§6市原の郷土史132.地質図の利用
以前、「地図を読む」というシリーズで、迅速測図と現在の地図との比較図(「歴史的農業環境システム」より)などを歴史散歩に役立つ参考資料として、このブログでご紹介したことがありました。
実は迅速測図などと同様に、地質図もまた歴史散歩にかなり役立つものですので、以下、実際に千葉寺散策用資料としてカッパが作成してみたパワポの画面を中心に地質図の利用例をご紹介いたしましょう。
上の地図は房総半島が黒潮や親潮といった海流の影響を強く受ける立地にあることを説明するものです。実際に千葉県では和歌山の金剛峯寺を中心とする真言宗の寺院や同じく和歌山の熊野神社を分祀した神社が数多く存在しています。また東北の出羽三山への信仰が篤く、市原市内だけでも三山塚が数百もあったと考えられています。
千葉寺の三山塚(供養塚、梵天塚、行人塚などとも)
さらには富士塚や秩父の三峰神社など、各地から房総半島に流入してきた様々な信仰の遺跡も存在しています。
千葉寺よりも内陸部には有名な加曾利貝塚などの貝塚もあり、現在の地形と縄文時代の地形との大きな違いに気付かされるでしょう。なお、千葉県の場合、海に面した台地の縁には貝塚、古墳、寺社などが存在しがちであり、遺跡のホットスポットと言えるような場所になります。千葉寺もそのような立地であり、今後、寺以外にも発掘すれば様々な時代の遺跡が出土するかもしれません。
※日本列島はおよそ2千5百万年前頃から大陸と分離し始め、1500万年前には大陸と完全に分離して日
本海が形成されていった。日本列島がそれらしくなってきたのは約500万年前から。日本列島が関東辺
りを境にして軸が北北東方向に折れ曲がっている。この地形こそが房総半島を日本史上、特別な場所
にしているとも考えられる。地質図では鼠色で示される玄武岩系は苦鉄質(鉄やマグネシウムを多く
含む)なので色が黒っぽくなる。富士山の溶岩も黒っぽく、玄武岩系である。対立する珪長質の岩石
はケイ素や長石を多く含む(花崗岩、流紋岩など)。安山岩はそれらの中間的な性質であり、黒っぽい
灰色(地質図では黄土色。▲印の真鶴がら江戸へ搬出された小松石が有名)。
断層は岩盤の割れ目であり、一度、形成されると再びそこで断層のズレが生じやすくなる。すなわ
ち断層付近は直下型の地震の震源地になりやすく、大きな揺れを生じやすい。
嶺岡山系には四万十層群がわずかに露呈しているらしい。四万十層群は房総半島南部から沖縄に至
るまで細長く伸びている付加体。主として砂岩、泥岩、チャート、玄武岩、斑れい岩などが複雑に重
なり合った地層からなり、各所に海底地すべりの痕跡を残す地層や変成作用を受けた地層が挟み込ま
れている。
また境の山であった鋸山は江戸後期から明治期にかけて「房州石(金谷石)」(砂質凝灰岩、凝灰質
砂岩:海底で砂と火山灰がまじりあって堆積し、長い時間をかけて隆起)で有名だったが、今はほと
んど石材として利用されていない。
なお地質図を作成している産総研(産業技術総合研究所)では中国人の研究者(主任研究員)が企
業秘密とされていた日本の地質研究情報(地下資源等)を中国企業に流出させていた事件が発覚して
いる。2025年2月に有罪判決。
安房地域を除いて房総半島の多くは火山が存在せず、砂岩、泥岩、凝灰岩ばかりで石材となりうる良質な火山岩に恵まれてこなかったといいます。「石無し県」千葉とよばれる所以です。このためか、上総国分寺の礎石には嶺岡山系の変成岩がわざわざ海路、運ばれ、利用されているとのこと。
江戸時代は江戸城築城のために利用された小田原方面の安山岩が房総にも海路、もたらされてきました。市原の場合、江戸時代の石造物のほとんどが安山岩で占められています。これは市原のすぐ近くの千葉寺でも同様です。
石造物を軸にして歴史散歩する場合にはある程度、石造物の材質にも通じていた方が良いでしょうが、市原や千葉市の場合には安山岩とその流通ルートだけ知っておけば、歴史散歩としてほぼほぼ用が済んでしまうでしょう。稀に江戸時代でも大谷石や上総石(房州石、金谷石などとも)、御影石(花崗岩)、砂岩を用いたものも見かけますが、数は限られます。敢えて言えば御影石は市原の場合、もっぱら重要な神社の鳥居に利用されていますが、関西から運ばれてきたらしく、当時は非常に高価だったため、数えるほどしか現存しません。
同じ千葉県であっても、上の地質図に見られる通り、南の安房地区は長狭街道付近を断層が走り、津波、隆起、あるいは火成岩やら付加体などの知識が歴史散歩でもある程度は必要とされるなど、地質学的にやや複雑な様相を見せています。
市原や千葉周辺の地域は地層的には単純でありますが、比較的新しい地層である関東ローム層や沖積平野、浜堤、潟湖、谷津地形などの知識は歴史散歩の上で多少とも必要となるでしょう。
また地殻レベルでの房総半島の不安定さや地震の際の湾岸部の液状化現象については、防災上の観点から誰もが知っておいた方が良い知識となるでしょう。
海浜部の場合にはやはり戦後間もなくの空中写真は資料として欠かせません。
またここでも迅速測図は重要な資料として活躍いたします。なお赤い★印は蘇我コミュニティセンターハーモニープラザ分館で千葉寺から100mと離れていない場所。
やはり赤い★印は蘇我コミュニティセンターハーモニープラザ分館で、かつての千葉寺村が道に沿って展開した「列村」としてよりも、千葉寺の門前集落として、いわゆる「塊村」の形状をもって発展してきたことを表すでしょう。
なお 現在、千葉寺の境内にある道標はかつて上の地図の青い★印、および緑色の★印に祀られていたことが迅速測図から推察できるでしょう。
以上、千葉寺散策でカッパが使用するパワポ資料の一部を地質図利用の具体例としてご紹介いたしました。
最後に歴史散歩に役立つ地理、地質の基礎知識を分かりやすく、楽しく学べるいくつかのyoutube動画をご紹介いたします。
「中学受験のrestart 地層1~20」及び「地理を通して世界を知ろう!」の二つはそれぞれ中学の受験生、高校生向けの動画ですが、短時間で整理されていて手っとり早く地形、地質の理屈を理解する上で便利です。
特に「中学受験…」はイチオシの動画です。「たかし」と名のる講師の方のキャラがやや濃い目で最初はそこに抵抗感があるかもしれませんが、授業の進め方の手際よさには驚かされました。主に子ども相手の動画なのでそれなりに懇切丁寧な解説ではありながら、まだるっこしさがまったく無く、興味深いエピソードを適宜盛り込みつつ軽快なテンポでよどみなく展開していきます。しかも大人が視聴しても十分、満足できるほどに内容面は充実しています。
動画の編集もかなり凝っており、youtube動画の講師の中ではなかなかのハイクオリティな業師です。また中学受験向けだからと言って受験対策に偏ることはなく、内容は多岐にわたっていて、決して大人でも退屈させません。
「ただよび」文系チャンネルの「地理」も大学受験用の動画ですが、熟練の講師であり、分かりやすく、聞き取りやすい授業です。歴史散歩にも役立つ番組は少なくないでしょう。
北海道から沖縄まで全国の地方の地層や岩石を通して地形の成り立ちを紹介していく「地理ライダー」氏の動画は視聴時間がかなり長めですが、現地の地質図を紹介しつつ、具体的に地層や岩石を見て学ぶことが出来るので、地理、地質学習の応用編として有効です。旅好きの方、バイクで移動したい方にはうってつけの動画。