココロザシ低いからね

『春の祭典』にやっと話戻すと

ともかく会場ですでに
大乱闘が始まっていて

指揮者のピエール・モントゥーが
『評価は聴いてからにしてください!』

そう叫ばなければならないほど
終了後も表に出て大乱闘
騎馬警官隊まで出動している

こんな不協和音の塊みたいなもの
芸術の都の真ん中で鳴らしやがって

パリをバカにしてるのかキサマ!?

歯医者を呼んでくれ!
歯が痛くなってきた!

一方でこれこそ芸術だという人もいて
しかしこれだけ騒ぎになったら
無視されるよりは確実に
『成功』だと思うけどね

10年くらい前のフランス映画
『シャネル&ストラヴィンスキー』

国立パリ・コンセルヴァトワールで
演劇を学んでいる女優さんでありながら
『シャネルのミューズ』をやっている
スーパーモデルでもあると言う

アナ・ムグラリスさん

女性から見れば
どれだけあんたってくらい
才能に恵まれまくっている人が
主演でしたけど

シャネルさん当時
自分のカラダを売りながら
社交界に名を成していた

まだまだ社会は
保守的だったんだよ
時あたかも第1次世界大戦勃発前夜

既成秩序にうんざりする
空気が満ち満ちていた
暴力的衝動を渇望していた欧州社会

『春の祭典』はソコんとこ
うまくハマったんだよね

そうした出自を持つ
ココ・シャネルから見たって

パリの紳士たちを殴りつける
暴挙に近いことをやった
ストラヴィンスキーはヒーローに

数年後彼女は財産をなし
飛ぶ鳥を落とす勢いの
クチュリエオーナーになり

一方でストラヴィンスキー
ロシアで革命が起きてカネに困っていた
シャネルはパトロネージを申し出ます

優れた文化人の背後に
女性の優れたパトロンがいるんですよね
二人は深い関係になるが

ストラヴィンスキーが
とんがっていたのは芸術だけ
中身はいたって保守的なオヤジ
関係は長く続きませんでした

しかし二人とも長生き
なんとストラヴィンスキーが死んだ
1970年頃まで
シャネルの支援は続いていたんだね

こういう女の人がいた頃
ヨーロッパ文化ってのは凄かったよね

余談だけどこのディアギレフって人
バレエ興行であてる前は

あの伝説的バリトン
フョードル・シャリアピンを主演に
ムソルグスキーのオペラ
『ボリス・ゴドゥノフ』で大当たり

大指揮者トスカニーニを感動させ
すぐメトロポリタン歌劇場へ
歴史上最もカネがかかった
オペラ舞台だった

有名人になった
シャリアピンは大正時代の日本にも
そこでシャリアピンのリクエストに
応じて作られた料理が

あの『シャリアピンステーキ』だ
シャリアピンステーキってのは
日本製の有名料理

こんなところにまで
影響を与えている
さすがは文化プロデューサー