㉗教員免許更新制の裏側
※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。
「ヤンキー先生」こと義家弘介氏らによって現場の教師達が受けた被害の最たるものはかの悪名高い教員免許の更新制度(2009年から導入)であろう。例の「ゆとり教育」後の学力低下が指摘されたとき、主たる責任を負うべきは「ゆとり教育」を画策した政治家や文科省であったにも関わらず、すべての責任は「トカゲの尻尾切り」の如く、末端の教師に押しつけられた。児童生徒の学力低下はもっぱら教師達の指導力の低下が原因だと見なされたわけである。義家氏はちょうどこの時、「不適格教員の排除」を主目的に教員免許の更新制度を計画(2007年)していた張本人である。
この制度では免許状更新講習の時間が30時間以上と定められていた。30時間もの講習は多くの場合、あくまでも教師が自らの休日を返上して受講したものである。講習の内容や質には凄まじい格差があり、不平等であったのに、講習を受けなかった者の免許は一律無効とされた。それほど強制的なものであるのなら、せめて講習の質ぐらいはきちんと国家によって保証されていてしかるべきであり、教師が休日返上してでも、かつ有料であっても受けたくなるほどに良質の講習でなければなるまい。
文科省は2009年に更新制度がスタートする際、講習の目的を姑息にも「不適格教員の排除」から「教員の能力の向上」へと切り替えた。しかし2021年4月~5月に文科省が現職教員約2100人を対象にアンケートを行った結果、更新講習の内容について「教育現場で役立っている」は3割に対し、「役立っていない」は4割近くに上っている。理由として、5割以上が「現実と乖離があり、実践的ではない」を挙げたように、講習の質は総じて低かったと言えるだろう。
しかしこれは必ずしも研修を行う講師の質の問題ではあるまい。そもそも幼稚園教諭から高校教師まで学校種別が異なる大集団相手に一斉講義形式の古臭い授業方法を用いて、しかも授業のベテラン相手に大喜びされるほどの授業が出来る、そんな大学講師がこの世にいるとは思えない。講習の最後に実施される試験の結果次第で教員免許の無効化をちらつかせるなど、いたずらに高圧的な姿勢のくせに講習の制度設計があまりにも杜撰であり、幼稚すぎる。そもそも研修の発想そのものが根本的に間違っているのだ。
講習を受ける時間は多くの場合、勤務時間外(土日)であり、当然、残業手当や休日手当、出張旅費はもとより支給されない。さらに受講費用のうち3万円が教師の自己負担とされるなど、ほとんど一方的に教師の休日と金銭が収奪されてしまうという、史上稀に見る犯罪的制度であった。ただでさえ過労死レベルの負担にあえいでいる教師にとってこの制度は教育への意欲、やり甲斐まで根こそぎ奪いかねない、まさに噴飯物の悪政と断じても言い過ぎではない。
※「教員免許更新制を問う」(今津孝次郎 岩波ブックレット 2009)及び以下の記事参照
◎主体性のある子どもを育てたいと言いながら、教員と自治体の主体性は無視する文科省と国会
妹尾昌俊教育研究家、学校・行政向けアドバイザー YAHOO!ニュース
JAPAN 2022 4/30(土) 18:29
◎迷走する教員政策:研修履歴の管理で事態はよくなるのか?妹尾昌俊教育研究家、学校・行政向け
アドバイザー YAHOO!ニュース JAPAN 2022 4/7(木) 11:42
○教員免許更新制の廃止で教員の負担は軽減されるのか? 質は担保されるのか?
TOKYO MX+ 2022/06/01 06:50
○「運動嫌いの子供」が増えるだけ…オリンピック選手を"体育教師"として学校に送り込む文科省の大
失策 プレジデントオンライン 平尾 剛 の意見 2024.11.2
文科省は一体、いつまでトンチンカンな迷走を繰り返すのだろう。これまで学校現場側がオリンピ
ック選手だった人たちをぜひ教員として採用して欲しいと繰り返し声を合わせて要求してきたのな
らばこの話は分かるが、そんな声は今までただの一度も聞いたことが無い。果たして文科省は一体
全体、誰の声に耳を傾けてこんなバカげたことをいきなり公にしたのだろう。
これは明らかに現行の教員免許制度を文科省自ら破壊しようとする、自爆テロのような施策であ
る。加えて大学での教員養成教育の充実を図ることを諦め、教員養成教育を真っ向から否定するも
のであり、良き体育教師養成を目指してきた大学、学部の、これまでの努力を嘲笑するがごとき愚
策というほかあるまい。
かつて教員免許の更新制度を導入してひたすら現場を困惑させ、いかにも教員免許の権威保持に
拘ってきたはずの文科省が、今回は何とした事か、突如として無免許での教育を奨励しだした。こ
のてのひら返しの背景に一体どんな事態が生じていたのか、ぜひ説明して欲しい。もしかすると石
破内閣、あるいはJOCやらオリンピック組織委員会の元メンバーなどが密かに背後で動いたのだ
ろうか。
何はともあれ、多くの政治家や文科省は学校現場の事を一切知ろうとせず、ひたすら教師たちの
意向を無視し、どう見てもハチャメチャで現場の混乱と疲弊をさらに招く政策を性懲りもなく押し
付けてきたのだ。あきれてものが言えない。これが教師不足の解消につながるとでもいいたいのだ
ろうか。むしろいよいよ教師たちの文科省不信が強まり、若者の教職離れが進み、教師の中途退職
や病休が増えるだけであろう。
今や明らかに文科省の解体こそ、最も重要な教育改革だと考えるが、いかがか。授業ではぜひ、
この施策の是非を生徒たちに問いたい。
確かに問題教師への対応は必要であるが、この制度はなぜかほぼ教師全員を対象としたものであり、学力低下問題の責任などを一方的に教師全員に押しつけたものであった。その挙げ句に教師全員をあたかも問題教師か罪人であるかのようにして一律罰するかのような、嫌がらせじみた幼稚な研修強要制度であった。我々教師からすればこうした愚かな制度を導入した不適格官僚や不適格議員への研修や処分の方が真っ先に優先して行なわれるべきだと思うが、いかがだろう。
ブラック化した学校の中ではたとえそれが内容的に素晴らしい研修だったとしてもまともな教師ほど研修を受けようとは思わないだろう。自分が研修に出ている間、同僚や生徒達に及ぼす負担、迷惑を考えれば研修を受けないで済ませようとするのがよほど正常な判断である。
ところが政府も文科省も、学校での問題はすべて教師の責任であるとの前提で教師への研修を以前からむやみやたらと増やしてきた。役立ちそうもない研修の多さも間違いなく学校のブラック化を加速させていた一因である。したがってくどいほど繰り返される無意味な研修は教師の指導力を向上させるどころか、むしろストレスを高め、教師間の分断と対立を招き、かえって教師の不祥事と精神疾患を多発させてしまっているのではないだろうか。
教員免許更新制度は現在、ようやく廃止されるに至ったが、何とその代わりに性懲りも無く新たな研修の導入が検討されているそうだ。自己研修の機会を奪われる一方で執拗に悪者扱いをされる・・・教師の意欲はさらに低下することは明かである。
研修を受けるべきは一体、どこのどなたなのだろう。
参考記事
◎なぜ多くの人が「仕事を苦痛」に思うのか…世界中で増える「クソどうでもいい仕
事」の全容 現代ビジネス 酒井 隆史 の意見 2023.12。
ブルシットジョブに携わる人の5類型として「取り巻き」、「脅し屋」、「尻ぬぐい」、「書類穴埋め人」、「タスクマスター」が挙げられているが、学校でもこの5類型に当てはまる人がいるようだ。教頭は校長の、教務主任は教頭の、それぞれ取り巻きであることが多く、当然、教頭も教務主任もストレスのきつい激務である。「脅し屋」は管理職や教育委員会、文科省がきっちりと努めているが、教員の不祥事多発により、必ずしも功を奏していない。「尻ぬぐい」は下らない教育政策を強要してくる政府の犠牲となっている教育委員会以下の教育現場全員が我慢しながら務めてきた最悪のブルシットジョブである。そして政策を遂行したフリ、成果を挙げたフリをするための「書類穴埋め人」も教育現場が担当している。こうした教育現場の末端にいる人々の不毛な仕事の山を築くきっかけづくりに生きがいを見出し、精を出してきたのが諸悪の根源、日本政府という最悪の「タスクマスター」であろう。
「失敗が予見できる計画を、専門家をふくむさまざまな批判にもかかわらず、無視して突っ走って、しわよせが現場の下請けに押しつけられるなどということは、失敗が大きな確率で予測できるのに、あるいは失敗があきらかになってからすらも構造的に計画を途中でやめることがきわめて困難である日本では、深刻なレベルで蔓延しているだろうからです。」という指摘に首が折れてしまうほど激しく頷いてしまうのだが、皆さんはいかがだろう。