友人に電話した。
「誰?」
「豪だよ」
「ごう?」
ぼくの知る彼とは気迫が違う声だ・・・??
「Pだろう?」
「誰が?」
「お前だよ」
「おれ?」
話が通じない。
やつはボケた!
そう思った。
「今度一緒に飲もう」
「だから、誰なんだよ」
もう一度名乗った。
ダメだ。
役者としても一流だった男だ。
名は通っていないかもしれないが、
ぼくの知る俳優の中では五本指に入る。
ボケるのはいいと思う。
が、おれの名前くらい思い出して欲しかった。
そういえば、
今は亡き山形の叔母が、
自分の旦那が見舞いに行くと、
「豪ちゃん、来てくれたか」
と大喜びするという話を聞いたことがある。
行く度にそういわれた叔父は、
「おれよりお前のほうが印象強いのかなァ」
寂しそうな顔をしたのを思い出す。
「また電話するよ」
切ろうとすると、
「なァ、間違い電話はやめてください」
と言われた。
日をおいて改めて電話してみよう。
このままでは、寂しすぎる。