その5.子供の貧困と奨学金制度

※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。

 

1.貧困問題

※以下は10年近く前にカッパが作成したプリント教材です。当時は定時制に勤めていたので政治経済な

 どの授業では貧困問題に触れる必要がありました。子ども、女性、母子家庭、高齢者の順に1か月近

 く、貧困問題の特集授業をしていた時のものです。データ等は古くなっておりますが、参考までに。

 

「子どもの最貧国・日本」(山野良一 光文社新書2008)より

 同書ではユニセフ(国連児童基金)の2005年の報告を基に記述されているが、最新のデータでは一層、日本の子ども(18歳未満)の貧困率(可処分所得が全世帯平均収入の半分未満である世帯に暮らしている子どもの割合)が高まっている。そこで最新のデータも加えて同書の論点を補強していくことにする。

 2005年の報告書では日本の子どもの貧困率は14.3%でOECD26カ国中17位であり、アメリカが25位(21.9%)、メキシコが26位(27.7%)であった。すでに日本の子ども貧困率がかなり高い水準に達していたが、2012年の報告(2009年の所得を基に算出)では先進35カ国中27位で貧困率は14.9%に達している(最新のデータでは16%突破)。これは2000年の報告では12位だったことを考慮すると日本の子どもの貧困問題が年を追って悪化していることを示している。なお2012年の報告ではやはりアメリカが34位(23.1%)、最下位はルーマニア(25.5%)であった。

 逆に貧困率が低いのは順にアイスランド(4.7%)、フィンランド(5.3%)、ノルウェー(6.1%)、スロベニア(6.3%)、デンマーク(6.5%)、スウェーデン(7.3%)などとなり、やはり北欧諸国が目立っている。

 さらに2012年報告での極貧率(可処分所得が平均の40%未満)を見ると日本は29位となり、債務問題で揺れるギリシャよりも下位に転落している。つまり日本の子どもの貧困率は年々悪化しており、数字の上では最悪のアメリカに近づきつつあるといえる。ノーベル経済学賞を受賞(2008年)したポール・クルーグマンの指摘(2012年)によるとアメリカは不平等の尺度として知られるジニ係数が社会騒乱の多発する0.4にあと少しで達するという。また所得格差が次世代にわたり固定化する傾向も強まっていて「アメリカン・ドリーム」は過去の夢と化しつつあるという。富裕層の世襲化が進む裏側で貧困層の世襲化(貧困の連鎖)も生じてきている。これは深刻な差別問題である。

 日本はこのアメリカに追随しており、低福祉、低負担で自己責任を基本として小さな政府を目指してきた新自由主義の破たんが迫ってきているという指摘もある。

2.一人親家庭の貧困率

 OECDの調査(2005)ではOECD全体(24か国)で日本が一人親家庭の貧困率ではトルコ(57.7%)に次いで高い数値(57.3%)を記録している。特に二人親家庭との比較では5倍以上の差が生じており、家庭状況の違いによる経済的格差の深刻な拡大が見られる。また働いている一人親は働いていない一人親よりもわずかながら貧困率が高い(57.9%―57.3%)という奇妙な結果が出ている。いわゆる「ワーキングプア」の問題が一人親の子どもを直撃していることが日本の最大の特色となっている(アメリカでは働いていない一人親の貧困率が93.8%で働いている一人親の貧困率は40.3%。多くの国は多かれ少なかれアメリカと同様のパターン)。

 その理由は日本では一人親が非正規雇用であることが多く(60%以上)、一人親家庭の年間の就労収入が平均でわずか166万円に過ぎないという点にある。

3.社会保障と子どもの貧困

 表を見て分かる通り、政府介入後に貧困率が高まっている(プラス1.4%)のは日本だけ。アメリカですら政府の介入後は貧困率が低下している(マイナス4.7%)。実は北欧の国々でも政府が介入する前の貧困率は日本と大差がなく、スウェーデンやフィンランドではむしろ日本よりも高いくらい(介入によってマイナス10数%)。これまでの日本の政策は何と貧富の差を拡大する方向に作用していることが推察できる。貧困は本人の努力、能力の問題であると決めつけてきた「自己責任論」がいかに欺瞞に満ちたものであるのか、分かるだろう。

 その理由は所得再分配政策(児童手当、児童扶養手当、扶養控除、生活保護等)があまりにも不十分で平等性に問題があるから。政府の家族関連社会支出の対GDPの割合はOECD26カ国中23位(下からメキシコ、アメリカ、スペイン、日本の順)。トップのスウェーデン、デンマークの3.8%に対してわずか0.6%に過ぎない。両者には6倍以上の格差がある。

 自己責任論が成立するためには労働市場が完全競争の状態になければならないが、日本の現実は違うようである。国会議員の世襲化に顕著に見られるように学歴も世襲化(大阪府堺市の調査では生活保護を受けている世帯主の72.6%が中卒または高校中退)が進む現在、家庭の経済格差によって教育や就労の機会の不平等は社会の随所に生じている。つまり機会の豊富さを左右する人的資本(健康な心身、技術、学歴等)や社会関連資本(頼りとなる人間関係等)は貧困家庭には多くの場合、欠損がかなりあると考えられるからである。

 「自己責任論」は貧困に対する政府の無策ぶりを隠ぺいすることに役立っているだけであろう。つまり心理学で指摘されている「因果応報」の心理(不当なイジメを受けている子を見ると、イジメられている子にも原因があると見なしてイジメを肯定しようとする心理)が日本の場合、貧困問題にも働いているようである。

4.アメリカの貧困問題

 1960年代から70年代にかけて南部の農村地帯に居住していた黒人の一部は工業化の進む北部大都市へ豊かさを求めて移動し、都市部の中心に住みついてスラム(ゲットー)を形成した。

 一方で白人の富裕層はモータリゼーションが進む中、自家用車を手に入れて郊外へと移動していった。また単純肉体労働の場はグローバリゼーションによって海外に拠点が移された結果、大都市のスラムでは60年代の後半から荒廃が進み、失業率が増大して殺人や麻薬(赤ちゃんの5%ほどが「ドラッグベビー」)などの犯罪が多発(黒人男子の三分の一は人生のどこかで刑務所に入る)するようになった。

 つまりこの時期は公民権運動によって黒人の権利が上昇していったにも関わらず、黒人の貧困問題は悪化していったのである。しかもアメリカの生活保護は三人家族で月450ドルが平均であり、5年間しか支給されていない。

5.学力格差と貧困

 PISAの結果の分析によって日本は徐々にアメリカ型の教育格差社会に近づいているという。つまり経済的格差の拡大が学力格差の拡大とリンクしていることが判明してきている。日本では徐々に学力中位層の一部が下位層に沈み込んできているのだ。家庭の経済格差と子どもの学力格差は上位層では年収800万円を境に算数の学力に大きな差が生じている。また下位層では年収200万円未満で大きな差が見られる。

 学力は子どもの努力の成果だけを反映しているわけではなく、家庭の経済力や保護者の期待度などが大きく関わっているようである。特に親の学歴以上に家庭の所得が子どもの知的、身体的発達だけでなく、子の成人後の所得にまで大きな影響を及ぼすという研究もある。すなわち、日米共に親の所得を増やす政策が切望されるということになる。

6.児童虐待と貧困

 貧困家庭では暴力やネグレクトの危険性が裕福な家庭と比べて数十倍も高まるという。アメリカは貧困大国であると同時に「虐待大国」でもあり、2006年のデータでは虐待による子どもの死亡件数が1530人(日本は60人ほど)。内、800人近くは年収1500ドル以下の貧困家庭である。アメリカでは虐待を通報させ、早期発見に努めてきたが経済的支援などの福祉政策をとらずにきたせいか、児童虐待による死亡件数はむしろ増えてきているらしい。

 長期に貧困を経験してきた人は裕福な人に比べ、失敗経験に対する耐性が低く、抑うつ感や身体症状をより強く持つ(倍以上)傾向があるという。「社会疫学」では問題に直面した時、貧困家庭のメンバーはより強くストレスを感じてしまい、意欲が減退しやすく、暴力や麻薬に走りがちになる。

 とすれば、子どもの養育環境が劣悪なものになるのは不可避であろう。また居住空間の狭さもストレスの原因となるだけでなく、成績低下の原因となることが指摘されている。貧困問題を放置し、犯罪や虐待を増加させる社会は戦争に対する免疫力をも低下させかねない。

7.日本の問題

 生活保護制度は2007年の北九州市で生活保護を打ち切られた男性が餓死した事件に象徴されるように、「水際作戦」がとられており、生活保護の支給を減らす努力が各市町村で行われている。財政難に加えて生活保護の不正受給が明るみに出たせいもあり(ただし問題になった1983年の不正受給者の割合は生活保護世帯の0.1%に過ぎないという)、行政側は貧困家庭に対して極めて厳しい。

 これは1980年代、行政改革の名のもとに福祉削減が進められてきた結果、特に子どものいる世代(20~30代)への支給が減らされてきたことに淵源があるという。つまり貧困家庭の子どもを直撃してきたのが「行政改革」の隠れた側面であった。高齢者への支援が強化される一方で日本の家族福祉への支援は後手に回ってきたと言える。

1985年の母子世帯の生活保護率は22.5%だったのが2005年には13.1%に。

 日本の母子家庭の貧困率は50%を超えている

 また児童養護施設は日本の場合、相変わらず、集団主義であり、平均60人(全国に約500の施設があり、約3万人の子どもを収容)ほどで生活している。しかも施設は常に不足気味。アメリカですら里親か数人規模のグループホームで対応しており、一対一のケアが実現しているのに、日本では十人以上の子どもを一人でケアしており、この点ではアメリカに百年の遅れをとっているという。

8.子どもの貧困が社会にもたらすコスト

 1994年に経済学者のソロー(ノーベル賞受賞)らは子ども時代の1年間に貧困状況にあると生涯賃金は約1万2000ドルの損失が生じると予想。アメリカの貧困な子どもは約1400万人、1年間で1769億ドルの損失となり、社会全体にとっても大きな損失。一方で子どもたちの貧困をなくすコストは年間約400億ドルで済むという。ソローらはこうした試算から子どもの貧困を放置することで国家は多くの金を失っていると主張した。

 イギリスでは子どもの貧困率が上昇していたが、1990年代、ブレア首相のときに子どもの貧困撲滅が叫ばれて2000年代に入り、貧困率が劇的に低下したという。問題の多いアメリカであるが、国家は無策でもボランティアと寄付は盛んで児童養護施設等は無料であり、民間福祉機関への寄付は毎年、10兆円から20兆円にのぼるという。たしかにアメリカでは20%の富裕層が全所得の60%を得ており、20%の貧困層は2.5%しか得ていない格差社会だが、ボランティアが遅れ、寄付の少ない日本と比較した時、実態はあまり違いが無いのかもしれない。

 ※参考動画

  【日本は世界一冷たい国】人助けランキング最下位の理由

   原貫太国際協力師 2021/12/15 12:28

  今の日本に、貧困状態にある子どもたちがいる。その数7人に1人。家には炊飯器がない。ガス

   も電気も止まってる。さらに水道も…。その事実を知った1人の女性が、支援に立ち上がりまし

   た。ABCテレビニュース 2020/12/26

   6分ほどなので視聴させやすい。

  ○【貧困】「子どもや若者はもう十分頑張ってる」フローレンス駒崎弘樹が怒りの主張!コロナ禍

   で体重が減る子も?子育て世代に必要なサポートを考える【ひろゆき】【生活保護】|#アベプ

   ラ《アベマで放送中》 2021/05/08

  ○【教育格差】EXIT兼近「大人になって気付いた」生まれた環境で人生が決まる?オンライン化で

   広がる教育格差【新型コロナ】|#アベプラ《アベマで放送中》 2020/05/22 18:43

      子どもの貧困。拾った新聞で字を学び、公園のトイレで髪を洗う。6人に1人の子どもが貧困。

       CBCドキュメンタリー  2021/12/01  57:27

         2017年に取材された古い番組ではある。歌集「キリンの子」の作者のエピソードと作品を縦軸に

   しながら様々な子供たちの貧困問題をドキュメンタリー風に追って作成されたラジオ番組。音声

   のみの内容に取材中の静止画像を取り込んで動画に仕立て直している。敢えて動画映像を用いな

   い、しかも長尺の番組だが登場人物の語りとナレーション、数々の静止画像が私たちの想像力を

   十二分にかき立ててくれる。

    非常に重いテーマだが、子どもの貧困問題や学校教育の問題を扱う上で必見の動画だろう。子

   ども食堂が全国で急増し、ついに中学校の総数と肩を並べるほどに達している現在、この問題は

   決して過去のものとなってはいない。今後とも、夜間中学やフリースクール、あるいは歌人鳥居

   氏が訴えてきた「形式卒業」といった学校教育の問題と併せて、しっかりと日本の貧困問題を取

   り上げ続ける必要があるだろう。

      ◎【こども食堂】食事だけじゃなく勉強も?居場所・コミュニティに?貧困支援のイメージどう払

   拭?|アベプラABEMA Prime #アベプラ【公式】 2023/03/11  15:05

  「無縁社会」といわれる日本社会では子どもの居場所作りという観点も極めて重要だろう。この番

   組以降も子ども食堂は急増し、2023年の12月現在ではほぼ一万か所に達しているらしい。沖縄

   が最も数が多いらしく、やはり沖縄の貧困問題はもっと注目されなければならないだろう。

・高校生ワーキングプア ―「見えない貧困」の真実―

 NHKスペシャル取材班(著)2018より

※以下は上記の本を元に10年以上前、カッパが作成したプリント教材です。データが

 古くなっているのでご注意ください。

 

1.子どもの貧困率

 2014年に16.3%(6人に1人の割合で300万人以上)

 ⇒ 2017年に13.9%(7人に1人の割合)・・・12年ぶりに改善

2.家計貯蓄率の低下

 ※家計貯蓄率=家計貯蓄÷家計可処分所得

 1975年:23.1%(世界でトップクラス) ⇒2013年:-1.0%

 収入だけでは不足し、貯金を取り崩して暮らす人や預貯金をする余裕のない人が増えているということ。

3.相対的貧困と絶対的貧困

 途上国で問題となる飢餓に直面するレベルの貧困が絶対的貧困

 相対的貧困は日本では年収が単身世帯で122万円以下

              2人世帯で173万円以下

              3人世帯で211万円以下

              4人世帯で244万円以下

  ※年収300万円未満の世帯割合は33.3%。一人親世帯の貧困率は50.8%で

   OECD33カ国中最下位

 児童のいる世帯では30%が「生活が大変苦しい」と回答、「やや苦しい」と合わせると63.5%(2017年)。しかし9割以上の国民は団塊ジュニア(40代後半~50代前半)を中心に「自分は中流層に属している」としている(2016年)。

4.奨学金問題

 大学生における奨学金受給者の割合は1990年代半ば10%台⇒2014年度51.3%

 急増のポイントは2004年に日本育英会から日本学生支援機構(独立行政法人)へ組織替えされた時で40%に達している。

背景

親の所得減少:サラリーマンの平均年収のピークは1997年の467万円⇒2014年には414万円で53万円ほど減少(2015年に415万円)

大学授業料の高騰

 私立大学:1990年度年間61万円余り⇒2015年度86万円余り

 国立大学:1990年度年間約34万円⇒2015年度53万円余り

高卒求人の激減

 ピークは1992年の152万3574人⇒2011年12万4829人で十分の一以下

 高卒で就職できるのは2割、残りは進学せざるを得ない

 ⇒奨学金を借りてでも進学せざるを得ない・・・「八方ふさがり」

 ⇒大学進学率上昇(1955年10.1%⇒2015年57.3%)

 奨学金を借りる歳の注意点として強調すべき事

  ・月額ではなく、総額に留意し、借りすぎないようにする。

  ・奨学金の専用通帳を作ってきちんと収支を確認できるようにしておく。

  ・返済に困ったら滞納する前に学生支援機構に連絡すること。

 ※場合によっては減額返還制度(月々の返済額を減らせる)や返還期限猶予制度

 (事情に応じて返済を一定期間猶予できる)の利用可能。また2017年度から卒業後

  に年収が約144万円未満であれば月の返済額は2000円に抑えることが出来る。し

  かし多くの利用者はこのことを知らず、2015年のアンケート(労働者福祉中央協

  議会)では60.5%が知らない。つまり多くの学生は奨学金のリスクをほとんど知

  らないまま多額の借金をしている。⇒滞納者急増と自己破産

奨学金制度の実情

 「貸与型」が基本で、学生本人が借りる

OECDの中で給付型奨学金が無いのは日本と無償教育の充実したアイスランドだけであった。2017年から給付型奨学金が日本にも導入されたが一学年につき2万人を対象とする限定的なもの。希望者の1割ほどが対象となるに過ぎない。

「無利子型」・・・第一種奨学金

 従来は成績の評定平均値が3.5以上という条件があったが、2017年度から成績を問わず、家計のみ(住民税非課税世帯であればOK)の条件。2017年度、国立大で自宅通学の場合、月額4万5千円、私立大学で自宅通学の場合、月額5万4千円

「利子型」・・・第二種奨学金

 2017年度、国立大学で自宅通学の場合、月額3万円、5万円、8万円、10万円、12万円から選択し、審査を受ける。利子は3%を上限。国立大学で月5万円を借りた場合、3%の利子とすると15年間で返済する場合、およそ300万円(利子60万円ほど)を返済することに。

・「入学時特別増額貸与奨学金」

 国の教育ローンを利用できなかった人が対象で10~50万円を利子付きで借りる事が出来る。入学時の納入金を払う為に利用。条件としては生活保護世帯または住民税非課税世帯であること。

 奨学金は基本的に入学後、支給されるので2~3月の入学手続きのために入学金や前期の授業料はあらかじめ用意しておく必要がある。それが用意できない場合にはまず「国の教育ローン」(日本政策金融公庫が融資)の利用を考えなければならない。奨学金との併用は可能。上限は350万円以内で住居費用にも利用可能。

 ただし奨学金と違い、保護者がローンの主体。手続きは最短でも20日間を要するが、早めに準備しておけば大丈夫。1~2月は申込が殺到するため、できれば12月までに手続きしておきたい。

 この「国の教育ローン」が利用できなかったときに学生支援機構の制度を考えることになる。その際、「国の教育ローン」が審査を通らなかったことを証明する「否決通知」を提示する必要がある。上限50万円を無利子で借りる事が出来るが、その50万円も4月以降にならないと借りられない。そこで「入学時特別増額貸与奨学金」を担保にして民間の教育ローンを「つなぎ融資」(銀行や労働金庫、社会福祉協議会)として借りることになる。極めて複雑なシステムとなっているが利用者は多い。しかしこれは「借金で借金をする=多重債務」という極めて危険な状態を生み出してもいる。奨学金による自己破産が急増している原因の一つにこの「つなぎ融資」の仕組みがあるのだろう。

 2015年のアンケートでは34歳以下の奨学金借入総額は平均312万9千円ほど、返済期間は14.1年で、月々の返済額は1万7千円ほど。借りた人の6割が有利子奨学金。有利子と無利子を併用する人も多い。

 返済は卒業後7箇月目から始まる。返済期間の最長は基本的に20年間。返済滞納の場合、一ヶ月後から本人や保証人への電話による督促が始まる。このことを知らない利用者は2015年のアンケートで71.7%に上る滞納三ヶ月を過ぎると本人の個人情報が各金融機関の加盟する個人信用情報機関へ登録され、「ブラックリスト」に挙げられてしまう(⇒ローンが組めない、クレジットカードが作れない等の支障が生まれる。このことを知らない利用者は75.7%に上る)

 それでも滞納すると9箇月目には裁判所に支払い督促の申し立てが行われ、裁判所から督促通知が郵送される。本人が裁判所に異議申し立てをしないと督促は判決と同様の効果を持つことになり、借りた金額の全額返還を求められる。それでも返還できないと給料の差し押さえなど法的手続きが取られる。

 延滞者は1989年度で約13万人。2003年度に約22万人、2014年度では約32万人と増加の一途をたどっている。延滞者の約8割は年収300万円未満。奨学金の返済については「少し苦しい」が27.7%、「かなり苦しい」が11.3%、合わせて4割近くが返済を苦しいと感じている。当然、非正規雇用者の場合には56.0%が「苦しい」と答えているが、正規雇用者でも36.8%が「苦しい」と答えている。卒業と同時に借金返済の苦痛が多くの利用者を襲っているのである。

 20~30歳代の長期にわたって返済の負担が続くため、結婚や出産などのライフイベントにマイナスの影響が及んでしまう。2015年のアンケートでは奨学金の返済が「結婚に影響している」と答えた人は31.6%、「出産に影響している」と答えた人は21.0%、「子育てに影響している」と答えた人は23.9%に達している。すなわち現在の未婚率の増加と少子化の背景に奨学金問題が潜んでいると考えられる。

5.アルバイト問題

 2016年、千葉県の公立高校で実施されたアンケートでは2515人の回答者のうち4割近くがアルバイトをしていた。内、週4日以上働いていた生徒は44%、平日のアルバイト時間が4時間以上とした生徒は46%にも達した。家計が厳しい生徒ほど自分の経済状況を隠したい傾向があり(「お金に困っても誰にも相談しない」と答えた生徒は家計にゆとりがあると感じている生徒の場合、14%なのに対して家計が苦しいと感じている生徒は29%)、高校生の貧困は見えにくくなっている

6.子どもの貧困問題

 2015年、日本財団が発表した子どもの貧困による社会的損失は貧困を放置した場合、将来的には40兆円を超える巨額の損失を社会にもたらすという試算を発表した。「子どもの貧困対策法」が2014年に施行されたが、具体的な数値目標が設定されていないため、地方自治体の対策も努力目標に過ぎない。一応民間からの寄付によって各地で「子ども食堂」や「学習支援教室」など、民間での取組が始まっているが、財政難を理由にお役所の取組はなかなか見えてこない。

 

参考動画

【年収×運動能力】「すごい人たちはすごい学校に自然と行けるだけ」親の収入が

 子どもの体力に影響?!成田悠輔がみる格差を解消していく方法とは|#アベヒル

 《アベマで放送中》2022/02/01 ABEMAニュース【公式】 9:12

 世帯収入と体力、学力と体力とは相関関係がある。

【学校給食】無償化なぜ実現しない?抵抗勢力は?事業者が破産も?たまにはピザ

   じゃダメ?ひろゆきと考える|アベプラ

   ABEMA Prime #アベプラ【公式】  2023/09/30  16:11

 日本の教育予算の低さが現今の物価高騰により学校給食すら圧迫している。政府の責任は重い。子ども家庭庁は何のために創設されたのか?例の通り、「やってます」感を演出するための道具立てにすぎないのではその存在意義自体が疑われるだろう。

 

参考記事

大学生の生活保護、認めぬ方針継続 理由「一般世帯でもアルバイト」

 朝日新聞社 2022.12.5

 格差拡大の現実に対して目をつむる政府の対応に絶望的なものを感じてしまう。60年近く前に作られた基準が未だに通用してしまう現状をどうにかしないと「新しい資本主義」もまた「若者見殺しの老害政治」と揶揄されても仕方あるまい。

「4日間 何も食べず」高校生も 子どもの命守る無料食堂【Jの追跡】 

 2022/09/16 ANNnewsCH 10:21

 こうした実情に直面している生徒に高校が出来ることは極めて少ない。そもそも生徒はどんなに空腹だろうが、DVでどんなに辛かろうが、学校には家庭の内情を持ち込みたくないし、級友や教師には隠し通していたい。従ってこうした家庭のプライベートな問題は高校ともなるとステルス化してしまいがちで学校現場で表面化する事自体余り多くはない。

 しかもたとえ教師が生徒の異常に気付けた点があったとしても教師として出来ることはやはり少ない。このようなことは教育困難校では決して珍しくない問題であり、多忙を極めている教師が個々の事例に逐一介入できることは限られている。せいぜいケースワーカーを通じて児童相談所等の外部組織と連絡を取り合う以外に手はあるまい。基本的にはこうした生徒達にも興味深く楽しい、役立つ授業を提供することこそ、教師の本分・・・と心得るほかないような気がするが、いかがだろう。

 

・ヤングケアラー問題

参考動画

【ヤングケアラー】「家族か 自分の人生か」親の障害、精神疾患などと向き合い悩

 む子どもたち 動き出した支援の仕組みとは?【首都圏情報 ネタドリ!】

 | NHK  2024/02/02 9:54

【子供の未来を奪う】ヤングケアラー問題をわかりやすく解説

 2022/04/20 原貫太・フリーランス国際協力師 13:02

この症状か出たら自宅介護は「禁」!認知症専門医・長谷川嘉哉

 長谷川嘉哉チャンネル「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」 2022.11.8 9:10

認知症患者さんには怒ってもいいんてす!認知症専門医・長谷川嘉哉

 長谷川嘉哉チャンネル「ボケ日和 転ばぬ先の知恵」2022/02/14 6:44

【若くてもなる】認知症の兆しは実は9年前から! 認知症が疑わしい言動や性格、

 症状10項目と「単なる年のせい」の違いを専門医がくわしく解説

 緩和ケアちゃんねる・かんわいんちょー 2022/11/05 24:53

【最期】人が亡くなる前の7兆候を2000人の死を看取った医師がお伝えします 死

 ぬ前に人はどうなる? 緩和ケアちゃんねる・かんわいんちょー 2022/06/25 

 24:52

参考記事

ヤングケアラーの実態に関する調査研究 日本総研

 2022年04月11日 紀伊信之、小幡京加、青木梓、和田哲

 小中高の児童生徒で家族の介護に忙殺されているヤングケアラーの率が急速に増えている。特に高齢者の認知症が激増する中で生徒の中にも祖父母の症状に振り回されて困惑している人が出てきている。こうした内容を授業で学習しておく事が一層大切になってきている。いずれも他人事ではない内容。