★この物語は全てフィクション
です。たとえ劇中に実在する
名称があっても架空の物語で
すのでご了承ください。
＜痛快予想バトル＞
小説「疾風スタジアム」
第２回 ～高松宮記念～
「疾風スタジアムはゲームで
ある。よってこのゲームで一番
大切なことは、何人たりともここ
にお金を介在させてはならない
ということだ。楽しみはお金で
はなく熱狂なのだ」
私の住んでいる国立市に「椚（く
ぬぎ）」という拉麺屋がある。
私は拉麺好きだが、上手い拉麺
しか食べないことにしている。
だからここへは毎日でも通いたい
のだが、如何せん私は糖尿病だ。
上手いものを遠くに追いやる病気
には、さすがに勝てない。
２か月に１回、こっそり通うしか
なかった。
以前、その店に高校生の翔太を
誘ったことがある。
ちょっと高校生にはハイレベルか
と心配したが、翔太は上手いと
言って替え玉を注文していた。
それを見て、私は彼を信用する
ことにした。
ここの拉麺は、豚骨味噌しか食
ったことのないヤツにはわから
ない味だ。
それを高校生が上手いと言って
食っている。
彼は若いが、この味を理解して
いた。
本当に上手いものとは何か、彼
はそれを本能的にわかっている
のだ。
と同時に、それは彼の母親がちゃ
んとしているという証でもある。
私は、彼と仕事をしようと思った。
このゲームには、どうしてもシン
ボルが必要だったからだ。
それができるのは、この男しかい
ない。
そう思った。
この物語を語る前に、昨年参加
してくれた町のことを、少し触れ
ておこうと思う。
府中市は、甲州街道を挟んで
南北に分断されている。
南に東京競馬場。
北に府中の森公園。
私はこの２つのゾーンを、南
インサイドと北アウトサイド
と呼ぶことにした。
ギャンブルは南、ゲームは北だ。
この町の人たちはとにかく熱い。
近くには競艇場があり、立川競
輪もある。
まさに、この区画はギャンブル
地帯なのだ。
参加してくれた町の位置関係は
以下。
＜地図 マピオンより＞
◆南インサイド
八幡町
本町
是政 （これまさ）
◆北アウトサイド
寿町
天神町
緑町
南北、それぞれ３つの町が参加
していた。
まずは昨年の結果から。
１位 寿町
２位 天神町
３位 緑町
４位 是政
５位 八幡町
６位 本町
ご覧のとおり、昨年は北アウトサ
イドの３チームが上位を独占した。
つまり、南インサイドは、北アウ
トサイドにまったく歯が立たな
かったということになる。
今年は南インサイドが燃えている。
物語が敗者のためにあるとするな
ら、まずは南インサイドで断トツ
最下位だった本町から書こうと
思う。
本町の特徴は、皆の仲が悪い
ところだ。
よって問題が起こらないよう、
昨年一番成績の良かった者を
今年のリーダーにすると決め
ていた。
しかし、あろうことか、昨年一番
成績が良かったのは競馬歴１年
のお姉ちゃんだった。
金曜日、四神の御心が発表
される。
◆２０２０ 高松宮記念
（ユーチューブより）
臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前
北の「玄武」
南の「朱雀」
東の「青竜」
西の「白虎」
四神から受け継ぐ、未来への
予言。
煙の中から、美少年荒神翔太
が登場する。
「四神が導く、電撃の６ハロン。
高松宮記念を制するのはどの
馬だ！！」
「四神の御心、その２つの数字
とは・・」
１
８
今週の該当馬は、これだ！！
★稼働率・・９０％
◆四神の６頭
（１と８にクロス（隣接）する
６頭）
１８ ノームコア
１ ステルヴィオ
２ アウィルアウェイ
７ グルーヴィット
８ グランアレグリア
９ タワーオブロンドン
この中から１頭選ぶべし！！
＜締め切りは、当日１０時まで＞
金曜日の夜。
本町チームは、いつものように、
居酒屋「亀」に集合していた。
メンバーは５人。
昨年リーダーをやって１０連敗
した、鶴。
そして、熱血漢の喜八。
若者代表の俊夫。
居酒屋店主の曲者、亀。
女性代表、
今年リーダーを務める架純だ。
店には何となく不穏な空気が漂
っていた。
乾杯が終わると、架純が第一声
を発した。
「一応、指名馬を発表する前に、
皆さんのご意見も伺った方が良
いと思っています。
まずは、昨年リーダーだった鶴
さんからお願いします」
「いやー僕は１０連敗男だからさ」
鶴の自虐に誰も反応しなかった。
「ぐずぐずしてねえで、早く言
えよ」
いらだつ喜八。
「僕が思うに、まずは中京のコー
スを攻略すべきだ思っています。
タフなコースに合う馬を選ぶほう
が・・」
「で、どの馬なんだよ？」
喜八の突っ込みに不意を突かれ
た鶴は動揺した。
「それは、まだ決めてないです」
「相変わらず、はっきりしない
ヤツだな」
亀が横やりをいれた。
定例会議は、まったく盛り上が
らなかった。
務めて明るくふるまう架純。
「じゃあ俊夫君、お願いします」
「僕はさあ、リーダーの架純ちゃ
んに従うことに決めてるからさ」
「嫌な男だね」と亀の声。
不機嫌そうな喜八を見て、架純
は、すかさず振った。
「じゃあ、喜八さんお願いします」
ギョロっと見渡す、喜八。
「いいか、俺たちは昨年最下位
だったってことを忘れるなよ。今
年は東京競馬場に隣接する本町
の威信に賭けても、南インサイド
の中でトップに立つんだ、わかっ
たな。２年連続最下位だけは許さ
れないからな」
「えーっ？ それって４位って
ことですか？」
信じられないという表情の架純。
「そうだ」
「そんなのやめましょうよ、どう
せならトップを狙いましょうよ、
喜八さん！」
「そうですよ、架純ちゃんの言う
とおりですよ」
俊夫も加勢した。
「うるせいよ、じゃあどうすん
だよ、どの馬にするのか言っ
てみろ」
架純の顔が突然凛とした表情
に変わった。
いよいよ架純の出番だ。
「それでは、発表します。２０年、
高松宮記念で本町の選ぶ馬は、
アウィルアウェイです」
静かなトーンは、不思議に説得
力があった。
一同驚き、そう来たかという表情
に変わった。
「理由は何だよ？」
喜八も、その理由を聞いてみた
かった。
架純は椅子から立ち上がり宣言
した。
「はい、目がかわいいからでーす。
バッチ・グー！」
親指を立て、自信満々の架純。
皆は、バッチ・グーにドン引き
していた。
喜八の顔がどんどん赤くなって
いく。
「てめえ、競馬を舐めてんじゃね
えぞ、ふざけんなよっ！」
架純に殴りかかろうとする喜八。
それを必死で止めに入る俊夫。
頭を抱える亀。
鶴もブツブツ言いながら止めに
入った。
「ねえ、コースのことも少し考え
ましょうよ」
喜八は切れた。
「おめえ、うるせーんだよ！」
と、このチームはいつもかみ
合わない。
ただ自分たちで決めたことは
守るしかなかった。
昨年１０レース中４回当てたの
は、やはり架純なのだ。
彼女がリーダーであることに
変わりはない
と、思い知った１回目の会議
だった。
第１回「疾風スタジアム」は
動き始めた。
日曜日の高松宮記念に向かっ
て、各町は忙しい時間を過ご
していた。
だが、だが、しかし・・・
オリンピックの延期が決まると
同時に世間の関心は「コロナ
ウイルス」に移った。
我々、疾風スタジアム事務局
にも、都から度々の自粛要請
があった。
「疾風スタジアム」自体は、競
馬が施行されれば、ゲームと
しては自動的に成立する。
しかし、最も重要な府中の森公
園でのイベントができないとな
ると痛い。
でも残念だが自粛せざるを得
なかった。
その旨、ホームページで市民
にも伝えた。
一部有志の人が、けやき通り
で会報だけは配った。
また、始まると期待してくれて
いる市民の方には申し訳ない
が、このゲームはあくまでも
「遊び」だ。
はっきり言うと、病気になって
までやることではない。
会報には、各町で指名した馬
とその推奨理由が書いて
あった。
＜会報＞
第１回 ＜高松宮記念＞
各チームの推奨馬と、そのコメ
ント。
◆寿町・・グランアレグリア
リーダー（荒川一平）
ＧⅠでは、事前オッズ表の３０倍
以上は来ません。
（赤で囲ってあります）
ご覧のとおり混戦なので、どの馬
にもチャンスがあります。
ただ、中京と１２００Ｍで複勝率
の高い血統はロードカナロアと
ディープインパクト。
それぞれ３０％超えの成績とです。
なら、ディープ産駒のこの馬を選ぶ
べきだと思います。
◆天神町・・グルーヴィット
リーダー（宮司・山岡平八郎）
３月２９日の旧暦は六白。
その六白が導く数字は３です。
よって九星が導く該当馬は、
２，３，４と５，６，７になります。
四神の６頭と重なる馬番は、
２，７の２頭のみ。
ここは荒れると見て、グルー
ヴィットを選びます。
◆緑町・・タワーオブロンドン
リーダー（坂口春男）
四神の６頭の上り３ハロンを、
それぞれ比べてみます。（評価
・・Ａ～Ｇ）
３ハロンが良い馬は３頭。
８ グランアレグリア Ｄ評価
９ タワーオブロンドンＡ評価
１８ ノームコア Ｃ評価
ここは、やはり最上位、Ａの９番
を選択します。
◆是政・・タワーオブロンドン
リーダー（船越寅雄）
名前がカッコいいから。
◆八幡町・・ノームコア
リーダー（橋本哲二）
穴狙いの私としては、一番誰も
買いたくない馬を、あえて選び
ました。
大外のノームコア。
一発に期待します！！
◆本町・・アウィルアウェイ
リーダー（千家架純）
目がかわいいから。
高松宮記念、当日。
冷たい小雨が降っていた。
本来、ここはたくさんの人で
溢れているはずだった。
しかし、今日の府中の森公
園には誰一人いない。
各町は、それぞれのやり方
でレースを見守った。
でも、彼らの予想は熱い。
どんなに形が変わろうとも、
それだけは変わらない。
本町、亀の居酒屋。
当日、亀は店をお休みにした。
本町の５人組は、揃ってここで
レースを見ることにした。
架純は、けやき通りで、まだ
会報を配っていた。
残りの４人は、大きなテーブ
ルに座ってＴＶで競馬中継を
見ている。
喜八が、皆にボヤいる。
「目がかわいいからとか、名
前がカッコ良いからとかさ、
そんなこと言ってるのは、うち
と是政の爺さんとこくらいだぜ、
ホント悲しくなるよ」
「でも、何が勝つかわからない
のが競馬ですから」
前の席の俊夫が慰めた。
「会報を見ると南インサイドの
レベルの低さがわかるな」
「お前が言ったんじゃないか、
成績順ってさ」
亀の発言に頷づくが、喜八は
そっと尋ねた。
「じゃあ亀さんは何から買った
んすか」
「ああ、俺はグランアレグリア
だよ」
「へー、俺はダノンスマッシュ
です」
と、笑いながら喜八は言った。
「何だ、誰も架純ちゃんのこと
信用してないじゃないですか？」
俊夫も笑っている。
「ねえ、僕にも聞いてくださ
いよ」
話に入れない鶴がせがんだ。
「お前はいいよ」と喜八。
「もし１０連敗の人と同じだっ
たら、ちょっと嫌ですもんね」
皆、大笑いをした。
「そんな」
遅れて架純が店に帰ってきた。
外は寒そうだった。
席に着くなり架純が言う。
「いやー、緊張しますね。やっぱ
リーダーになると責任感があるっ
て言うか」
皆、黙っていた。
「はずれたら、すみません、次回
また頑張りますから」
たまらず、喜八が声を出した。
「誰も、お前の予想なんか期待
してねえよ」
「えーっ、喜八さんたら私のこと
嫌いなんですか？」
突然、隣の喜八の腕にしがみ
つく架純。
驚いた表情の喜八。
「嫌いに決まってるだろ」
「喜八、顔が赤くなってるぜ」
亀が突っ込んだ。
「うるせーよ！」
こんな時でも、皆、何だか楽し
そうだった。
高松宮記念発走が近づいて
きた。
本来なら、檀上に荒神翔太
が登場し大きな歓声があがる
はずだった。
しかし、今年はちょっと寂しい
幕開けとなってしまった。
でも、彼らの気持ちはどこに
いても変わらない。
他の男たちも、きっと同じ
思いだと思う。
胸躍る初戦。
高松宮記念のファンファーレ
が鳴った。
架純は手を合わせて祈っている。
皆、緊張感でソワソワしている。
各馬、ゲートイン終了。
本町と架純の夢をのせて、高松宮
記念がスタートした。
ついに、ゲームが始まったの
だ・・！！
次週、大阪杯に続く
http://blog.with2.net/link.php?1045553
＜カッパの会＞
詳しい内容が知りたい方は↓