㉟3年生の学級担任
※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。
ウ.3年生の学級運営
学級担任としては進路希望の実現が3年生における最大のテーマとなる。もちろん部活では最後の大会で最高の結果を出すという、大きな目標がある。多くの生徒は最終学年として総体、夏の大会までは部活に専念したくなるだろう。
しかし進路決定は確実に人生の岐路となる。夏まで進路のことには見向きもせず、準備不足のまま部活動での引退の時を迎えてしまい、とどのつまり保護者や部活の先輩のアドバイスを鵜呑みにして進路を決めてしまう残念な運動部員をこれまでに沢山見てきた。
浪人覚悟の四大進学希望者ならば多少の出遅れも許されるが、就職や専門学校進学希望者、現役での四大進学希望者となるとそうはいかない。特に野球部で就職を希望する生徒は夏の大会と就職準備が重なる点(どちらも7月が最大のヤマ場となる)は早めに予告しておくべき。就職試験で野球部が有利なのは事実だが、野球部員であるが故に自分の個性と合わない職場、職種になまじ内定をとれてしまう事は後日、本人にとってむしろ大きな悲劇となりかねない。
実は3年生になってから就職指導を始めても遅すぎる。遅くとも部活の最後の大会までにまだ間がある2年生の1月から就職希望者への手厚いガイダンスが数回分は用意されているべきである。その段階から7月の日程の厳しさは周知徹底させておきたい。
そもそも進路決定の歩みは部活動と違って、孤独な歩みである。どんなに親しい友人であっても同じ職場、同じ大学、同じ専門学校に行ける事はほとんど無い。
しかし同調圧力が基本的に強い日本の部活では自分だけが進路に向けて動き出すわけにはいかないと感じてしまう。お互いに様子をうかがいながらも結局は進路を二の次にしてチームワークを盾に部活に専念してしまうのは自然の流れであろう。
ここでも教師の果たす役割は大きい。まず部の顧問の協力が無ければ放課後の就職ガイダンスは成り立たない。さらには学年団が一致団結して進路指導に邁進する必要がある。
高校生最後の体育祭が秋に行われる場合、9月から10月にかけては就職試験や推薦入試のシーズンと重なる点も早く予告しておくべきである。運動部顧問の担任であるならばさらに新人戦の予選まで重なってくる。
生徒側も3年生として学校行事で「最後の花道」を飾りたいのはよく分かるが、運の悪い人は就職や推薦入試の試験日などと学校行事が重なり、そもそも最後の花道を飾れない場合もあることは予め覚悟させておく必要がある。3年では進路希望の実現が何よりも最優先されなければならない事を早めに生徒に周知徹底させておくべきだろう。
確かにAOや一般入試で四大にチャレンジする生徒の合否はかなりの部分、自己責任が大きい。学校以外でも塾や予備校などがある程度は受験指導してくれる。しかし専門学校への進学や推薦入試、とりわけ就職は生徒個人の資質や努力ばかりに責任を転嫁できない要素がかなり多い。どうしても教師によるテコ入れがものを言う。
ほとんどの教員は高卒で働いた経験が無いため、自分の大学進学時の体験をベースに進路指導を捉えがちである。しかし高校生の就活は世間の常識とはかなりズレており、通常では受け入れがたいほどの謎ルール、特殊ルールがある。
就職指導を経験したことのない教師と就職指導のベテランとの認識の差はこの点でかなり大きい。就職指導したことのない教師が3年生担任になった時、下手をするとそのクラスの生徒は大きなハンデを背負ってしまいかねない。
進路指導は生徒の人生を左右しかねない、重大な案件であることの共通理解がまずは3学年職員全員に必須となる。
担任への精神的プレッシャーは3年間を通じて3年の秋が最大、最強となる。
秋は学校行事が目白押しで極めて忙しい時期にあたるため、仕事に漏れやポカが生じやすい。担任や進路指導部のちょっとしたミスから法的、民事的な責任を問われるような深刻な事態に発展するケースもある。特に就職と推薦入試、AOが重なる9月から10月にかけては推薦書と調査書の発行手続き、面接指導の希望が各担任のもとへと殺到する。
進学用の調査書と就職用の調査書では書式が違うので取り違えは許されない。推薦入試の場合には字数400字を超える推薦文をほぼ同時に何枚も書かなければならない。進学用の調査書の場合、数値等の間違いは命取りになりかねないので学年、進路指導部、教頭と、最終的に職印が捺されるまでに何度もチェックが行われる。印鑑漏れはもってのほかである。
もちろん生徒から預かった推薦願いを一旦引き出しにしまったことでうっかり出し忘れ、受験先への提出が出願期間に間に合わなかった・・・といった教師側のミスはあっという間に裁判沙汰、新聞沙汰となりうる重大事。担任や進路担当者にとってまさに薄氷の上を歩くような慎重さが受験手続きには求められるのである。
誰の何を何日までに担任に提出させ、担任は何を何日までに本人に手渡すべきなのか、本人は何日までに出願書類一式を受験先に送らなければならないのか・・・逐一クラス名表を使って一覧表にして整理し、常に自分の目の前にさらしておく位の工夫を担任はすべきだろう。
残念ながら生徒の一部はこちらから繰り返し声を掛けないと期限通りに推薦願いや調査書発行願いすらなかなか担任に提出してくれない。しかも締め切りギリギリで提出してくる生徒はかなり多い。様々な理由から出願書類を自力で書き終えてすべて取り揃えることすら危うい生徒、ご家庭も少なからず存在している。
担任はやかましいほど毎日繰り返し、手続き上の見落としはないか、期限は大丈夫か、生徒達に確認させる事が必要となる。特に郵送の際、簡易書留などの説明はしておくべきである。調査書や推薦書は所定の封筒に入れて緘印を捺すのだが、この封筒をそのまま郵便ポストに入れてしまった生徒が実際にいる。
出願手続きに関しては生徒に相応の常識を期待するのはもはや無謀とも言える時代となってしまったのだ。まずは最初から「キチンと出来るわけはない」という教師側の諦めが肝心。
生徒が出そうとしていた就職予定の企業に送る郵送物をふと見てみると宛名の住所が何と高校の住所、それも自分の所属クラス宛であった・・・こうした普通ならあり得ない間違いを見つけるためにも本来、生徒には常識など無いのだからきっと間違えるはずである、と予め覚悟していた方が担任の身のためでもある。
以上、強調してきたように3年の担任にとっては秋が正念場。若くして3年の担任となった場合、もしも交代できる人がいるならば運動部の第一顧問をその時(秋)だけは下りた方があらゆる意味で無難である。
進路多様校の場合は推薦入試希望者が多く、しかも就職希望者も多いのでとりわけ大変。9月末から10月にかけてはほぼ徹夜状態で推薦書などを書く日があることも覚悟しなければならない。生徒が書いた出願書類、作文等には間違いが多いので念入りなチェックが必要である。
たとえベテランであったとしてもこの時期、3年担任でありつつ同時に部活指導に専念するのは相当危険なチャレンジと言えるくらいに責任重大な仕事が山積してくる。多くの場合、仕事の期限も切羽詰まったケースが少なからずあってほとんどが待ったなしである。
進路指導に関してはちょっとした油断、うっかりミスが身の破滅につながりかねないことを重々、覚悟しておきたい。
晴れ晴れとした気分で生徒と担任とで喜びを分かち合い、感動の卒業式を迎えるためにも、教え子達の高校生活のフィナーレをしっかりと飾ってあげるためにも、担任は生徒達の進路実現という最大の難所、ヤマ場を細心の注意を払って無事乗り越えていかなければならないのだ。