こちらもポール・マザースキー監督作品。

これはいつもお世話になってる北海道の”渋映画推奨”シブ(支部)長

のvivajijiさんからオススメいただいた作品です。



愛情いっぱい!家族ブロ!-ポスター


舞台は1940年代のNYコニーアイランド。


これはユダヤ移民の話です。

原作はノーベル文学賞受賞作家アイザック・B・シンガーの同名小説。

ポーランド系ユダヤ人のハーマンはホロコースト。

今でも悪夢に毎日うなされている。

それを助け、支えてくれたのがヤドヴィカ(マルガレート・ゾフィ・シュタイン)だ。

彼はヤドヴィカには愛情というより命の恩を感じている様子だ。

今は彼女と結婚し、つつましい生活を送っている。


ハーマン(ロン・シルバー)はラビ(ユダヤ教の牧師)事務所で

ラビのレンベックが書いた経典を英語に翻訳する仕事で食いつないでいる。


彼の先妻はナチスの収容所で殺された。

こどもたち二人も犠牲になってしまった。

多くの収容所経験者は自分が生きていることが罪という考えにおちいると言います。

悲惨な状況で死んで当然だったのにそこを生き延びてしまったことに

奇跡や感謝を感じるのではなく、罪悪感を感じるのですね。


彼の優柔不断さはそんな不安定さから来るのでしょう。

この優柔不断さがなんともいえない。

煮え切らなさが腹立たしかったり、同情を買ったりしますね。


自分が生きているということを味わうには肉体的な結びつきしかない。

それ以外では死んでいるのと同じこと。


献身的な妻がいるのに、収容所で知り合った愛人マーシャ(レナ・オリン)との関係が断ち切れない。

同じ傷を持ったもの同士、どうしても別れられない。

大胆にも出張といってはと旅行を楽しむ。

ヤドヴィカもうすうす感づいている。


しかもはヤドヴィカは妊娠したというし。

マーシャには結婚を迫られる。


レナ・オリンはいつもこういう役ですよね。とにかく愛人顔(苦笑)

彼女の役どころは「蜘蛛女」や「存在の耐えられない軽さ」 ともかぶってくる。


ハーマンとマーシャ、バカンス旅行に出ていた元に新聞広告が。

電報みたいなものでしょうか?

そこには知らせたいことがあるからすぐに帰れとあった。


なんと死んだと思っていた妻が生きていたのだ。


でかいアンジェリカ・ヒューストンが演じるタマラはこの作品の中では一番の男前!(笑)

彼女も想像を絶する経験をしてきたのでしょう。

なにもかも潜り抜けてきてあっけらかんとした大物ぶりと凄みをみせてくれます。


愛情いっぱい!家族ブロ!-日本版ポスター


夫というより赤ん坊をあやすように接してくれる。

何事も決められない元夫のために道を照らしてくれる天使のような存在。


過去、現在、未来・・・

3人の女との結婚のしがらみで苦しめられるハーマン。

まさに愛の煉獄!


一番男を振り回すレナ・オリンのマーシャに一番ひかれてしまうのも納得。

だけど彼女もハーマンには内緒のことが多く、一番謎めいています。

妻になりたいがために想像妊娠になったりする。

マーシャには老母シフラ(ジュディス・マリナ)もいるし、

母親を一人にしてはおけないという優しい面もある。

おまけに夫とは別れたと言っていたのにその夫とは離婚調停中。


そんな夫がハーマンの前に現れて・・・・・


マーシャの夫役はポール・マザースキーが演じてます。

別れて欲しいがために離婚調停中の夫と寝るような女なんだ。

ハーマンは怒るどころか、マーシャの本性を教えてくれてありがとうと

この夫と握手する。(笑)


マーシャと別れる決心をしたハーマン。

マーシャは命を絶ってしまいます。


狼ボイスのレナ・オリンが叫ぶとそれだけで迫力。

アンジェリカ・ヒューストンともバトルシーンがあればなあ・・・

かなり迫力満点だったんじゃないかな?

ここではアンジェリカ姐さんはどっしりと構えてます。

でもこどもを亡くしたさびしさを抱えたまま。


本当ならば、ハーマンとタマラはこどもたちとともに幸せに暮らしていたことでしょう。

それがホロコーストで波乱万丈になってしまった。

その重さがやるせないです。


タマラは「1回死んでるから」となんでもどんとこい!って感じで彼女が画面に映ると安心してしまう。(笑)


3人三様の女性像もとても興味深く、その間を行ったりきたりする情けない男の悲喜劇。

ときおり挿入されるビーチの

風にゆらゆらゆれる観覧車が本作を如実に物語ってる。


タマラとマーシャの間に挟まれて影の薄いヤドヴィカだけど、

死んだと思ってたタマラが生きていて、家を訪ねてくるシーンでは

幽霊が来た!とビビリまくっててそこがコミカルで熱演してました。

ヤドヴィカが妊娠、出産し、新しく生まれた子に自ら命を絶ったマーシャの名前をつけて

育てていこうとするヤドヴィカとタマラ、女二人のしぶとさ、強さ!


ハーマンはどっかへ逃げちゃった。(苦笑)


このストーリーテラーぶりが小気味いい。

もっともっと重くて暗く、真剣に出来るテーマなのに結局

男って、女ってっていう風に割り切って撮るのもマザースキータッチなんでしょう。