§8.カッパの授業プリント例

2.「お金の世界」実物教材

 

 以下はプリント「お金の世界」などで用いた実物教材の一部をご紹介いたします。他にも「中国の貨幣」(開元通宝、皇宋通宝、永楽通宝、乾隆通宝…)や「第一次世界大戦前後のドイツ通貨」(布製の紙幣、鉄製の硬貨…)などの貴重な資料もありましたが、他の教師に貸したりするうちに紛失してしまいました。

 意外に安く手に入るものも多く、個人的に授業で利用するため、一時期、夢中になって購入したものが中心です。総額で20万円ほどはかかったはずですが、それ以上に10年余りの労力と時間を費やして集めてきたカッパ独自のコレクションになります。

 

内戦中の旧ユーゴスラビアで発行された高額紙幣。左は50億ディナール(1993年11月発行)、右は5000億ディナール(1993年12月発行)。経済制裁のよる物不足に加えて紙幣を乱発したことによるハイパーインフレで1兆倍をこえるインフレ率を記録。金本位制から管理通貨制度に移行した現在、いたずらに紙幣を乱発すると通貨価値の暴落、物価の急騰を招いてしまう事例として第一次世界大戦後にドイツが発行した紙幣(下)とともに授業で配布してきた資料である。

 

第一次世界大戦敗戦後のドイツで発行された紙幣で左は猛烈なインフレで1922年発行の、かなり巨大化した1万マルク、右はハイパーインフレのなかで印刷が間に合わず、ついに裏側が白紙(片面印刷)となっている1憶マルク(1923)。右はサイズ的には現在の紙幣と大差なし。なお超高額紙幣として歴史上有名な100兆マルク紙幣はマニアが高値でも欲しがるため、かなり値が張るので購入は諦めた。
 

第一次世界大戦で疲弊したドイツが金属不足のために発行した低額紙幣でサイズは大きめの切手程度

日本も第二次世界大戦末期から敗戦直後まで同様の理由により小さな低額紙幣を発行している。

図案にも注目。左は戦時中のもので軍国主義を、右は戦後のもので民主主義と平和主義を反映。

以下は戦時中の硬貨で出征する兵士の千人針などに縫い込まれた貨幣

日本の統治下で発行された通貨・軍票

左は1930年発行の兌換紙幣(和気清麻呂10円)、右は1943年発行の不換紙幣。やや右側が赤味を帯びているがデザイン的には大差ない。世界大恐慌の中で敢えて金本位制に復帰したことを示すのが左の紙幣(井上緊縮財政)。右は1942年に日本が名実ともに金本位制から離脱した翌年の発行。

 

古代中国の貨幣は青銅製が圧倒的で金属製の利器をかたどっているものが多い。当時はありふれた素材

であった青銅製の物体に青銅としての素材価値以上の交換価値を持たせる上での工夫が農工具という形を銭貨にとらせたのだろう。

 

西洋での鍛造と古代中国での鋳造との違いを示すために紀元前の古代ローマ帝国の銀貨を紹介していたが、下の青銅貨幣二枚はもちろん鋳造で東ローマ帝国のもの(非常に安価で購入できる)。

 

江戸時代の貨幣は秤量貨幣と定位貨幣に大別され三貨(金貨・銀貨・銭貨)を交換するにはそれぞれの相場を見る必要があった。東日本では主に金貨、西日本では銀貨を中心とする経済圏に分かれており、銀貨の多くは重さをはからないと金額が決まらない秤量貨幣であったため、上方と江戸との間での決済は複雑を極め、結果的に両替商の台頭をまねいた。なお金貨(大判、小判)はさすがに実物教材を得られず、授業では実物大のレプリカを提示して説明してきた。

左は明治初期に発行された不換紙幣(1869年発行の民部省札)、右は江戸時代後半、西日本で多く発行された藩札で色を付けて偽造防止を図っている。赤っぽいのが丹波国柏原の銀一匁札(1731年発行)、青っぽいのが播磨国若狭野藩の銀五匁(1822年発行)。いずれにせよ財政難を乗り切るために発行された不換紙幣であり、結果的に通貨価値の下落、物価上昇を招く一因となった。明治初期にはこうした各種の不換紙幣が大量に出回っていたこともあって物価高騰と経済的低迷が続き、明治政府はその対応に苦悩させられていた。

新貨条例(1871年)を出して明治政府は複雑だった江戸時代の通貨制度を廃止し、十進法と金本位を採用して通貨の流通を円滑にし、同時に通貨価値の低落を防ごうとしたが、金の保有量不足によって金本位制の確立はならなかった。しかし江戸時代に比べて貨幣は円形に統一されて持ち運びが容易となり、計算も容易となった。

 

通貨は発行する国家のシンボルとしての機能を持つため、そのデザインは時間をかけて慎重に選ばれている。日本の場合、紙幣のデザインは閣議で決定されている。したがって紙幣の肖像を誰にするのかはこれまでも強い政治的意図を持って決められてきた。戦後、いくども選ばれてきた聖徳太子は平和主義と天皇制存続を示すシンボルであり、伊藤博文と福沢諭吉は日本の近代化とアジア進出のシンボルであろう。硬貨も同様でたとえば現在も使われている五円玉(戦後間もなくの1949年から発行され、70年以上にわたってデザイン上での変更は書体の変化のみ)の穴周辺の模様は歯車、すなわち工業の発展を、稲の図案は主食であるコメの豊作、農業の発展を祈願するデザインとなっている。