㉞1学年学級担任の目線とは
※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。
クラス担任となった高校教師が実際、どのタイミングでどんなことに心を砕き、どんなクラス経営をしているのか、学校関係者でない方でもある程度はイメージできるよう、以下、ベテランのクラス担任目線で記述してみよう。
ア.新入生を迎える際の心構えと1年生の学級運営
新入生は入学したての頃、期待と不安で一杯であり、しばらくの間は緊張で疲れてしまうことが多い。当然、クラスの人間関係はまだまだぎこちない段階。そうした中での最初のホームルーム。
初対面の印象はもちろん重要。ここで1年生の担任にまず必要とされるのは段取りの良さである。やるべき事、伝達すべき事が目白押しなのでテキパキと作業をこなしていかないと新入生の混乱と不安はなかなか解消できない。ただでさえ不慣れな環境で次から次へと課題、配布物が配られ、緊張の連続となる。
当日のきめ細かな指示が口頭だけでなく、予めわかりやすく整理されて板書されていると生徒は動きやすい。また当面の日程や提出物、座席表、時間割表、掃除分担表などをコンパクトにまとめ一枚のプリントにして生徒に配布すると共にクラス掲示しておく。時間割表は特に別途、大判の紙でクラス掲示しておく。
中学時代の級友がどのクラスにいるのか分かるように学年名表も掲示しておくとかなり喜ばれる。また学校全体の年間計画も掲示しておこう。先の見通しを少しでも明示しておけば新入生の不安は多少なりとも軽減される。
遠足や文化祭の日程は4月早々から告げておくと生徒に目標を持たせやすくなる。クラスを活性化させる上で4月の中頃までには文化祭の企画を大雑把で良いから話し合いを通じてまとめてしまうのも有効。楽しい行事を待ち遠しくさせるとともに、クラス全体に今後の学校生活への期待感をもたらし、不安と緊張に満ちた雰囲気を一気に軽くすることが出来る。
新入生は多くの場合、お互いの様子をうかがって言動が慎重となっており、なかなか率先して動こうとはしない傾向がある。文化祭の話し合いを通じていち早くリラックスさせ、生徒の自主的な動きを自然に誘い出すこともできよう。
ただしリラックスさせすぎてしまい、ケジメがつかずにだらしないような状況を作り出してしまうのはもちろん良くない。そこで多くの生徒達がサボリがちな掃除に関しては予め出欠表を作っておくなど、最初からキッチリとやらせる工夫が必要。担任も教室掃除はテキパキと指示しながら、黒板と教壇だけは自らの責任で常にきれいにしておく。少なくともずるい生徒が楽をして威張り散らし、真面目な子ばかりが損をする・・・といった最低のクラスにしてはなるまい。
経験上、朝のホームルームの時から黒板や教壇がチョークの粉などで汚れているクラスは授業でも反応がイマイチのクラスになってしまう。また座席が始終、縦横乱れているクラスは生徒間にやがて不公平感が醸成されのか、人間関係のもめ事が多いクラスになりがちであるという印象が個人的にはある。
折り目正しさと清潔感と公平感を演出するのはあくまでも清潔できちんと整理された教室であろう。教室の環境と担任の普段からの言動は生徒たちへの影響力が決して小さくないことに留意すべき。そのどちらも欠けていてはダメ。
教室が雑然としている中で担任が生徒に向かってどんなにきちんと勉強しろ、きちんと掃除しろと怒鳴っても大した効果は期待できまい。口から発せられる言葉よりも担任の無言の行為と無言のモノたち、つまり教師の背中と教室自体に語らせる方が生徒達への説得力ははるかに勝ると私は考える。
昔から反社会的な生徒は教師の目を引きがちだが、今や非社会的生徒への気配りは極めて大切である。中学校で幾度もイジメを目撃し、自らも体験して憂鬱な気分を何度も味わってきた生徒たちは、その存在感が控え目であるせいか、教室では大勢に埋もれてしまったようで目立たない。しかしその数は実際にはかなり多いと感じてきた。
察するに多くの生徒達は立場の弱い生徒への気配りを担任の教師が行えるのかどうか、密かに、しっかりと観察していると思われる。だからこそ担任は無口で孤立している生徒への意識的な働きかけが上手に出来なければならない。
遠足でのバスの座席決め、文化祭での役割分担でなかなかグループに入れない生徒へのフォローが上手に出来ないと、本来、クラスの役に立とうと思っている真面目な生徒の心までもが担任から離れていってしまうかもしれない。
逆に目立ちたがり屋で弱者への思いやりに欠ける生徒達がその派手な積極性でグループを形成し、いつの間にか遠足や文化祭などの主導権を握ってしまうと、クラスは学年の後半、まったく収拾がつかなくなるほどに乱れ、挙句の果てに不登校の生徒を複数生み出してしまうかもしれない。
1年生の文化祭では初めての体験が多いため、なかなかスムーズに事は運ばない。最初から最後までギクシャクしがちである。意欲のある生徒、真面目な生徒を腐らせないためにも担任のリーダーシップ、テコ入れが1年ではどうしても必要である。
自主的な行事だからといって何でも生徒任せにすると大変な事態を招きかねない。1年生の場合、大成功する必要はまったく無い。逆にやや悔しい思いで終わる方が次年度につながる、と思うべきだろう。
重要なのは結果以上に文化祭当日に至るまでのプロセスである。実際、文化祭終了後に「先生、来年はもっと楽しい、凄い企画をみんなでやりたい!」と生徒達が声をそろえて言ってくれれば1年生としてはむしろ大成功の部類なのである。
繰り返しになるが、大切なのはずるい生徒が楽をして真面目な子ばかりが損をする・・・という最悪の不公平感を出来るだけ生み出さない工夫。
部活や塾を理由にして文化祭の準備をろくろく手伝わず放課後すぐにいなくなる一定数の生徒、放課後は残ってくれるが無駄話ばかりしていて教室に居残ること自体を目的にしてしまっている女子、無意味に外出し徒にダンボールだけ集め、それで事足れりとばかりに教室で遊んでばかりの男子、無謀な企画を押しつけておきながら思い通りに動いてくれない生徒達にイライラを募らせているクラス代表、文化委員・・・そのどれもが1年生にはありがちな光景である。
彼らをまとめ上げてチームワークを作り、できるだけ多くの生徒を巻き込んで生き生きと動かしていけるかどうかはひとえに担任の力量にかかっている。
まずは文化祭の楽しさを4月早々からアピールしておくこと。折に触れてはこれまでの楽しかった様々な文化祭での経験を担任が目を輝かせて語る必要がある。
役割分担とそれぞれの責任を早めに明確にしておこう。文化祭が近づいてきたら班ごとに「本日のスケジュール」を印刷し、こまめに配布して一日の目標と作業手順などを簡単に示してあげるとクラス代表、文化委員のクラスメイトに対するイライラは多少なりとも解消されるはずである。
文化祭の出来不出来は年度の後半、クラスの雰囲気を一変させてしまうことがある。文化祭を軽く見てはなるまい。一見、文化祭に対してクールで協力的に見えず、やる気も無さそうな生徒達ほど心の中で文化祭の盛り上がりに期待していたりする。不登校だった生徒たちが実は文化祭への意欲旺盛だった…という経験もある。
多数派でもあるそのような生徒達の期待が裏切られたとき、今まで真面目だった生徒、協力的だった生徒までもが根こそぎ、クラスや担任に背を向けてしまうかもしれない。表面的には文化祭に消極的な彼らを他力本願の「自己中」と馬鹿にしてはいけないのだ。
そもそも進路多様校での生徒は中学校時代、リーダーシップを発揮した経験を持つ子の数が限られている。基本的にはフォロワーだった生徒が多いだろう。そもそも仲間から叩かれるのが怖くて目立ちたくない生徒が圧倒的に多い。面倒くさそうな事には大抵腰が引けている。そうした生徒達をもグイグイと巻き込んでいく、担任のアイデアと情熱が問われている。