よくなった男(その三) | 演劇人生

演劇人生

今日を生きる!

稽古や勉強会で、

彼が休んだのは2~3日。

この6月には、

横浜赤レンガ倉庫ホールの

「雛」公演では、

書生の役を割り振った。

英語を交えたセリフだったが、

多少の難はあったが演じ終えた。

そして1ヶ月が過ぎ、

三浦綾子さんの作品の

「壁の声」で、

死刑囚の男の役を読ませた。

死刑囚多賀谷はドモリである。

そのドモリの部分だけを彼にやらせ、

陰の声をぼくがやろうと思っていた。


初日は、

思いを通して、

ぼくとSくんと二人で一つの役を読んだ。


三園さんが、

彼に全部読ませてはどうかと

言って来たので、

二度目の稽古で読んでもらった。


この役は、

彼に全部やらせることにしてもいいと思った。


そういえば、

最近の彼の日常のボキャブラリーも

豊富になっている・・・

むっ「夏休みはどうしてた?」

にひひ「お盆以外は実家に帰らなかったです」

そして・・・

にひひ「大学のゼミがありましたから」

随分な変わりようだと感じる。


時折、台本の読み違いがあるが、

確実に俳優としての読みになりつつある。

拙いところは仕方がない。


俳優として成長するのはこれからだが、

そのスタート地点に立とうとしている・・・

それだけは確かだ。


先日、団友のK氏が来て、

ラブラブ!「アドックで勉強すれば、

 必ずよくなる」

と、励ましていたが、

それは保障しない。

ただ、彼は、

俳優をしての生き方を

見つけるための数ヶ月を、

休むことなく

続けてきているのだけは確かだ。


彼は演劇セラピーを求めて

来たのではない。


しかし、確実に変わった。

今度の経験で、

更に変わってくれるに違いない。


ラブラブ!「伊藤さんにかかると

 素人でも何とかなちゃうのよね」

という人もいる。

ぼくはマジシャンではないし、

名のある演出家でもない。


ただ、ぼくの周りには、

必ず、何とかなる人がやってくる・・・

それだけなのだ。

Sくんも、

何とかなる男の一人だったのだ。

そして、

よくなった男なのである。


何となく楽しみを感じるじゃないですか。


<・・・といっても歩き出したばかりなのだが・・・>


<おわり>