⑭守秘義務の裏側
※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。
参考動画
◎【ジャニーズ問題…「秘密」の危険性】ハーバード大学の精神科医が指摘【内田
舞】 ReHacQ−リハック−【公式】 2023/10/24 53:52
ジャニーズ問題への考察を通じて学校での「守秘義務」が持つ、意外なほど大きな心理的危険性を認識する必要があるのではないか。負の秘密を保持し続ける精神的な危険性を理解しておくことはイジメ等の隠蔽を繰り返す学校教育の関係者が陥りがちな精神状況を理解することにもつながるのではないか。秘密を保持し続けることで教師が精神的に毀損される側面を考慮しないと教職員の精神的問題による離職、休職を減らすことはかなり難しいのかもしれない。職場での同僚や上司から受けたセクハラやパワハラ、生徒や保護者からのパワハラ、セクハラなどによって傷ついた心を教師として現場に踏みとどまるために、どう癒していけるのか、もっと真剣に考えていくべきではないのか。
学校現場への無理解、誤解が世間に生じてしまう背景にあるもの
公務員には「職務上知り得た秘密」を退職後も外部には漏らしてはならない、という守秘義務が地方公務員法によって課されている。この守秘義務に違反するとかなり重い罰則が与えられる。
それは当然のことで仕方ないだろうと素朴に思う方がいるかもしれない。確かに教師が保護者から提出してもらった生徒の個人調査票の記述内容、すなわち生徒及びその家族のプライバシーなどを勝手に外部に漏らすことは厳禁である。これは言うまでもなく当たり前。
問題は「職務上知り得た秘密」をどのような範囲に限定するのか、にかかっていると思われる。かつて食品関係の企業で「食の安全」を脅かす様々な不祥事や事件が連発した際、事件事故の再発防止を狙って政府は食品関連の企業の社員から所轄官庁への情報提供を積極的に促す対策をとった。
外国産の原料を使っているのに国産と偽って製造・販売している企業をケースに考えてみよう。この場合、原料の調達などにあたっている社員の一部が自社の偽装工作、犯罪行為を知ってしまう事は十分あり得る。仮に公務員の守秘義務のような厳しい規則が民間企業にあてはめられているとすれば、立場の弱い平社員は守秘義務を楯にとって自社の犯罪に関しては見て見ぬ振りを続けてしまうかもしれない。その一方で消費者側が蒙る損害は会社の偽装が世間にバレない限り、際限なく拡大し続けることになるだろう。
こうした企業犯罪を防止するには社員からの内部告発を容易にすべく、告発という行為によって特定の個人が不利益を蒙らぬよう、国が内部告発した社員を手厚く保護する必要がある。実際、政府はそうした告発者の身分保障までしても、多発する企業の不祥事を減らすために社員自ら勇気を持って告発するよう、促したのである。企業のコンプライアンスが厳しく世に問われ始めたのもこの頃からであった。
では公的組織の犯罪行為を公務員は同じように勇気を持って内部告発できるのだろうか…たとえば公務員が上からの職務命令に基づいて明らかに違法と思われる行為を強要された場合、どうなるのだろう。近年、地方公務員法改正によって人事評価制度が導入(←勤務評定)され、特定秘密保護法が成立し(施行は2014年から)、公務員の守秘義務違反に対する罰則規定の強化(3万円以下の罰金⇒50万円以下の罰金)が図られるなど、「他言無用」とばかりに公務員への締め付けがどんどん進んできた。今や多くの公務員が社会通念上は告発すべき事案に対してすら相当、萎縮気味になっている気配を私は感じてきている。
もちろん上司からの命令が明らかに法律違反である場合には今もこれに従う必要はないはず。とはいえ上司から公文書の改竄を命じられ、罪悪感に駆られて自殺してしまった赤木氏の例がある。近年、組合加入率が極端に低下し、ただでさえ組織力を失って孤立しがちな下々の公務員にとって上司の命令に逆らう事はたとえ教師の身と言えども今や決して容易なことではない。
森友事件の場合には明白な違法行為を上司から迫られていた。しかし、それでも改竄は行われてしまったのである。社会正義を脅かす危険性は普通のお役所だけではない。公立学校でも村社会化が進んでおり、内部告発がほとんど不可能と思えるほど「他言無用」の同調圧力は強い。たとえ職員会議の決定や校長の判断に何らかの違法性がありそうだと感じても内部告発に強いためらいを覚える教師は決して少なくないだろう。
たとえば旭川女子中学生凍死事件の場合、報道から見る限りは学校側がイジメの隠蔽という違法行為を組織的に行っていると今のところ推測できる。世間一般からすればこの事件の違法性はほとんど疑う余地がないとさえ感じられるだろう。
ところがこれだけマスコミが騒いでいるにもかかわらず、管理職の違法性を告発する動きは未だに当該中学校の職員や関係者からはほとんど出ていないようである。守秘義務を厳格に課されている学校現場では多くの場合、校長や教頭、さらには教育委員会に背いてまでして一職員がそう易々と内部告発できる状況には置かれていないと言えるだろう。実際、旭川のような案件はこれまでも各地の学校で繰り返し発生してきた。当然イジメ案件以外でも学校や教育委員会の強固な閉鎖性、隠蔽体質を物語る事例には事欠くまい。
以上のような学校の閉鎖性は時代遅れのブラック校則や体罰、組み体操のような安全性への配慮を欠く伝統行事を長く温存させる土壌ともなり、「チーム学校」などの美名に隠れて教師集団の同調圧力、すなわち隠蔽体質と職員間のイジメ体質を将来的にも存続させ、強める働きをもたらしてきたと私は考えている。
教師による内部告発はたとえ告発者側にそれなりの社会的正義や正当性があろうとも、村社会的教師集団においては「裏切り者の卑劣な行為」、「職員間の和を乱す狼藉者」としか受け止められない可能性が極めて高くなっているのだ。神戸の小学校のように教師間のイジメやパワハラが校内で横行してしまうのはベテラン教員の経験からすれば必ずしも不思議ではないのである。内部告発の出来ない旭川の中学校教師を声高に批判できるほどしっかりと外部社会に開かれ、腹の据わった教師は現実にはそれほど多くはない…というのがこの事件に対する私の偽らざる印象である。
※学校教師間でのイジメ、学校教師の精神疾患が増えている背景にはまず学校での過労死レベルの激務
と激しいストレスがあることは「大人のいじめ」(坂倉昇平 講談社現代新書 2021)でも指摘さ
れている通り。こんな状況下で一教師が管理職や教育委員会を敵に回す覚悟で告発するだけの精神
的、体力的余裕など持てる訳がない…ただの言い訳に聞こえるかもしれないが、これが現場教師の真
っ正直な実感であろう。
なおイジメ自殺などの件に関わる学校の隠蔽体質に関してはこのブログの「§3学校問題編」で参考
となる動画や記事を数多く紹介している。
社会的公正や信義を守る上で必要とされる市民としての告発義務(公益通報)の方が公務員としての守秘義務を遙かに上回るかもしれない…といった悩ましい事態はとりわけ入試などの際においてどの高校でも起こり得る。そうしたケースに直面した教師が自身の良心に照らして学校長の判断や動きにかなりの違和感を覚えたとしても公務員の守秘義務を楯にとって自己保身を図り、結局は問題に目をつむりダンマリを決め込んでしまう…といった可能性は必ずしも低くはないだろう。しかし言うまでもなく本来、優先すべきは入学希望者に対する公平、公正な対応なのに、である
他方で学校の閉鎖性、隠蔽体質は学校が抱えている問題点の本質をマスコミや世間から見えにくくしてきた。そもそも内部告発をほとんど期待できない、すなわち自浄作用の損なわれた閉鎖的村社会と化している学校の場合、外部から十分な理解が得られることはまず期待出来ないだろう。
学校を管轄する文科省ですら学校からすれば外部に過ぎず、教育学者の多くもまた学校外部の存在に過ぎない。実際、長く「学校教育村」の現場にいた者からすれば文科省の方針や教育学者の学校教育を巡る言説、マスコミの論調に現場感覚との大きなズレを覚えることは少なくないのである。こうして教師集団は知らず知らずのうちに国家や社会、世間から隔絶して孤立を深めていくことで大人として当然持つべき健全な社会性を喪失していき、やがて世間常識、公序良俗ですら自ら容易に逸脱してしまう可能性を高めていったのかもしれない。
※参考動画
○【内部告発】今のやり方でできますか? ロザンの楽屋 2024/08/04 12:18
公益通報を専門に受け付ける第三者の組織を設ける必要があるだろう。当然、そのメンバーには法
律に通じた専門家が数多く必要となるので、できれば特定の法律事務所を指定して内部通報を活発
化させ、学校などの隠蔽体質を積極的に払しょくしていくべきだろう。
◎【神も仏もない】降格や嫌がらせも…なぜ“内部告発者は守られない”のか?法律上の課題とは?自
治体で生活保護に関する不正を通報した男性は(語り:小松未可子)【クロ現】|
NHK 2024/06/08 9:26
この案件の立証責任が被害者側=公益通報者側にあるという法的な不備が公益通報の制度を骨抜き
にしているようだ。内部告発を組織への裏切りと捉えるような狭隘な発想を日本の社会が抱えてい
る限り、日本では内部告発が滅多に行われず、多くの違法行為が今後もまかり通ってしまうに違い
ない。イジメとその隠蔽がはびこる日本社会の息苦しさは、日本人の間に「市民」という意識が十
分に根付かない中での村社会的集団主義が招いているのかもしれない。また日本の学校教育が児童
生徒たちに自立した市民意識を育てる事よりも他者への忖度を優先する協調性を育てる方向でもっ
ぱら機能してきたことが現代日本の閉塞感をもたらしている可能性についても考えるべきだろう。
◎文書受け取った記者『闇を暴いてください』と 県警本部長が議会で改めて「隠蔽」否定【報道ス
テーション】(2024年6月11日) ANNnewsCH 2024/06/12 6:34
◎「証拠の返還を」鹿児島県警“情報漏えい”内部文書を受け取ったライターが証言 電話やりとりか
ら浮かぶ捜査の一端【news23】TBS NEWS DIG Powered by JNN 2024/06/12 11:10
これが公益通報なのか、情報漏洩、守秘義務違反なのか、今のところ不透明ではあるが、いずれに
せよ第三者機関がきっちりとした事実確認を行う必要はあるだろう。この件に関して鹿児島県議会
の及び腰が明らかなので議会による追及はほとんど期待できない。当然、県警の調査はほとんど信
用できないので、司法、検察が動けるのかどうか…しかしこれもまた鹿児島地裁の動きが怪しく、
予断は許さない。今後の動向を注視するほかあるまい。
※参考記事
◎「92%」黒塗り公文書の衝撃 市民図書館が出した1400枚の真っ黒い紙が語る闇の深さとは
AERA dot. 日向咲嗣 の意見 2024.11.19
学校を含む公共機関の隠蔽体質がどういうものなのか、その一片を示してくれている。そこには日
本という国家の戦前から断絶することなく貫かれている頑強で骨太の伝統が脈々と受け継がれてい
るのだろう。このような組織に「民主主義」という言葉は本質的になじまない。日本が民主主義国
家たらんとするのならば、国民の知る権利を今後、どう拡充していくのか、本気で考えていく必要
があるだろう。
・公益通報した職員を京都市が懲戒処分 「精神的・経済的損害を受けた」と提訴の職員への賠償命じ
る判決 関西テレビ 2023.4.27
公益通報した職員のプライバシーをさらした挙句に懲戒処分まで下した京都市の対応に戦慄を覚え
る。これでは公務員による組織的犯罪行為を防止していくことは不可能だろう。身内同士の庇い合
いを無批判のまま放置してきた事で今までどんな事件が引き起こされてきたのか、どんな犯罪的行
為が隠蔽されてきたのか、京都市はしっかりと過去を検証し、反省すべきである。
○【独自】日光・フランス人女性行方不明で国連が日本政府に3度目の捜査要請 押し問答の背景に日
仏の法律の違い FNNプライムオンライン によるストーリー 2024.4.5
プライバシーの保護を名目とした秘密主義は行き過ぎれば組織的事故隠しや隠蔽工作を招きやすい
側面を持つだろう。この案件では日本の頑なな姿勢に疑問が湧いてくる。国連まで乗り出す騒ぎと
なっているようだが、この件に関しては日本側が一体、誰のプライバシーを重んじているのか、ま
ったく理解できない。どういう情報が日本の捜査を妨害し、証言者を含む人たちのプライバシーを
侵害する恐れがあるのか、この際、非開示の根拠を内外に対して明確に示してほしい。
日本の教育行政にはびこるプライバシー尊重の悪用による隠蔽工作の数々を見ていると、やはり
この頑固な隠蔽体質は教育行政に止まらず、日本社会全体を覆う根本的な体質なのかもしれない。
自民党議員による裏金、キックバック問題も一部の関係者に対する軽い処罰にとどまり、重要人物
の関与は否定されている。
日本の場合は司法ですら裁判資料をたちまちのうちに廃棄し、後世へ残す努力を怠ってきた。国
民は一体、どのような資料を基にして行政の動きの是非を判断すればよいのだろうか。戦後80年近
くなろうとしているのに、日本社会の闇の深さはさほど変わっていないのではあるまいか
〇高校教職員が生徒の個人情報入りUSBメモリー紛失、拾得者から封書でファイル名やスクョ… 回
収はできず 読売新聞 によるストーリー 2024.6.22
〇生徒の個人情報流出 教育現場での「情報共有」はどうあるべきなのか
NEWSポストセブン によるストーリー 2024.6.16
生徒の家庭環境等の極秘資料はクラス担任として必要な情報が多く、転勤してきていきなりクラス
担任となることの多い困難校ならば新年度、最初の学年会議ではどうしても必要不可欠の資料とさ
れるだろう。新任のクラス担任が進学校から転勤してきた場合にはとりわけ、対応の難しい生徒た
ちの情報を予め知らせておきたい。データとしては生徒の人間関係、国籍(来日時期等)、病歴、
アレルギー、発達障害、特別指導歴、補導歴、家庭の経済的困窮度など、担任として知っておかな
いと後日、修学旅行や卒業アルバム等で大きな問題が生じかねないだろう。
近年では日本語を十分に理解できない生徒は少なくない。授業が始まる前に特定の生徒について
多くの教員に周知してもらう情報があるのは事実である。かつて中学校在学時に危険な刺傷事件を
二度、起こしている生徒に関しては年度当初、授業中にたとえ寝ていたとしてもその生徒を起こさ
ないで欲しい、できるだけ刺激しないで欲しいとの厳重注意が1学年主任から全職員に徹底された
ことがある。お陰様で教師たちは刺されずに済んだが、入学後、2週間も経たない内にその生徒は校
内で同級生を刺して逮捕されている。その後、かなり時間が経過し、私は偶然、その生徒の家庭環
境を知ることになった。その内容から見て、もし、この情報が中学校から知らされていなければお
そらく教師が刺されていた可能性は極めて高かったと個人的には確信している。
札幌の件では生徒の個人情報の管理の杜撰さや言葉の選択に乱暴な所が見られる点は責められる
べきだが、教師たちが生徒たちに関して特定の情報共有を図らざるを得ない点はぜひとも理解して
いただきたい。
○市立中学での個人情報流出 学校、資料放置の原因「不明」で調査終了
朝日新聞社 によるストーリー 2024.7.20
○“事実無根”の「ADHD」記載も…生徒の個人情報流出 札幌市
日テレNEWS NNN によるストーリー 2024.7.9
〇「父親うるさい」「だらしない」など中学校1年生の267人分の個人情報がインターネットに“流
出” 北海道・札幌市北区 FNNプライムオンライン によるストーリー 2024.6.6
この手のヤバイ情報を次年度のクラス編成などの際に参考資料として作成し、次の担任にリレーす
ること自体は困難校と呼ばれる高校でもよく行われている。クラス担任間の負担はできるだけ平準
化すべきであり、そのための資料は必要不可欠であるからだ。ただし絶対に教員以外に漏洩するこ
とが無いように資料が厳重に保管されるべきなのは当然であり、この担任の不注意が厳しく咎めら
れても仕方あるまい。
特に全クラス分の資料はクラス編成の学年会議、及び新クラスの最初の学年会議でのみ利用すべ
きであり、会議終了後にはすぐに回収して学年主任か管理職が厳重に保管すべきものであろう。仮
にこの資料が学年団全員に配布されっぱなしだったとすれば、当該教師のみならず資料を作成、配
布したであろう学年主任の責任も軽くはない。
この件は児童生徒のプライバシー保護と守秘義務を盾にして自分たちの過失を隠蔽することには
用意周到な教師たちが、児童生徒のプライバシー保護そのものに対しては意外にもいい加減だ、と
皮肉られても抗弁できない、大失態である。
〇奈良・生駒高校 生徒の個人情報記載された書類 配送業者が紛失
ABCテレビ によるストーリー 2024.6.22
…学校側は個人情報を含む書類にもかかわらず「信書」として配送していなかった…とのこと。ど
の配送業者を使ったのかは分からないが、担当した教師としてはおそらく郵送するよりも値段が安
かった、との安直な判断から郵便局以外の業者を選んだのだろう。しかしそれ自体が既に法律違反
であり、重大な過失ではある。担当した教師には生徒たちの個人情報を扱っていることの責任の重
さへの自覚が足りなかったのではあるまいか。
もちろん郵便局を利用しても、配達物の紛失事故は起こりうる。これまでによく報道されたのが
野球部員などの冬休み中のアルバイトによる年賀状の廃棄。数多くの年賀状を配達するのが面倒に
なった高校生が年賀状の束をこっそりと山林に遺棄する類の事件である。
とはいえ郵便局側も現金や重要書類が封印されている書留、速達などはアルバイト学生に配達を
任せるわけがない。書留や速達に関しては確実に郵便物を配達先に届けるために二重三重のチェッ
クを行い、一般の郵便物とは別枠で配達される。当然、郵送料金はそれ相応に高くつくが、現金や
個人情報を扱っているのだから仕方あるまい。
通常、高校の進路指導部では生徒たちの希望進路先(企業、大学、専門学校等)へ履歴書、調査
書、推薦書などを郵送する際、郵便局の書留を利用することが多い。一般受験でも受験希望先の学
校が用意した速達か書留用の封筒を利用することになっているはずである。奨学金申請の書類も同
様の郵送手段をとるだろうが、高校によっては奨学金の申請を進路指導部ではなく、総務部、教務
部などが担当している。
受験や奨学金関係の書類にはいずれも生徒や保護者の個人情報が記されているため、その漏洩を
防ぎ、かつ確実に期日まで郵送先に届くよう、学校は万全を期することになるはず。仮に進路指導
部が郵送すべき受験手続書類をどこかに保管したまま忘れてしまい、期日内に郵送しなかったとし
たらどうなってしまうだろう。生徒の進路希望は叶えられず、裁判沙汰、新聞沙汰の事件にまで発
展するのはほぼ確実なのだ。さらに生徒たちの個人情報がネット上に拡散されてしまえば、収拾の
つかない最悪の事態にまで発展しかねまい。そして生駒高校の教師たちが全員、以上のような予測
ができなかった…とは到底思えない。
考えられるのは郵送を経験の無い若い教師、新任教師に丸投げしてしまった可能性である。この
責任の重い、憂鬱な任務を分掌の部長か、その道のベテラン教師に一任している高校は決して少な
くない。私が進路指導部長だった時、郵便局が混んでいて簡易書留の手続きで1時間近くも要した時
があった。この仕事、かなり面倒なのは確かだ。推薦入試や共通テストの手続きと就職試験の手続
きが重なる9月、10月は高校の進路指導部にとってまさに地獄の繁忙期と言えよう。
この時期ばかりは進路指導部員一人一人の仕事を他の教師がチェックするゆとりなど、まず存在
しない。まして体育祭や文化祭、そして部活動で新人戦までもが重なる時期である。進路指導部の
担当者が3年生のクラス担任で運動部顧問であった場合、担任しているクラスの生徒の推薦書や調査
書の発行をも抱えているのだから一時的に徹夜覚悟のブラックな勤務状況となるのは事実上やむを
得ない。個人的にはかつて進路指導部に体育科の教師を一人も見たことが無かったのだが、それも
ある意味、当然の理なのだ。
おそらく生駒高校の担当者に個人情報を扱っている事の自覚が不足していたことは否めないだろ
う。しかしどの分掌が奨学金の手続きに携わっていたのかは分からないが、仮に進路指導部だとし
たら多少は担当教師に同情してしまう。実際に進路指導部に長くいた者(5校で経験)として言わ
せてもらうと、この郵送の仕事を含めた進学、就職の手続き、その責任の重大さと煩雑さは明らか
に運動部顧問にとって辛すぎる…札幌、大阪、奈良と生徒の個人情報漏洩に関わる事件が頻発して
いる背景に学校のブラック化が進んでいるという現実があることをぜひ、多くの人には知っていた
だきたい。
〇「主務教諭」新設に異議あり 現職教員らが文科省に反対署名4万筆提出へ「職員室の民主的風土が
破壊される」 東京新聞 2025.2.27
まず、「職員室の民主的風土」などはとっくの昔に破壊されていると私は考えており、この記事の
時代錯誤も甚だしい見出しにはつい吹き出してしまう。
既に設置されている主幹教諭の役割自体が管理職の手先であり、補佐役に過ぎないのに、あらた
に「主務教諭」を新設して、一体、何の役に立てようとするのか、政府の狙いは極めて怪しい。
学校には元々、教務部長、生徒指導部長、進路指導部長、管理部長、総務部長、学年主任などが
置かれてきた。その肩書のあるうちは「主任手当」を余分にもらえる場合もあるが(なお、管理部
長や総務部長の場合、主任手当がつかないことがある)、肩書が無くなれば平教諭に戻るのが通例
であった。つまり、部長ないし主任は一時の役職に過ぎなかったので、教員集団に固定した序列が
生じていたわけではなく、管理職とは一線を画した存在であった。むしろ部長ないし主任は一般教
師の利害を代表する存在として、場合によっては管理職と会議で対峙することもあったのである。
ところが職員会議が管理職の諮問機関とされ、議決能力を失った20年余り前から、明らかに教師
全体の意向を汲んだ学校経営が見られなくなり、管理職の独断専行が目立ち始めてきた。そして管
理職の補佐役として主幹教諭が2007年の学校教育法改正により設けられると、直近の10年ほどで
職員会議はさらに形骸化し、教師への管理統制が強化されてきた。
にもかかわらず、教職員の不祥事は減るどころか増えてきたのではなかったか。つまり、最初に
問われるべきは管理職の能力・適性の方ではなかったかと思うのである。もちろん、問題の根源は
教育委員会や文科省、さらには政府を構成する面々の適性・能力自体にあるのだろうが…
確かに不登校問題や児童生徒の自殺、イジメ、保護者のクレーム対応などにはかなりの専門知識
や経験が必要な場合も少なくない。しかし、こうした難問に対応するならば、古びた経験を引き摺
るベテラン教師を「主務教諭」として任用することはかえって事態の悪化、紛糾を招きかねまい。
本来の専門家であるスクールカウンセラー、スクールロイヤー、ケースワーカーの増員や配置こ
そ喫緊の課題。なのに、専門家の人選と調達が面倒であり、閉鎖的な学校に外部からの人材は余り
入れたくない…かつ経済的にも負担が大きい…ならばすぐにでもお安く雇えて文科省に忠実な元管
理職らが最適であろう…文科省や政治家の、こうしたいやらしい打算が透けて見えてくるようだ。
百害あって一利無し、になりかねない、きわめてその専門性を疑われる老害「主務教諭」の配置
を進めようとする文科省の小賢しさには呆れてものが言えなくなる。おそらく退職後、暇を持て余
している元管理職、元主幹教諭らに再就職の場を与えて一層、学校の管理統制を強め、今後とも学
校全体に因循姑息な老害臭を大いにまき散らそうとの魂胆だろう。いかにも老害政権の極みたる石
破政権の考えそうなことである。
担当する学級内のことを学級担任が一身で抱え込み、他の教員から介入されたくないと思う古臭い縄張り意識、つまり「学級王国」的発想は教員世界の中から払拭されているとは到底思えない。それどころか、今も色濃く残存しているようである。自分の学年の事は他学年から介入されたくない、自分の部活の事は他の部活顧問から介入されたくない、自分の学校のことを他の学校や地域住民、まして「何も知らない」第三者からは絶対に介入されたくない…
学校特有の閉鎖的隠蔽体質はこうした奇妙なほど徹底的に外部からの介入を排除しようとするプライドの高い教師集団特有の心理、あるいはストレスフルなブラック職場の重圧下で、外部の誰からもまっとうな理解が得られないことから生じる孤立し、傷つきやすい被害者意識によって強く自閉してしまった少なからぬ数の教師達に見られる極度な内向きの姿勢…といったような、長年に及ぶ日本の学校の精神病理的風土が育んできたのかもしれない。