前回の「映画」で書いた東京国際映画祭の中のインドネシア映画特集で、特に印象に残ったのは「ラブリー・マン Lovely Manという映画です。タイトルからしてちょっと変な感じがしますが、ポスターを見るとこれは想像がつきます。インドネシア語ではバンチと言われる男娼が主役の映画です。

 

 

ストーリーは田舎に住むの高校生の娘がいて、父親が小さい頃に家出をしてジャカルタへ行ってしまい、母親と二人で暮らしていました。ところが子供が出来て出産するかどうか悩み母親にも言えず、仕送りをして家計を助けてくれている父親を捜しにジャカルタへ出てきます。

 

ジャカルタの街を捜しまわりますが、人伝えに聞いた場所には仕事場らしき事務所も何もありません。さんざん探した挙句にだとリついたところにいたのは、夜の道端で客を探している女装し男娼の姿をした父親でした。

 

てっきりまともな仕事をしていると思っていた娘にとって、それはショックで立ち直れないほどでしたが、女装姿の父親と向き合っているうちに、自分のお腹の中に子供がいることを父親に打ち明けたのです。そして娘は、イスラム教徒の女性が頭にかぶるジルバップ(スカーフ)を脱いでしまう、そのシーンがこれからは建前ではなく、本音で生きていこうとする娘の決意の表れとなります。

 

私たち日本人からすると、インドネシアの人たちはイスラム教の厳しい教義に縛られて、ストイックに生きていると思いがちですが、こうした映画が製作されている背景には、必ずしもそういったことでは整理できない現実が、インドネシアにはあるということでしょう。

 

この映画で主役の女装したバンチを観て、私がジャカルタに住んでいた1990年前半ジャカルタの南の高級住宅街、東京でいえば田園調布のようなところに、夜になると出没する女装したバンチたちの姿を想い出しました。彼らは真っ暗な夜の道端に立っていて、車のヘッドライトに照らし出されると、スカートを両手の指先でめくりあげポーズを作るのです。いつぞや車の窓を開けて冷やかしたら、怒って車に突進してきて車を叩かれたのには驚きました。その敏捷性といい叩く力といい、やはりそれは男性のものだったのです。

 

他にもジャカルタを舞台にした映画がありましたが、そこにもバンチが登場してくるところをみると、その辺の世界は今も昔と変わっていないようです。映画の後にトークショーがあって、ひとりの日本人がジャカルタへ観光旅行に行ったときには、映画に出てきたようなバンチのような人は見掛けなかったと質問していましたが、観光旅行で見るジャカルタの街とバンチたちが出没する活動地域は違うので、ジャカルタ観光でバンチと遭遇することはまず少ないでしょう。

 

(娘役の女優と監督、二人は夫婦)

 


インドネシア ブログランキングへ


にほんブログ村