その9.お寺の基礎知識(前編)

 

 市原市に限らず、地元にどんなお寺や神社があるのかを知っておくと、地元の歴史を知る上で大いに役立ちます。もちろん、日頃の散歩やサイクリングコースの設定にも関わってくるでしょう。多くの場合、寺社には歴史的な味わいに加えて緑豊かな所が多く、自然にも癒されます。

 そこでまずお寺からご案内いたしましょう。まずお寺の場合は神社と違っていつもいつも気安く、足を踏み入れることができない場合があるので要注意。法事や墓参りなどの時には特に配慮に欠けた行為(写真や動画の撮影など)は禁物です。

 さてお寺に立ち寄る前に予め知っておくと便利なことがあります。お寺の宗派です。実は地域によって宗派別の寺院数には大きな違いがあります。地元にはどんな宗派の寺院が多いのか、またなぜその宗派が多いのか…ということを探ると郷土史への理解が深まります。

 以下、参考までにカッパの地元、千葉県や市原市の状況をご覧いただきましょう。データは10年以上前のものですが、この間、寺社数はそれほど大きな増減がないだろうと考えています。少なくともおおよその傾向はつかめるでしょう。

 なお、神社を含めて地域の寺社の概要をつかむには都道府県(教育委員会の場合も)のホームページから「宗教法人名簿」の一覧を眺めるのが一番。ただし各市町村での宗派別寺院数は県の宗教法人名簿の記載を元に、かなり面倒ですが、ご自分でカウントしなければならないかもしれません。

 

地元の宗派別寺院数:宗教法人名簿より

1.市原市

宗派

寺院数

真言宗

 

 

 

 

 

豊山派

59

智山派(含む宝性寺)

13

新義真言宗

16

善通寺派

1

信貴山真言宗

1

山階派

1

真言宗全体

91(44.8%)

天台宗

24(11.8%)

浄土宗

5(2.5%)

浄土真宗本願寺派

2(1%)

日蓮宗

 

日蓮宗

24

顕本法華宗

16

日蓮宗全体

40(19.7%)

臨済宗

 

0

曹洞宗(含む橘禅寺)

38(18.7%)

単立(本伝寺・妙典寺・寶徳寺)

3(1.5%)

総計

203

 浄土真宗の二寺は近代以降、新設された寺院。全国では最も多い浄土真宗の寺院が市原では極めて少ないこと、臨済宗寺院が一つも見当たらないこと、真言宗が突出しており、次いで日蓮宗と曹洞宗が伯仲していること、天台宗寺院の立地が内陸部に偏っていること、などが市の特色として指摘できよう。なお真言宗智山派の有名寺院としては成田山新勝寺や川崎大師、豊山派では東京の護国寺、西新井大師がある。

 神社数は228(内、神社本庁に属さないものは3で神習教2、御嶽教1)。

 なお「市原郡誌」(大正5年)では養老などを含まない郡内で真言宗105、日蓮宗49、曹洞宗41、天台宗40(→24)、浄土宗6(計241カ寺)となっており、この百年近くの間にも多くの寺院が消滅している事が分かる。特に天台宗寺院の減少ぶりが目立っていよう。

 

2.隣接する地域の数値

①袖ケ浦市の宗派別寺院数

宗派

寺院数

真言宗

豊山派

1

智山派

26

新義真言宗

7

信貴山真言

1

真言宗全体

35(64.8%)

天台宗

0

浄土宗

1(2%)

浄土真宗(本願寺派)

1(2%)

日蓮宗(顕本法華宗)

2(3.7%)

曹洞宗

9(16.7%)

臨済宗

0

単立

6

総計

54

   真言宗が突出している中で市原と違って智山派の多さが目立つ。また天台宗が0なのも注目されよう。臨済宗が皆無で浄土宗、浄土真宗も極めて少ない点は市原市と同じ傾向である。ただ日蓮宗の少なさは市原とは大きな違いといえよう。同じ上総国で隣接する、と言っても姉崎と長浦間の交通がかなり不便だったこともあったようで、意外なほどに宗派別の構成が市原とは異なる。

 

②木更津市の宗派別寺院数

宗派

寺院数

真言宗

豊山派

36

智山派

19

高野山

1

真言宗全体

56(62.2%)

天台宗

0

浄土宗

4(4.4%)

浄土真宗

1(1.1%)

日蓮宗

日蓮宗

5

日蓮正宗

1

顕本法華宗

2

本門佛立宗

1

日蓮宗全体

9(10%)

臨済宗

3(3.3%)

曹洞宗

13(14.4%)

黄檗宗

1(1.1%)

単立

3(3.3%)

総計

90

       

 隣接する袖ケ浦市と違って市原市と同様に真言宗では豊山派が多い。日蓮宗は袖ケ浦ほどではないが、県内としては少ない方であろう。また真言宗が圧倒的に多いのも袖ケ浦と似ている。智山派か豊山派かを問わなければ基本的には袖ケ浦と似た構成といえよう。とすれば市原の宗派別寺院数は下表で見られるように千葉市の影響(真言宗豊山派が多い、日蓮宗が多い)と袖ケ浦方面の影響(曹洞宗がやや多い)とを受けて折衷的に形成されてきたのかもしれない。

 

③千葉市の宗派別寺院数

宗派

寺院数

真言宗

 

 

豊山派

41

高野山派

1

真言宗全体

42(34.4%)

天台宗

7(5.7%)

浄土宗

4(3.3%)

浄土真宗

 

 

本願寺派

2

大谷派

2

浄土真宗全体

4(3.3%)

日蓮宗

 

 

 

 

 

日蓮宗

23

顕本法華宗

13

日蓮正宗

5

本門流

2

陣門流

1

本門佛立宗

2

 

日蓮宗全体

46(37.7%)

曹洞宗

10(8.2%)

臨済宗(妙心寺派)

1(0.8%)

単立

8

総計

122

       

 市域の南部が七里法華地帯に属するため、トップは日蓮宗寺院であり、二位に真言宗。ただし真言宗智山派は皆無である。現在の人口の割にはそもそも寺院数が少ない(市原が人口24万人で203なのに千葉市は人口96万人に対して122。割合的には7倍近くの格差がある)。ちなみに袖ケ浦市は人口6万人に対して寺院数は54であり、割合としては市原市と大差がない。他方でキリスト教や天理教などの施設は市原よりも多いようだ。天台宗、浄土宗、浄土真宗、臨済宗は市原や袖ケ浦と同様、数が少ない。外部からの人口流入の多さが伺えよう。

 

3.千葉県全体と国全体の数値:宗教年鑑より

 

真言宗

日蓮宗

天台宗

曹洞宗

浄土宗

臨済宗

浄土真宗

その他

県内

2999

1109

(34%)

1位

809

(27%)

2位

367

(12%)

3位

324

(11%)

4位

150

(5%)

5位

73

(2.4%)

6位

48

(1.6%)

7位

119

単立103

市内

200

90

(45%)

1位

40

(20%)

2位

24

(12%)

4位

37

(18.5%)

3位

(2.5%)

5位

無し

無し

全国

73287

12105

(16.5%)

3位

6763

(9.2%)

5位

4054

(5.5%)

7位

14562

(19.9%)

2位

8076

(11%)

4位

5692

(7.8%)

6位

20517

(28%)

1位

1518

※市原市のデータは1992年のもので古いため、現況と少しだけ数値が異なる。

 千葉県全体ではやはり真言宗が多く、日蓮宗がこれに続く。ただし3位に天台宗が入る点が、市原市、袖ケ浦市、千葉市と食い違うポイント。つまり市原周辺では市原を除いて天台宗が極めて少ない点が県とは異なり、非常に注目される地域的特色といえよう。浄土系の宗派と臨済宗も極めて少ないがこれは県全体の傾向。浄土真宗が全国レベルでは最も多いのに対して県内では6位である点と全国で5位の日蓮宗が3位の天台宗に大差を付けて2位に食い込む点は千葉県としての最大の特色と考えられる。

 

4.茨城県との違い

 

茨城県

千葉県

1位

真言宗 467

真言宗 1109

2位

曹洞宗 194

日蓮宗 809

3位

天台宗 191

天台宗 367

4位

浄土真宗 108

曹洞宗 324

5位

浄土宗 102

浄土宗 150

6位

日蓮宗 91

臨済宗 73

7位

時宗 53

浄土真宗 48

8位

臨済宗 38

時宗 8

 隣接する茨城県との大きな違いは日蓮宗の順位と念仏系宗派の順位の差であろう。親鸞が長く滞在した茨城では浄土真宗寺院が多い。また一遍も滞在しており、全国的にはかなりマイナーな存在の時宗が意外に多いことにも気付く。その分、日蓮宗は少なく、全国レベルと大差ない。他方で真言宗寺院の多さと臨済宗寺院の少なさは千葉県とよく似ている。