その4.不安や恐れと向き合う(後編)

 ※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。

 

 以下の「特集1~3」及び「5.ACTの考え方」、「6.自殺願望の強い人への支

援」、「7.惨事対応への心構え」、「8.自死遺族の心理と対応」はカッパが使用した

プリント内容の一部を紹介しています。

 

特集1.レーズン・エクササイズの具体例

 「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法 BOOK1」伊藤絵美 医学書院 2016 より

①必要な物:干しぶどうの実を一粒、用意

②エクササイズの手順と留意点

 実を手に取って、眺め、匂いを嗅ぎ、掌の上で転がし、指でつまみ、口の中に放り込み、舌先で触れ、口の中で転がし、歯でかみ、かみ砕き、かみ砕ききったら飲み込む・・・といったように「レーズンを一粒食べる」という行動をスモールステップで少しずつ行いながら、その時の身体感覚を逐一ありのまま感じて描写していきます。同時に自動思考や気分、感情が生じたら、同じようにありのままに感じ、描写していきます。毎回20分間ほどかけてこのエクササイズを実施していきます。かなり細かく行動を分割しないと20分持ちません。しかもその都度、行動を止めて気分などを描写させるのですから、通常の感覚ではまだるっこしさを通り越してイライラしてしまうのがむしろ普通です。

 実は来談者のエクササイズへの反発や不満には大きな意味があります。多くの場合、来談者はこれまで自分自身の気分の波に対するセルフモニタリング(=メタ認知)がうまくできていないために繰り返し抑うつ状態に落ち込んでしまっていたと考えられます。

 このエクササイズの初期の段階でこうした反発や不満が生じたことをカウンセラーはむしろ評価してあげましょう。「めんどくさい」「イライラする」といった気分、感情、自動思考を来談者はしっかりと捉え、報告できるようになっていることに気付かせるのです。

 つまり、一見するとヘンテコなこのエクササイズのおかげで来談者はいつの間にか自分の心の動きに対してしっかりとしたセルフモニタリングができるようになってきたのです。「めんどくさい」というネガティブな表現であったとしても、思ったまま、感じたままをすぐさま表現できるようになることがこのエクササイズの最初の目的の一つであることを再確認しましょう。

 不満や文句を言いつつも来談者がこのエクササイズを続けていくと遅くとも10回目にさしかかる頃には様子に変化が現れてくるといいます。

 まず不満や文句がなくなってきます。スモールステップへのイライラ感がなくなり、逆にじっくりと時間を掛けてワークし、さらに多彩な感覚や感情を表現できるようになります。最後には「やっていて楽しかった」「20分があっという間だった」という感想まで出てくると当初の目的は達成され大成功。

レーズン・エクササイズに対するカッパの感想

 抑うつ状態にある人にとって「今、ここ」での自分の体験にしっかりととどまれるようになるには意外にも相当の時間と工夫が必要なのでしょう。来談者の多くは悲しい過去に深くとらわれ、将来への不安に日々苛まれているといいます。そのため「今、ここ」に生きている自分の、本来有るべき瑞々しい感覚を失いつつあるとすれば、このエクササイズの重要な意義が見えてくるはずです。

 抑うつ状態が深くなり、自殺直前の状態に至りますと特定の感覚が鈍くなるといった症状が出ることがあるとも言います。どんな料理を食べていても味気ない、どんな音楽を聴いても雑音のようにしか聞き取れない、どんな映画を見てもストーリーが頭に入らずちっとも感動できない、せっかく自然豊かな風景を見ても何ら美しさを感じない、退屈で重苦しいだけのモノトーンな世界。ベッドから起き上がること自体億劫で毎日が心身ともに鉛の如く重くドンヨリと沈み込んでくる・・・これではまさに「生き地獄」でしょう。私たちはつい「自殺するような人は心が弱いのだ」と捉えがちですが、五感が重苦しく鈍麻している状態が長く続いてしまったとしたら、果たして私たちは自殺への誘惑に皆、耐えられるでしょうか?

 うつ病患者はおそらく生来「心が弱い」のではなく、病的な症状として「心が弱くなっている」だけでしょう。原因と結果とをはき違えて「心の弱い人たち」と決めつけるようなうつ病患者や自殺既遂者への偏見は一刻も早く捨て去らなければならないと思います。誰もがうつ病になる可能性を秘めており、誰もが自殺する可能性を持っていることを支援者はとりわけ深く自覚する必要があるようです。

 レーズン・エクササイズが目指す、「今、ここで」生き生きと感じられる五感の活性化がどれほどに重要なものなのか、この箇所の記述だけでも十分、納得できると思いますが、皆さんはどう思いますか?

※なお伊藤先生のこの本は極めて具体的で分かりやすく、マインドフルネスのエッセンスを体感的に捉

 えることができる、特に女性向けのお薦め本です。ぜひ、ご一読ください。またレーズン・エクササ

 イズは学校によっては授業でも実践可能でしょう。

 

特集2.絵画の絵解きからマインドフルネスへ

 クリストフ・アンドレは「はじめてのマインドフルネス」(紀伊國屋書店 2015)の中で以下の絵に対してこう述べている。「なんと悲しげで憂いに満ちた顔なのだろう。疲れはてて、もう何もかもをあきらめてしまったかのようだ。おそらく、この老人は外でも眺めて気分を変えようとしたのだろう・・・」 

・・・以下、引用を続ける。

外の世界で起こっていることを見れば、いつまでもつらいことばかり考えずにすむかもしれないと思って・・・。だが、窓から顔を出したものの、結局、老人は外にあるものを何一つ見ていない。虚ろな目が見ているのは、自分の心だけ。心を占めるつらさや悲しみだけである・・・つらいことや悲しいことをくどくどと繰り返し考えていると、いつしか心は苦しみにからめとられてしまう。

 窮屈そうな窓は、あたかも老人の心が苦しみで動けなくなっていることを象徴しているかのようだ。顔をぴったりと囲む木の窓枠、金属とガラスで固く閉ざされた窓。さらに、窓のまわりは堅牢な石の壁で固められている。ここでは、老人を囲むあらゆるものが固まっている・・・

 絵は語りかけてくる。・・・つらいことを何度も考えていると、ほかに何も見えなくなって、心はつらいことだけで占められてしまうだろう。こんなふうに・・・。気をつけなければ、私たちは苦しみのなかに閉じこめられてしまうのだ・・・。

 では、苦しみにとらわれないために・・・いったいどうすればいいのだろうか?もしかしたら、その答えは、窓の下に置かれたガラスの小瓶に目を向けられるようになることが必要だ・・・。

 鍵は意識を広げることにある。意識が広がれば心のスペースも広がる。こり固まってしまった苦しみも、広い場所ができれば自由に動けるようになるだろう。

 そのための第一歩は・・・受け入れることだ。苦しんでいるという現実を受け入れるのである。「どうして自分だけ」、「こんなことは耐えきれない」などといった評価を交えることなく、ただ苦しみの存在を認め、「苦しみがあってもいい」と認めてやるのだ。そして、その苦しみがどんな思考をつくりだしているのかを観察してみる。

 とはいえ、・・・実際に苦しみと向き合うのはとてもつらいことである。考えただけで、不安や恐怖を感じてしまうこともあるだろう。そんな時は、やはりまず呼吸に集中するようにしてほしい。

・・・呼吸はいつでも私たちの支えになってくれるものだからだ。そして、呼吸に支えてもらいながら、抗うのでも巻き込まれるのでもなく、苦しみに向かって「そこにいてもいい」と穏やかに言ってみよう

 苦しみを受け入れることができたら、今度は心に苦しみ以外のものを招き入れてみよう。目の前の風景、周りの音、身体の感覚を意識してみよう。それから、心には苦しみ以外の思考があることも意識する。注意してみると、心の中では、苦しみだけでなくさまざまな思考が現れては消え、また現れては消え、ということを繰り返しているものだ。そこに気付けば、心はもう苦しみ一色ではなくなるだろう。

 そうやって苦しみ以外のものも入ってくることで、心のスペースは広がって苦しみは相対的に小さくなる。それはまた、心が苦しみから解放され、自由な動きを取りもどすことにもつながるだろう。

 そして、呼吸しながら再び苦しみを観察してみよう。時には、苦しみのなかを通り抜けていくイメージで、呼吸が苦しみにどんな影響を与えるのかを観察してみる。その途中で苦しみが意識の中心に戻ってくるかもしれない。だが、それは当然の事だ。苦しみに意識を占められてしまっても、またゆっくりと呼吸へと意識を戻すようにすればよい。根気よく続けることが大切なのである。 

 こういったことを心がけていれば、たとえ不安を感じても、その不安が心のなかで「絶対にそうだ」という現実に変化しないようにできるだろう。またネガティブな感情にばかりとらわれて、始終ピリピリしていることもなくなるだろう。中国のことわざもこう言っている。

 「悲しみという鳥が頭上を飛ぶのは仕方ない。だが、頭に巣を作らせるままにしてはいけない」

 苦しみというのは、執着すればするほど、永遠に続くのだと信じてしまいやすいものだ。だが、苦しみは永遠に続くものではない。そもそも永遠に続くものなど何もないのだから・・・。喜びも悲しみも、楽しいことも苦しいことも、すべては通り過ぎていくだけなのだ。マインドフルネスを実践していると、その意味が実感できるだろう。そして、苦しみや喜びと、これまでとは違った関係を築くことができるだろう。ゼロか百かではなく、移りゆくものとしてとらえることができるからだ。

 もちろん、それは「どうせ一時的なものなのだから」と投げやりな態度で関わるということではない。さまざまな思考や感情が心を通りすぎるさまを観察することで、どんなことであれ、できるだけ執着せずに受け入れることができるということだ。その時、人生はより味わい深くなり、私たちはよりよく生きることができるだろう…

 

 なかなかの名文だと思いますが、いかがでしょう。

 

特集3.マインドフルネスの簡単エクササイズの紹介

 すべて一週間を単位として行う。どれか一つのみを実践(「今、ここに意識を集中する練習」ジャン・チョーズン・ペイズ 日本実業出版社より)。いずれも今すぐに簡単にできるものばかりなので生徒に幾つか実践させてみるのも良いだろう。

「利き手を使わない」

 歯を磨く、髪をとかす、食事をするなどを利き手以外で試みる。できれば字を書くことにもチャレンジしてみるとよいが、慣れるまでは支障が大きいので全部の動作を試みる必要はない。利き手に絆創膏を貼っておくとこのルールを思い出しやすい。不器用な方の手で何かをやってみることで慣れっこになっている動作に対して意識が集中してくる。つまりこのレッスンを通じて今現在への意識を高めるだけでなく、禅で強調される「初心」に戻れる。日常的な動作に対して当たり前に思っていたことへのありがたさにあらためて気づくのである。たとえ日常的な行為であっても、それがスムーズに「できる」ようになるには何が必要だったか?動きがたどたどしかった幼児期に戻って確認してみよう。

 今、生まれたばかりのような、初々しいまなざしで色鮮やかな世界を見られるようになるために、もう一度、世界がすばらしく新鮮であることを感じるために、このレッスンを試みよう。

 すっかり慣れてしまって無意識のうちに自動的に動いてしまい、ただこなすだけとなっている日常的営為を敢えて不器用に試みる。そのことで何時の間にかロボットと化し、今を実感できなくなっていた自分に気づくはずである。

「木々に目をとめる」

 木の姿を丁寧に観察してみるとその複雑な形や様々な色合いに気づく。緑豊かな自然の景観を数分間眺めただけで、あるいは木々の写真を見ただけで血圧が下がり、筋肉の緊張がほぐれ、不安や怒りが静まり、苦痛が和らぎ、ストレスが減り、手術後の回復が早まることが確認されている。心が「自分が、自分が」という悩みのために固く閉ざされてしまうと、人は孤独感を覚える。心を開いて自分につながる多くの命に気づくことができれば寂しさは消えていく。

 忘れないで。あなたは木々をはじめとする無数の命によって支えられている。決して独りぼっちではない。生きていることの素晴らしさに目を見開いて外の世界をじっくりと眺めてみよう。心の騒音でかき消されていた鳥のさえずり、風の音が聞こえ始め、世界は生まれ変わったかのように生き生きと動き出すに違いない。その瞬間、あなたもその美しい世界の一員になれる。

「手を休める」

 一日に数回、両手を膝の上においてリラックスさせ、数秒間は静かな状態にして手の感覚に意識を集中させる。落ち着きのない人は手をじっとさせておくことが難しい。しかし両手をしっかりと休ませると、体全体も心もリラックスしてくる。普段の手は忙しい。せわしなく動いている。何かをつかむため、何かを触るため、何かを指さすため…手はあなた自身である。手の動きを止めて一度、動作の目的から手を解放してみよう。自分の手の重さ、手のひらの温かさ、膝の上の触感に注意を向けてみよう。

「バカ歩きをしてみる」

 気持ちが落ち込んだり、いらだったりしているとき、後ろ向きに歩く。あるいはスキップしたり、片足で跳ねてみたりする。この練習によって「自分を軽く見る」ことを学ぶ。自分の軽さ、愚かさに気づくと多くの可能性が一斉に花開く。人のわずかな違いに目くじらを立てて見下している傲慢な自分の心を笑ってみよう。馬鹿なことをしている自分を受け入れよう。私もあなたも同じ生き物に過ぎないことに深く感謝しよう。

「高いところを見上げる」

 何度か意識して高いところを見上げる。部屋の天井、高いビル、木の梢、丘や山の頂、空などを見上げ、2、3分間じっくり眺める。視野を広げることで狭い世界に閉じこめられていた心を解放して、ストレッチや屈伸運動をさせてやる。

 「自分が、自分が」という息が詰まるような小さな世界の扉が開き、世界の広がりを感じる。雑念の牢獄に心を閉じこめてカチカチに固めてしまわないように、伸びやかな外界とつながろう。思い切り深呼吸してみよう。

 

5.ACTの考え方

 アクセプタンス(受容)とコミットメント(関与)を柱とする治療法。認知行動療法の第三世代に属する(マインドフルネスと近い)。負の感情とは戦わない、否定しない。すべて受け入れる。→自殺自体も受け入れる

 従って「自殺は良くないこと」と教え諭すのは禁物。価値あることに積極的に関わる→負の循環から抜け出せる。

 ここがマインドフルネスと少し異なる観点。深いうつ状態の人は他人を愛する力が足りない。社会への関心が薄い。このため孤立・引きこもり→自己嫌悪・自己否定→うつ状態の悪化・・・希死念慮の増大、という悪循環に陥りがち

 →自己受容が先決、その後、社会的価値に関与するよう仕向ける。

※参考文献:

「うつのためのマインドフルネス&アクセプタンス・ワークブック」

  K.D.ストローサル、P.J.ロビンソン 星和書店

「セラピストが10代のあなたにすすめるACTワークブック」

  ジョセフ・V・チャロッキ他 星和書店 2016

 

マインドフルネスとACTとの関係

・両者に共通する治療の大前提:「Creative Hopelessness」すなわち苦を取り除

 こうとするシステムを手放すことから始まる。「思考や感情をコントロールできれ

 ば問題解決できる」という発想から抜け出すことが前提。負の感情や思考、記憶を

 統御したり、除去しようとしてはならない。「観察」し「アクセプト」する。

・一度うつ病に罹患した人は「抑うつサイクル」(抑うつ気分→ネガティブな記憶、

 思考、感情→自己嫌悪)にはまりやすく再発しやすい。またうつ病者はネガティブ

 な思考や感情、記憶を「反すう」することで「抑うつサイクル」を持続させてしま

 いがち。したがって「抑うつサイクル」が動き出す初期の段階で今この瞬間の思考

 や感情の動きに敏感になるよう仕向ける両者の治療法は「抑うつサイクル」の始ま

 りに気づかせることにつながり(メタ認知的気付き)、再発の芽を早めに摘み取る

 点で再発防止に効果的。

・ACTは価値への関与のタイミングを誤ると治療の大前提が崩れてしまい、フュー

 ジョンをもたらす危険性がある。しかしタイミングさえ誤らなければ引きこもりが

 ちなうつ病罹患者の社会復帰と再発防止に大きな効果が期待できるのでは。

 参考文献:「ACTハンドブック」武藤崇編 星和書店

 

6.自殺願望の強い人への支援

①自傷行為(リストカット等)をするのは自分に注目してもらいたいからであって決して本気で自殺しようとは思っていない・・・というのは大変な誤解。自傷行為の経験者が自殺する可能性は自傷行為のない人と比べて数百倍も高く、周囲の人が自傷行為を軽視して放置したり、自傷行為を繰り返す人に対して苛立ちを感じてしまう状況は極めて危険。

自殺念慮の有無を周囲が気づけることは滅多に無い。自殺直前、いつになく悟りきった穏やかな表情を見せるケースすらあり、精神科医でも気づけない場合がよくある。少しでも気になることがあったら支援者は「今、死にたいと思っていますか?」と遠慮せずに直接、本人に確認したほうが良い。

③自殺は悪いことだ・・・と説教することはマイナス。最初に希死念慮があることを告白してくれた事へ感謝。自殺という行為に対してはあくまで中立の立場を保つ。死にたいほどに辛くなっている本人の気持ちにひたすら耳を傾ける。最後に辛い気持ちを抱えてきたのにこれまで自殺に至らなかった原因について質問し、一緒に考えてみる。最後まで寄り添っていくという姿勢を伝えたい。

自殺を本気で考え出した人は周囲の人に陰性感情を抱かせる言動をとることがある。つまり「助かりたくない気持ち」が強まってくることで支援者の助言や指示に従わない挑戦的な態度をとるケースも。本人は無力感が深まっている一方で他人から指図されたり、支配されることに強く反発し、「手に負えない」という感覚を周囲に与える事も。

 →本人だけでなく家族や支援者への支援も大切。支援者が一人だけで抱え込むのは極めて危険、最悪の事態を招きかねない。複数とチームを組むつもりで臨むべき。

論理的な説得、安易なアドバイスや励ましは逆効果。自責の念や無力感は否定せずに受け止める。←思考力の低下・裏読み

⑥傾聴やラポールの形成だけでは不十分→まず「味方」として寄り添う

⑦好不調の波、表面飾り、はしゃぎ系ストレス発散へのしがみつき、

 「荷下ろしうつ」→症状の進展が読みにくいので要注意

⑧出来事の細部を聞くのは辛いことを思い出させるのではないかと思いがちだが、実際はそのことを誰にも話せなく、一人で思い返して苦しんでいることが多い。尋問調は禁物だが時系列に沿って詳細に語ってもらう→体験に寄り添う、認知の歪みに気づく

⑨自殺の防止を最優先するならば、無力感の低減を第一目標。「休養」「受診」「環

境調整」を軸に対処

 ※参考文献「総論:死にたいの理解と対応」松本俊彦 こころの科学 No.186

      「自傷・自殺のことがわかる本」監修松本俊彦 講談社

      「クライシス・カウンセリング」下園壮太監修 金剛出版

 

7.惨事対応への心構え

 惨事後のクライアントの辛さは急性ストレス障害やPTSDの中核症状である回避(感覚の麻痺、記憶の欠如、飲酒・・・)、侵入(フラッシュバック、悪夢・・・)、過覚醒(不眠、イライラ・・・)といった表面に現れるものだけではなく、こうした症状に驚き、自分が壊れてしまったと自信を失い、不安が強くなること。また悲惨な出来事の原因に自分も関わっているのかもしれないという自責の念の苦しさ。自分が信じてきた世界のルールが崩れてしまって、将来が読めないと感じる無力感。自分だけが弱く壊れてしまった・・・誰にも理解されず、守ってもらえない(孤立感)・・・だったら死んで終わりにしたいという思考が生じてしまうこと・・・

 ※「クライシス・カウンセリング」下園壮太監修 金剛出版より

 

8.自死遺族の心理と対応

 「自殺で遺された人たちのサポートガイド」(アン・スモーリン、ジョン・ガイナン 明石書店)によると自死遺族は・・・

・「死別の悲しみと抑うつのほかに、罪悪感ゆえの自責や、羞恥心ゆえの消極性、何

 かを失ったことに対するやり場のない怒りを感じる」    →すべて自然な反応

・「互いに矛盾したつらい感情が奏でる不協和音の底には、なぜ?なぜ?なぜ?とい

 う終わりなき嘆きが響いています」  →原因追及は不毛

・衝撃的な体験を忘れたいにもかかわらず、安らかな眠りを妨げる悪夢を見、その出

 来事を再体験してしまうでしょう。・・・日中は集中して何かを考えようとしても、勝

 手に侵入してくる記憶に邪魔されます。  →急性ストレス障害

・・・普段の作業をこなす能力は損なわれます。また、ほかのことに情緒的反応を示す能力も弱まります。他者との間に距離を感じるでしょうし、他者と親しく関わることが以前よりずっと難しくなり、ひとりきりで嘆き悲しむことが非常に多いものです。 

  →「あなたは一人ではない」

 「自殺で遺された人たちのサポートガイド」の§3及び§13は特に示唆に富む箇所なので以下、要約しておきます。

第3章「罪悪感」

 「自殺を防ぐために、自分は何かできたはずだ」・・・こんな思いほど苦しいものはない。自殺という行為を自分なりに納得するため、故人の心情や動機を理解したいという、当然にして切なる願いと強くつながる問いであるため、この自問自答は際限なく続いてしまう。

 しかし、納得できる答えはいずれにせよ永遠に見つからないだろう。もちろんサバイバー(=自死者の親しかった関係者)側に自殺に関わる責任が多少あるケースもあるに違いない。しかし自殺の原因は複数有るはずであり、そのうちのどれとどれが決め手になったのかは誰一人として知るよしもない。サバイバーのちょっとした心ない言動が自殺の直前にあったとしても、それが自殺の決め手になったとは限らない。

 多くの場合、自殺の決め手は長期にわたるうつ病と薬物であり、これらは専門家の治療を受けていたとしても完治し難いものであり、そもそも素人が手に負えるものではない。たとえ故人の不幸に多少とでも関わっていたとしても気に病むことはない。

 誰もが完璧ではありえないという、当然の自己認識に依拠すべきである。サバイバー自身が自分を欠点のある普通の人間として自覚し、自分を赦せるようにならなければ回復への途は閉ざされたままになる。

第13章「回復―前進すること」

 「時がすべての傷を癒やす」という格言は必ずしもサバイバーには当てはまらない。回復には時間が必要だが、時間だけでは不十分。また故人の自殺の理由を追求しても不毛に終わるだろう。専門家ですら決定的な原因は説明できないからである。いつの日にか、犯人捜しや原因探しを打ち切り、罪悪感や怒りを手放す必要がある。

 悲しみ続けることにも限度がある。悲しむことと愛することとは違う。自殺の直後に悲しみに暮れるのは当然のことであるが、何年もの間、悲しみ続けるのは不毛である。故人を深く愛しているが故に、自分が苦しみ、悲しむのを止めることが大切な人への裏切りに思える。しかしそれは間違っている。

 あなたが愛していたのは故人との悲しい場面だけではないはずである。楽しかった場面もあったはずであり、それらを思い出すときは喜ばしい気持ちが湧いてくるだろう。だからといってそれを不謹慎だ、愛情が足りない、と自己批判するのは不毛である。感情の落ち込みの深さだけが故人への愛情を証明するわけでは無い。こうした一方的な思い込みはサバイバー特有の症状に過ぎない。

 「自分自身のことや、自分に起きた出来事のことばかり考えるのをやめ、ほかの人のために何ができるかを考えられた時、自分が真に回復していることがわかるでしょう」「自殺は大切な人自身の選択だった-そう認められる時が、ほかのサバイバー同様、あなたにも訪れることを私たちは願っています」「本人がこれを最善の解決策だと確信していたということは認められるはずです」「苦しむ心は、死が与えてくれるかもしれない安らぎを欲する時があるのです」

 もちろん自殺を肯定することは出来ないが、かといって否定も出来ない。不完全な知識しか持たない我々はその判断を留保していくしかない。回復過程の最後の曲面では故人の自殺という認めがたい過酷な現実をサバイバーはあくまでも価値中立的に厳粛に受け入れていくより他ないのである。

※動画「受け入れるという生き方」の講演内容と重なる部分があると思います。

 

補足資料

・自死遺族への偏見(→「自死は、向き合える」杉山花 岩波ブックレット)

 イギリスやアメリカのようなキリスト教社会では自殺を神の教えに背く犯罪的行為として厳しく罰する風習が続いていた。イギリスでは1823年まで法律で自殺者の遺体は冒涜され、墓地ではなく、十字路に埋められなければならなかった。さらに1870年までは自殺者の遺産はすべて国王が没収することになっていた。アメリカでも20世紀まで自殺は違法行為とされていた。

 自殺は個人に属する問題、身勝手な死として、今なお認識されている。そうした中で、4人に1人の遺族が「死にたい」と答えるほどに、生活に憤りや生き辛さを抱えなければならないのであろう。

 もうひとつ、注目すべきは自殺のサインについてである。「故人が自殺のサインを出していた」と思う人は 46.2%に対し、当時から「それがサインだ」と思った人はその内の20%にとどまったのは、「自分のせいだと思う(直後)」と 47.5%の人が回答した事とリンクしているのではないだろうか。過去を振り返った時に、故人からのサインとして様々なことが思い返されるが故に自責の念は強まってしまうこともある。その意味で、自殺のサインは遺族を苦しめるひとつの材料でもあるのかもしれない。

 加えて、自殺予防とは自殺を防ぐと同時に遺族を苦しめることになる可能性もあることに触れておきたい。自殺予防が注目されるほどに、助けられなかった自分を再認識し、行き場のない思いが巡ることもある。その意味で、自殺予防と遺族支援は一体となって進むべき課題であることを忘れないようにしなければならない。

 

・コロナ禍での若者と女性の自殺率の増加

Q.最近も若者、特に女性の自殺が多くなっていると言われますが、その原因は何だと

 思いますか?

 2020年にコロナ禍が世界中で拡大する中、飲食業界や旅行・観光業界、芸能界等は政府から十分な補償も無いまま自粛を迫られ、苦境に陥った企業、自営業者が数多く出てしまった。そうした中でコロナによって有名人が亡くなり、さらに著名な俳優達の自殺をきっかけに、自殺者が急増し始めた。2020年は前半まではむしろ例年よりも自殺者が非常に少ない状況だったが、6月の若手男優の自殺を境にして反転し、7月以降、自殺者が急増してしまったのである。

 これはもちろんコロナ禍の長期化によるストレスの蓄積と各種自粛による不況との相乗効果が主因と考えられるが、マスコミ報道のあり方も厳しく問われるべき側面があった。WHOはこれまでもマスコミによる著名人の自殺に対する過剰な報道が自殺の連鎖反応を生み出す「ウエルテル効果」の可能性を踏まえて報道への規制を繰り返し訴えてきた。まず2000年に学校関係者及びマスコミに対して著名人の自殺に関しての慎重な報道と過度な報道を控えるよう、要請。2008年にはその改訂版を公表し、自殺の手段や場所の詳細な報道をしないよう要請している。さらに2017年にも最新版のガイドラインを発表している。要するにWHOは自殺の手段や場所等の詳細で具体的な報道は厳しく規制する一方で、自殺を考える人達への相談機関の紹介を必ず報道する等の国際的ガイドラインを幾度も示していた。

 実際、日本では1986年4月、当時、人気絶頂だった岡田有希子さんの飛び降り自殺を凄惨な写真付でマスコミ各社が報道してしまった。その後、若者の後追い自殺が相次いでしまう(50人ほどと言われる)という苦い経験を既にしている。ところがその後も日本の著名人の自殺報道はWHOの規制に沿ったものとは言えなかった。2020年6月の若手男優の自殺に際しても場所や手段が分かるような、過剰な報道ぶりが見られた。そしてやはり8月、9月と自殺者は特に若者、女性を中心に急増してしまった。9月27日、ようやく厚生労働省は重い腰を上げてWHOのガイドラインを報道関係に示してその遵守を要請。ちょうどその27日に有名女優の自殺が発生し、ようやくその後の自殺報道はWHOの指針に沿ったものが多くなったが、それでも一部にガイドラインに沿わない報道が見られた。結局コロナ禍が長引いたこともあって10月以降も自殺者は例年よりも多い傾向が続いている。

 2021年に入っても若者、特に女性の自殺者が増え続けている中、2月12日に菅義偉首相は坂本哲志一億総活躍担当大臣をコロナ禍で深刻化する孤独・孤立問題を担当するよう指示。世界では二番目、イギリスに次いで孤独・孤立担当大臣を任命した日本政府だが、この大臣自身がこれまで失言、失態続きで若者問題や女性問題、自殺問題、引きこもり問題には全くの素人。むしろ若者や女性の心理にどこまで理解があるのか極めて疑わしい70歳という高齢の男性、という最悪の人選であった。この、ただ「やってます」感を演出しただけの見せかけ政策は当然のことながら自殺の抑止にはほとんど効果を見せること無く、現在に至っている。

 これまでの自殺問題や引きこもり問題、若者の貧困問題に対しての見せかけだけの無策ぶりに見られた政府の意欲・関心・能力の低さもまた日本が若者、女性の自殺増加を止められない大きな一因と言えるだろう。結局は自殺問題やコロナ禍への救済政策よりもオリンピック開催を優先した安倍内閣、管内閣とオリンピック報道に狂奔する一方でWHOのガイドラインを守ろうとしない金儲け主義のマスコミの責任は極めて大きいと言うほかあるまい。

参考動画

【自殺防止】電話相談で“死にたい”の声に向き合う若者たち 年間2万人以上が自

   殺【大阪】 ABCテレビニュース  2022/08/30  15:18

【自殺防止】「死にたい」の声に向き合う若者たち 悩みを抱えながら相談員の道へ 

   元相談員の東留伽アナが密着【newsおかえり特集】

   ABCテレビニュース  2023/08/30  16:38

 二つのABCテレビニュースの動画は自殺相談に取り組もうとする若者を通じてカ

 ウンセリングの基本をコンパクトに学べる、ズバリ、高校生向けとしてイチオシの

 動画。二つとも視聴すればとりあえず知識としては定着するだろう。

【自殺未遂】「生きていて良かった」当事者女性の思いは?パパゲーノ効果とは?

   大空幸星と考える|アベプラ

   ABEMA Prime #アベプラ【公式】 2023/03/08  34:52

 自殺未遂者へのアプローチがこれまで不十分だった点に気付く。パパゲーノ効果を期待する上でも未遂者の言葉に耳を傾けたい。同時に自殺未遂者が年間に50万人以上も存在する日本社会の闇から目を逸らしてはなるまい。

【生きるという選択】自死遺族と未遂女性の苦悩とつなぐ”命”

   大阪NEWS【テレビ大阪】 2023/09/16  10:21

【ワイドショー】娘を亡くした両親の悲しみコメントは必要?テレビ報道は人を傷

 つける?過度な報道の境界線を番組プロデューサーと考える|#アベプラ《アベマ

 で放送中》2021/12/25 ABEMAニュース【公式】 24:28

 まず見直すべきはマスコミによる有名人の自殺報道のあり方。

【自殺相談】大空幸星「死んでもいいけど、死んじゃダメ」

 ABEMA 変わる報道番組 #アベプラ【公式】 2022.10.18 15:20

【子どもの自殺】いじめよりも多い原因は?勉強や家族の悩み?「学校にいかなくて

   もいい」は正解?大空幸星と考える|アベプラ

   ABEMA Prime #アベプラ【公式】  2023/08/22  21:26

相談相手は「お母さん」という若者が増える真因 友達と安定した関係を築けないZ世

 代の憂鬱 東洋経済オンライン井艸 恵美 の意見 2022.12.6

 「相手との関係を失う怖さから空気を読むことを最優先する一方で、何でも話せる

 関係性を求める傾向」がZ世代に見られるという指摘は非常に重要。

参考記事

「大多数の精神科医は投薬の専門家に過ぎず、精神療法は独学」...和田秀樹氏も驚

   愕した「日本の心療内科」の「ヤバすぎる実態」

   現代ビジネス 週刊現代 によるストーリー 2024.4.16

 若い人へのSSRIの投薬には自殺への危険性が伴う、という指摘に注目。精神療

 法に通じていない医者ほど投薬治療一辺倒になりやすく、それが治療や入院期間の

 長期化につながっているようだ。さらに日本の精神医療行政の杜撰さは古くから指

 摘されてきたが、いまだに十分な改善をみていないとのこと。

  能力が低い医者ほど結果的に患者を長期間抱えることが出来るために患者を見放

 さずに「親切で丁寧」な好印象を与えつつ、診療報酬も安定的に確保できる傾向が

 見られるという指摘にも注目したい。悪徳病院の存在を許し続ける日本社会の背景

 には精神科の診療報酬システムの欠陥があり、精神病患者への社会的偏見がほとん

 ど払しょくされないままである点も見逃せまい。

  多くの生徒たちにはあまり知識のない分野ではあるが、日本の自殺率の高さを考

 えるとこの問題を積極的に取り上げていく必要は大いにあるだろう。

精神科看護師「違法な身体拘束を強要されてうつ病」、東京地裁が労災認定…「発

 症は業務が原因」 読売新聞 によるストーリー 2024.4.15

 介護施設、障碍者施設でも横行している虐待事件の背景には何があるだろう。ぜひ

 生徒たちに考えさせたい。

PTSD発症メカニズムを解明、治療薬に道筋…東大などチームが関係遺伝子を特

   定 読売新聞 によるストーリー 2024.3.3

   心の問題を脳のメカニズムの解明により解決していこうとする現代の精神療法の方

 向性がよく分かる記事だろう。

「うつ病」はどのように遺伝するのか…「日本の研究者」が世界で初めて発見した

   「その仕組み」 現代ビジネス 近藤 一博 によるストーリー 2024.3.30

 うつ病がウィルスによって母子感染するメカニズムの一部が判明。うつ病治療においても遺伝子レベルの治療法が研究されているとのこと。

うつ病患者の脳では何が起こっているのか…最新の研究でついにわかった「危険因

   子」現代ビジネス 近藤 一博 によるストーリー 2024.3.4

   セロトニン仮説が支持されなくなってきた一方で炎症性サイトカインという物質が

 うつ病の原因として疑われ始めている。今後の研究動向に注目したい。

「うつ病になりやすい性格の人」が、じつは会社にとって重要な存在であるといえ

   るワケ 現代ビジネス 近藤 一博 によるストーリー 2024.3.10

 「うつ」を常に否定的に捉え、撲滅の対象とするような発想は危険であり、かえっ

   てうつ病患者やうつ傾向の人々の自己肯定感を下げることにつながるだろう。「う

   つの現実主義」が組織の崩壊を予防するプラスの効用を持つことはこれまでも指摘

 されてきたことである。逆に下手なプラス思考はかえって組織に大きな危険をもた

 らすこともあるのだ。この観点は「うつ」を授業で扱う際には「うつ」への偏見を

 解消する上でも必ず紹介すべきものだろう。

朝日新聞デジタル:児童生徒の自殺、最多の479人 昨年、休校明けに突出 

 伊藤和行 2021年2月15日 18時39分

【認知行動療法の世界的権威が明かす】一瞬にしてあなたをネガティブ思考から解

 放する11ヵ条  DIAMONDOnline 星 友啓 2022/11/06  

老化にも影響!「頭の中のひとりごと」危険な正体 「考えすぎる人」は人生を台無しに

 してしまう 東洋経済オンライン イーサン・クロス 2022.12.31

 

参考動画

自死遺族に寄り添うことについて語ります。

   精神科医・肉q  2022/09/02  9:03

   自死遺族の心理と対応について簡潔にまとめられており、参考になる。

【自死】防ぎにくい意外な理由についてお話しします。

   精神科医・肉q  2023/07/28  10:13

   自殺してしまう人に対する二つの誤解については知っておいた方が良い。

【自殺自死】「生きたい思いが綴られていた」友人を亡くした女性が語る葛藤と後

 悔とは?家族と比べて明かしにくい友人の死 命を繋ぐため考える|#アベプラ《ア

 ベマで放送中》 2021/09/01 ABEMAニュース【公式】 19:43

 視聴時間は多少長いが、是非、自死者遺族の問題にも注目させたい。

「うつ」から回復した人の特徴 

 精神科医がこころの病気を解説するCh 2022/01/06  7:54

 ウツが寛解したときどういう状況になるのか、どういう自分になれるのか、ゴールを知っておくと治りやすい、というのは重要な知見。

【廊下が波打って襲ってくる】統合失調症の症状、社会復帰、すべて語ってもらい

 ました。【松本ハウス たかまつななチャンネル 2022.5.30 36:11

 統合失調症の概要を知る人はかなり少ないのではないか。100人に一人の割合で発症する脳の病気であり、決してレアな病気ではない。自殺に至るケースもあり、通院と投薬治療を要する病である。ただし近年、新薬の登場により寛解に至るケースが増えてきている。ところが犯罪や自殺、長期の引きこもりに発展してしまうケースばかりが報道されるせいか、残念ながらこの病気に対しては多くの健常者から不気味がられる傾向が続いてしまっているように思える。統合失調症が当人の心構えの問題ではない事だけでもせめて周知されるべきだろう。相方の対応が非常に素晴らしい。統合失調症の人とどう付き合っていけば良いのか、大いに参考となる動画である。思春期に発症するケースがよくあるので教師ならば教科の枠に囚われず、ぜひ多くの方に視

聴していただきたい。

知る痛み、について解説。治療を受ける抵抗感について 

 精神科医がこころの病気を解説するCh  2022/02/12  17:55

「知る痛み」について知ることの重要さと治療抵抗性の強い人の心理が理解できる。

心傷ついた人と接する上で、支援者側がうつにならないために心がけること。#早

 稲田メンタルクリニック #精神科 医 #益田裕介2022/04/10 精神科医がここ

 ろの病気を解説するCh 15:54

 次の動画も含めて支援に携わる教師必見。

自分だけの空間をつくる。相手と適切な距離を取る方法 

 精神科医がこころの病気を解説するCh 2022/04/15  13:41

双極性障害はいつまで薬を飲まないといけないのか? 

 精神科医がこころの病気を解説するCh  2022/05/04  7:52

 10代、20代で発症することの多い双極性障害は自殺率が10%を超えるほどに高く、再発率も1年後には90%を超える高さであり、場合によっては一生、薬を飲み続けなければならないほどに厄介なものである等はぜひ知っておく必要があるだろう。

うつ病と間違って診断されることもあり、長期にわたって治療を続けていても改善の兆しすら見えないようなケースでは双極性障害を疑った方が良いかもしれない。双極性障害であっても「躁状態」が目立たず、「うつ状態」ばかりが目に付くタイプがあり、誤診を招きやすいという。

【ハーバード流メンタル回復術】ポジティブ思考で自己肯定力を高めろ!【キーワ

 ードはトトロ!?】 2022.10.4 日経テレ東大学 53:15

 コロナ禍における不安との向き合い方を脳科学から解き明かす内田氏の極めて明快な説明は感情と身体や精神との関係性を理解する上で大変役立つ。特に特定の人々が日常的にさらされている「マイクロアグレッション」という言葉の意味するところに注目したい。一定の固定観念から生み出されたフェミニストや同性愛者などへのSNS上での激しい誹謗中傷の背景に潜む中傷される側の心に蓄積されている不合理への怒りにも理解は必要。「ドラえもん」のしずかちゃんに見られる固定的な女性像への違和感に気付けるのかどうかが問われるだろう。また子供の自己肯定感を高めるヒントが「となりのトトロ」に登場するさつきやメイの父親の言動に沢山みられる、という指摘にも納得。「親ガチャ」の弊害を低減させるのが公教育の大きな役割なのに、学校がそこでも機能不全になっているという指摘は痛烈。「未来と自分は変えられる」信念を保持しつつ、過去へのラディカルアクセプタンス」(変えられない過去を抑圧せずありのままに受容することではじめて保てる、自分と未来に対して前向きで建設的な心構え)を持つことが今の学校教育には強く求められているのだろう。

田中優子さん「言葉にできぬ思い伝えるため、本を読む」、宮台真司さん「安らげ

 るホームベースが完全消滅した社会のキツさ」(司会 尾形×望月) 

 The News 7/10  スピンオフ Arc Times   2023/07/21 12:15

 交換可能な「イット」からかけがえのない「ユー」へ、無条件に受け入れてくれる「ホームベース」の再構築へ、日本社会は向かうことが出来るのか。

参考文献

・「コロナ下における自殺~現状と対策の方法~」上田路子 臨床心理学125「自殺

 学入門~知っておきたい自殺対策の現状と課題~」金剛出版 2021

 2020年の傾向として女性の自殺者数が前年よりも935人(15.4%)増えたことと、若者、特に小中高生の自殺が499人となり、1980年に統計を取り始めてから過去最高を記録。とりわけ女子高生は前年の80人から140人と激増し、その時期は8月以降に集中。若い女性の自殺が増えた原因としてコロナ禍での自粛で打撃を受けた観光業や飲食業等の従事者に女性が多く、かつ非正規雇用が多いために経済的な打撃を強く受けてしまったことが挙げられる。もう一つは著名人の自殺報道であり、著名人の自殺報道が繰り返された7~8月と10月に昨年度の同じ月よりも大幅に自殺者が増えている。

 ※参考記事

  高校生とみられる女性2人が死亡、飛び降りか 東京・江東区

    産経新聞 2024.2.6

  ○「制服姿の少女2人が…」 9階から転落? 1人は死亡 大阪・吹田

    朝日新聞社 によるストーリー 2024.2.13

  ○10代制服女性2人飛び降りか 大阪・吹田、1人死亡

    共同通信 によるストーリー 2024.2.13

  高校生男女飛び降り死傷 岡山県立高の校舎から

   共同通信 によるストーリー 2024.6.26

   上の四つの報道記事のどこがダメなのか、なぜダメなのかを生徒たちに問いたい。東京と大阪の

   出来事とはつながりがあるだろうか?報道する側は受験シーズンで受験生が心理的に不安定にな

   りがちなこの時期に、このような報道がどのような心理的影響を受験生たちに及ぼすのか、慎重

   に考えてから報道するべきだろう。なぜ日本のマスコミはWHOの自殺報道に関する指針をまっ

   たく守ろうとしないのかも、あわせて生徒たちに考えさせたい。

 

主な参考文献:太字は特にお薦めの本

・「孤独な人が認知行動療法で素敵なパートナーを見つける方法」

 D.バーンズ 星和書店・・・「目からうろこが落ちる」指摘の数々。

・「いやな気分よ さようなら コンパクト版」D.バーンズ 星和書店

・「フィーリングGood ハンドブック」D.バーンズ 星和書店

・「はじめての認知療法」大野裕 講談社現代新書

・「こころが晴れるノート」大野裕 創元社

・「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 認知行動療法入門」

 中島美鈴 光文社新書

・「認知行動療法」下山晴彦・神村栄一 NHK出版

・「マインドフルネスを始めたいあなたへ」ジョン・カバットジン 星和書店

・「はじめてのマインドフルネス」クリストフ・アンドレ 紀伊國屋書店

・「今、ここに意識を集中する練習」

 ジャン・チョーズン・ペイズ 日本実業出版社

・「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法BOOK1」

  伊藤絵美 医学書院 

・「マインドフルネスであなたらしく」S.オルシロ、L.ローマー 星和書店

・「マインドフルネス実践講座~マインドフルネス段階的トラウマセラピー~」

 大谷彰 金剛出版

・「ACTハンドブック」武藤崇編 星和書店

・「セラピストが10代のあなたにすすめるACTワークブック」

 ジョセフ・V・チャロッキ他 星和書店 

・「特別企画:<死にたい>に現場で向き合う」こころの科学 No.186 

 日本評論社

・「自傷・自殺のことがわかる本」監修松本俊彦 講談社

・「家族・支援者のためのうつ・自殺予防マニュアル」下園壮太 河出書房新社

・「クライシス・カウンセリング」下園壮太監修 金剛出版 

・「自殺で遺された人たちのサポートガイド」

 アン・スモーリン、ジョン・ガイナン 明石書店 

・「自死は、向き合える」杉山春 岩波ブックレット

・「自殺をケアするということ」木原活信・引土絵未編著 ミネルヴァ書房

・「セラピストのための自殺予防ガイド」高橋祥友編著 金剛出版

・「思春期・青年期のうつ病治療と自殺予防」

 D.A.ブレント、K.D.ポリング、T.R.ゴールドステイン 医学書院

・「特集:自殺学入門~知っておきたい自殺対策の現状と課題~」

 臨床心理学 125号 金剛出版 2021

・「特別企画:PTSD ストレスとこころ」こころの科学 NO129 日本評論社

・「マインドフルネス・レクチャー 禅と臨床科学を通して考える」

 貝谷久宣・熊野宏昭 玄侑宗久 金剛出版

・「荘子と遊ぶ~禅的思考の源流へ~」玄侑宗久 筑摩書房

・「<助けて>が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか」

 松本俊彦 日本評論社

・「遺族外来―大切な人を失っても」大西秀樹 河出書房新社

・「薬づけからの脱却 治す!うつ病、最新治療」リーダーズノート編集部 

 リーダーズノート出版

・「セーラー服の歌人 鳥居  拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語」

 岩岡千景 アスキー・メディアワークス 

・「どうしても頑張れない人たち」宮口幸治 新潮新書 

「EMDR革命:脳を刺激しトラウマを癒す奇跡の心理療法~生きづらさや心身の

 苦悩からの解放~」タル・クロイトル(市井雅哉訳) 星和書店

 トラウマ治療、PTSD治療を巡る考え方は立場によってかなり異なるという印象がある。過去の悲惨な記憶と必ずしも向き合わなくとも良い、という考え方はYouTubeで活躍する精神科医(樺沢紫苑等)からもしばしば聞こえてくる。一方で、EMDRの立場は記憶を重視し、眼球運動による脱感作などを用いて短期間でおぞましい記憶とそれがもたらす副作用から患者を解放できると説く。日本では比較的、新しい治療法であるが、今後の動きに注目してみたい。

・「心の病の脳科学~なぜ生じるのか、どうすれば治るのか~」

 林朗子・加藤忠史編 講談社ブルーバックス 2023

 遺伝子や神経回路のレベルからも治療のアプローチが試みようとする最前線の研究の動向が記されている。ただし精神医療の門外漢にはかなり難解。

カッパのオススメ本

バーンズの本はどれも分厚くて最初は手に取るのに抵抗感がありますが、興味深い豊富な事例と巧みな文章で飽きさせません。特に「孤独な人が・・・」は日本人が度肝を抜かれるほどに大胆な切り口でまさに「目からウロコ」が落ちまくる展開。

「初めてのマインドフルネス」はフランス人の著者らしく、絵画の絵解きからマインドフルネスの真髄を説き明かしていく、芸術好きには堪らない教養本。理屈よりも感性を重視する人にはピッタリの本です。絵画の見方が変わるかもしれません。

下園壮太氏の著作は理論よりも、豊富な実践に裏付けられた実践的内容で非常に分かりやすいものとなっています。基本的には治療に役立つものならどんどん取り入れる実践重視の折衷的立場ですので理屈っぽさがなく、誰でもとっつきやすい内容。

「自死は、向き合える」は遺族にも目を向けた、コンパクトに自殺を巡る社会の諸問題を論じている、社会問題としての自殺入門書として最適の本だと思います。カッパイチ押しの本です。

・玄侑宗久氏の「荘子と遊ぶ・・・」は直接、心理療法を論じている訳ではないのですが、深いところでマインドフルネスへの理解につながるユーモア溢れた傑作です。老荘思想の持つ豊かさ、可能性に開眼するでしょう。この世界観はクセになりそう。

※玄侑宗久氏はyoutubeの動画も配信しており、動画視聴もオススメ。たとえば「玄侑宗久チャ

   ンネル お悩み拝聴 報われない人生が辛いです。63歳男性」( 2023/10/13  6:57)は傑

   作。ぜひ視聴してみてください。

・「セーラー服の歌人・・・」は母子家庭で育った女性が小学校5年で母親を自殺で失い、児童養護施設などを転々とする中で、自ら自殺未遂にも追い込まれてしまう歌人「鳥居」(仮名)の凄絶な半生をたどった本。女性の貧困、児童養護施設の闇、形式卒業の問題にも目を向けることになります。鳥居さんの歌集「キリンの子」(KADOKAWA 2016)とともにお薦めの本。20代になってもなぜ彼女はセーラー服を着て街角に立つのか・・・学校教育問題や貧困問題、女性の生きづらさなども含めて考えるべきテーマは多岐にわたります。

「どうしても頑張れない人たち」は学校教育や特別支援に関わる人にとっては極めて重要な必読書と思われます。著者は「ケーキの切れない非行少年たち」で有名な宮口幸治氏ですが、学校教師にとっての重要度は2作目の「どうしても頑張れない人たち」の方が数段勝ると感じています。宮口氏の「頑張れないからこそ支援しないといけない」という指摘が孕んでいる課題意識はおそらく私達の予想以上に重要な視点を提供していると感じます。分かりやすく丁寧な文体ですので、多くの教師や保護者の方々にも読んで頂きたい一冊です。

 自分自身も支援を必要とする生徒達の良き伴走者となれているのかどうか、深く反省させられた本でした。非行少年との伴走という特殊な職務に役立つだけではなく、私達大人が精神的な悩みに直面している多くの生徒達、青年達に寄り添っていく上でも大いに役立つ内容です。