その3.カッパの授業観 

 

1.総論

 従来の社会科授業で広く見られた、一方通行になりがちな一斉講義形式中心の授業を見直し、生徒の授業参加度を高める意見表明型の授業への転換を目指す。教科書の内容や重要語句をあたかも唯一の正解であるかのように捉えてただひたすらそれらを理解し、暗記させるだけの硬直化した指導のあり方を徹底的に見直す。

 また現実の社会では今すぐに正解を見いだせない「不良設定問題」が多いことを前提に、敢えて論争を呼びそうな不良設定問題への思い切ったチャレンジを試みる。「VUCA」という用語が注目されてきているように現実の社会問題は学校のテスト問題とは異なり、正解が一つとは限らず、そもそも正解が用意されている訳ではない。まさにVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)に満ちているのが現代社会である。そうした中で様々に異なる意見同士の粘り強いすりあわせを通じて、現時点での最適解を追求する討論型、対話型学習を行うとともに、生徒が自ら調べ、自分の考えを深めていくこと、そして各々が納得感の獲得できる個別化、個性化学習へと授業の軸足を移していくことが喫緊の授業目標となっている。

※参考動画

 ◎「ChatGPT」と真逆の概念に世界が注目 モヤモヤ力の可能性 [クロ現] | 

       NHK  2023/09/15 9:43

   【論破ブームの危険性】アベプラ平石アナの「論破上手=優秀はテレビの世界だ

      け」に若新雄純が本領発揮【前編】 

      新R25チャンネル  2023/06/07  29:52 

 ◎【議論で重宝される人】「議論で熱くなってもなぜか愛される人」。アベプラコ

     ンビ・平石アナ×若新雄純がたどり着いた結論 

      新R25チャンネル  2023/06/14 28:38

  討論の進め方、注意点がよく分かる。「ムキにさせる」=「本気にさせる」、「審判を下さない、

   勝敗をつけない」、「多様性尊重」、「論点のズレはすぐに修正」…役立つポイントが多い。

   ◎【心理的安全性】誰もが率直に意見を言える環境とは?組織改革を進めるカギ?

  超重要概念を学ぶ 

  ABEMA 変わる報道番組#アベプラ【公式】2022/05/29 24:20

  多様な意見を引き出すために必要とされる「心理的安全性」とは何か、理解できる。

 ◎【ハーバード大学准教授が語る】社会的に消す「キャンセル社会」の闇【ひろゆ

  きの妻&奥井奈南】 ReHacQリハック【公式】  2023/05/14  34:50

  多様な意見を引き出す上でキャンセルカルチャーの危険性に留意する必要があるだろう。

※参考記事

    ◎「民主主義って何?」にスパッと答えられるか…政治学者が「多数決と民主主義は関

     係がない」と言い切るワケ 

     プレジデントオンライン 岡田 憲治 の意見 2024.2.29

 会議の質は「進行役」で8割決まる…「よい会議」と「悪い会議」で決定的に違う

  5つのポイント 現代ビジネス 野本 理恵 によるストーリー

  5つのポイントは対話的議論の進め方と重なる要素が多く、大いに参考となるだろう。

    ◎波紋よぶ自民党意見書 教育現場の「汚染水」呼称を問題視

      朝日新聞社 によるストーリー 2024.3.16

    授業での討論の題材にも使える記事。風評被害にあえぐ福島の人々からすれば確かに「汚染水」と

  いう言葉には大きな抵抗があるに違いない。したがって福島県民の名のもとに、表現を「処理水」

  に変えていただきたい、という要望が出たならば、教師としてはこれに真摯な対応が必要となるの

  は当然。しかし政治家たちによる抗議には絶対に耳を貸してはならないだろう。教育への政治介入

  は本来ならば出来る限り避けるべきだからである。

   自民党福島県連の意見はたとえ正しくとも、絶対に「自民党福島県連」として公に出すべきもの

  ではないはず。確かに悪質なイジメ隠蔽問題に対しては首長による政治介入がどうしても不可避と

  なるような、あまりにも残念過ぎる教育行政の現状があるだろう。しかしこと教育内容に限っては

  政治家による介入を決して許してはなるまい。それは明らかに教育における政治的中立性を脅かす

  からであり、教育基本法への明白な違反行為となるだろう。議員たるもの、違法行為は厳に慎むべ

  きである。なぜ県漁連の名で抗議しなかったのか、政治家として愚かすぎる行為だろう。自民党福

  島県連の政治家としての良識が根本から疑われる案件なのである。

   こうした議員たちのあるまじき行為の連発を眺めていると、長期政権与党としての驕り高ぶりが

  おそらく自民党議員たちの心理に潜んでいるものと考えられる。つまり裸同然のダンサーを招いた

  懇親会の問題で揺れる自民党和歌山県連などと同じ問題構造が福島にも大いに見られるのではある

  まいか。

 

 これらの学習過程を通じて生徒、教師共に考え方の多様性に気付き、意見の異なる他者を尊重する姿勢を育むと同時に異常なまでに同調圧力の強い日本の硬直化した学校文化を徐々に相対化し、学校教育に一層の奥行きと柔軟性、多様性をもたらすことを目指していく。

 

2.各論

   具体的には以下のような授業内容と授業方法を提案する。

これまでの「教科書を教える」から教科書をも相対化する多様な観点の確立へ

 授業の最初の段階で欧米の教科書制度を紹介し、日本の学校教育における教育内容の特殊性に気付かせることは今後、授業を進めていく上で極めて大切となっていくと考える。教科書では触れられていないが生徒の関心が高くかつ重要なテーマと思われるものを敢えて幾つか授業で取り上げてみる。生徒達の意識を国際化、グローバル化に向けて広く開いていくための意識的働きかけがこれからは一層、必要とされてくるに違いない。密室化し閉塞してしまった日本の学校社会の風通しを良くしていく上でも教科書の神話化を抑え、授業内容と指導方法の相対化、見直し、アップデートを現場目線からダイナミックに進めていくべきである。

※参考動画

楽しく身になる歴史の学び方とは?井沢元彦さんによる歴史講座【続きは概要欄

   へ】堀江貴文 ホリエモン 2023/10/19 12:31

   井沢氏が指摘するように日本史においてですら、教科書に頼る授業がいかに的外れであるか、理解で

   きるだろう。

【天安門事件以来の盛り上がり】中国の言論統制と闘う若者たち 家族や仲間が拘束

   され銀行口座も凍結 [クロ現] | NHK  2023/09/14 9:46

 中国の若者たちの言論の自由を求める命がけの取り組みに対して、まず、どう思うのか、生徒たちに

    問いかけたい。さらに、日本の若者たちに今、言論の自由が本当にあるのか、問いたい。特に李苹さ

    んの「意見を持つことは国への最大の愛情です。希望を抱くからこそ声を上げるんです」という発言

   について深く考えさせたい。

      続けて言論の自由が成立する前提条件に付いていくつか列挙させたい。特に「情 報公開」や「知る

   権利」をキーワードにして一歩踏み込んで深く考えさせたい。例として社会科の教科書で本当に自分

   の意見が持てるようになれるのかどうか、確認させよう。ここで「君が代」について歌詞の意味を問

 うのが良いだろう。

      そしてもう一度、日本の若者に言論の自由があるのかを問いたい。

映画『教育と愛国』予告編

 シネマトゥデイ 2022/04/20 2:16

「危機的な学校教育の今」コネラジ 第365回 特別対談 ゲスト 齊加尚代さん

 ワラしがみ  2022/09/20  35:58

 

重要事項の暗記よりも最適解に迫るための思考力育成重視の授業展開へ

 もちろん教科書を軽視するのではなく、重要事項の理解や暗記もある程度は要求しつつも、多様な意見を引き出し、多様な意見が飛び交う中で最適解を目指して粘り強く思考する対話的な力を養うことをより重視する。必ずしも常に多数派の意見を支持するわけではなく、少数意見にしっかりと耳を傾けることで多様性の持つ豊かさが担保され、すべての生徒が自己の意見表明をしやすくしていく・・・という目指すべき討論型、対話型授業への基本的スタンスを堅持する。

※参考記事

「学校で政治の話はタブーなの?」教育評論家・親野智可等氏に《日本中学生新

 聞》が聞いてみた FRIDAYデジタル の意見 2023.11.8

 「日本では、子どもの頃から自分たちが無力だと教え込まれ、何か言っても無駄、行動しても無駄、

    内申書が悪くなるだけだと刷り込まれ、教育・洗脳されているのだから、大人になって急に選挙権が

    ある・投票しましょうと言われても、投票率なんて上がるわけがないですよね。」との指摘に納得。

来日したフランスの女性議員が衝撃を受けた、日本における「学校と政治のかか

  わり」 ニューズウィーク日本版 によるストーリー 2023.9.29

 日本の若者の投票率の低さの背景には学校教育において論争を呼ぶような政治的話題をできるだけ回

   避する傾向が見られる点がある。また政治家側も表向き政治的中立性を厳守している学校への働きか

   けは無理筋だと感じてしまい、積極的に若者に語り掛けることをしてこなかった。これらが現在、

   「老害政治家」たちをはびこらせ、日本政治の停滞を招いていることは疑いようのない事実だろう。

    まずは学校教育を根本から見直す必要があるのだ。学校教育における政治的中立性とは何なのかを

   含めて深く追及すべき課題は多い。

 

社会問題への関心を高めたい。モデル・長谷川ミラが日本に抱いた危機感 Forbes  JAPAN 編集部 2022/08/23 12:00

乙武洋匡氏 ryuchellさんが「多様性は強要しない」と 「友達なんかじゃな

 かった。」と悔恨 デイリースポーツ によるストーリー 2023.7.15

 「多様性で大事なのは、強要しないことじゃないかな。自分はこう思うからあなたもわかって!では

    なくて、なるほどあなたはそういう意見なのねって、まずは認める姿勢を見せること。相手にも自分

    にもどこまでやわらかくなれるかだと思うんです」

  多様性の尊重とはどういうことなのか、ryuchellさんが遺した言葉に耳を傾けたい。彼が

    討論の場でこのことを常に意識していたからこその、あのソフトな語り口調だったのだ。いつも討論

    する際には心がけたい金言。

 

③電子黒板ないしはプロジェクターとスマホの活用を中心に据えた情報提示へ

 場面によってはYouTubeなどの視聴覚教材を適宜、用いることで生徒達の多様な興味関心を引き出し、各自の所有するスマホ(タブレット等も)などを用いて各自の疑問点などを調べさせることで学習の個別化を進める。板書とその解説ばかりの授業、板書事項をノートに書き写すばかりの画一的一斉授業ではお互いに徒労感を募らせてしまう。授業への参加度と学習の充実感を高める工夫を意図的に授業の随所に散りばめていくべきである。

※参考動画

 ○「オンライン教育は日本を救うのか?」ドワンゴ社長夏野剛、藤原和博らが徹底

  議論 2020/05/13 16:57

 

④一人一人の生徒が自ら考え、自分なりの意見を表明できる機会の充実へ

 授業が十分に活性化しているならともかく、いきなり手を挙げさせて一握りの生徒に意見を言ってもらう展開は出来るだけ避けたい。意見が出尽くすのを待つゆとりが必要である。意見が大体出揃った時にはA~Dどの意見に賛成か・・・などと生徒全員にそれぞれ挙手させて数を数え、その場でクラスの意見のあり様を確認してみたい。その際、マイナーだった意見の持ち主を見捨てない事が肝要。時にはマイナーな意見の背景や根拠を生徒全員で共有できるよう、深掘りしていくべきケースも考えられる。

 またアンケート形式の質問用紙を多用し、口頭では発表できない慎重派や引っ込み思案の生徒の意見表明の機会をしっかりと保障すべきである。アンケート結果の集計と共に意見の一部は次回の授業で紹介する・・・などの工夫を重ねて生徒達の意見を一人でも多く、また少しでも多様な考えを引き出し、共有していくことを重視。アンケートの集計結果を公開する際も少数意見に十分留意し、注目するよう、繰り返し注意喚起しよう。

 なおアンケートへの回答を通じて生徒達が多様な意見の存在理由をしっかりと確認出来るようにしたい。同時に多様な観点によって混乱しがちな頭の中をスッキリと整理出来るような方向性を持たせた質問項目の内容と配列、組立て方を予め工夫しておくと安心。これは相当難しい作業だが、議論の無秩序感を低減するためには事前に必要とされるものだろう。従って当然の事ながら教師側には議論のテーマに関する広い知識、深い理解が備わっているに越したことはない。

 ただし、十分な力が無い状態であっても討論型授業へのチャレンジは果敢にトライすべきである。何事も経験を積み重ねていかなければ前進できないはず。討論がアナーキーな状態のまま終わってしまう事は職員会議の場面ですら、普通に生じている。失敗は成功の糧である。まずはトライあるのみ。

※参考動画

  ◎【実録】本当にあったざんねんなアンケート

      謎解き統計学 | サトマイ  2022/12/30  15:44

    授業中のアンケートでも同じような注意が多少は必要となる。学術的研究ではアンケート対象や質

       問項目の選定、質問文のチェック…等がかなり厳密に定められている。とは言え、授業は学術研究

       ではないのでそれほど厳密に考える必要はない。またアンケートを数多く経験することで結果の分

       析を含めて次第に技術的側面は熟練していく。何よりもアンケートを用いる事の効用は極めて大き

       いので、まずはチャレンジしてみたい。

 ◎【誹謗中傷する人の心理】脳を惑わす3つのバイアス/SNSはロジックのズレだ

     け/ハーバード大学と日本の違い/脳は省エネモードで動く/違和感に向き合え 

     PIVOT 公式チャンネル  2023/05/20  35:51

      討論を通じて「論破」を目指すのではなく、多様な意見の表出と共存を目指すには「論破」や「中

  傷」、「偏見」に対抗するロジックが必要。この動画では認知、認識におけるいくつかのバイアス

  を理解することを通じて討論を分断、対立から共感や統合、多様性の尊重へ導いていくロジックが

  紹介されている。

※参考記事

  ○日本での「不毛な反ポリコレの議論」を超えるために、これから「参照されるべ

     き視点」現代ビジネス ベンジャミン・クリッツァー の意見 2022.12.14

     多様な意見、価値観を尊重する事の意義と討論の在り方が見えてくる。対立する意見同士が感情的

  な罵り合いに発展していかないように、上手く冷静な議論へと導く上で必要とされる観点とは何

  か、考えさせられるだろう。

 

⑤授業の導入時における生徒の集中力を一気に高めるための「心に刺さる」教材の発

 掘と思わず生徒が答えたくなるような質問作り

 授業の冒頭で生徒を惹きつけることに失敗してしまうと流れが作れずにその後の挽回は極めて難しくなる。授業の冒頭でどんな教材を生徒に突きつけ、どんな発問をするのかに関しては面倒だが予め念入りに作戦を練っておくべきである。特に教案は板書案を練るよりもまずは「発問計画」に力点をおいて作ることを勧める。導入と発問の良し悪しこそが授業の成否を左右する、決定的ポイントだと考える。

 もちろん発問の少ない授業は論外であるが、だからといって単純に生徒の知識理解を問うような発問は出来るだけ避けたい。誰であっても自分の無知さを人前でさらけ出したくはないだろう。発問に答えられない生徒に恥をかかせて生徒達の気持ちを萎えさせる事はあなたの授業を嫌いにさせるだけかもしれない。単純な知識や理解を問うのではなく、自分たちが気付かないうちに囚われてきた常識に揺さぶりをかけるような、論争を呼び込むことのできる、深味のある発問を心がけたい。

 普段は意識できていなかった常識の中に潜む自分たちの偏見や差別的言動の存在に気付かせるといった、意表を突く問いかけができれば一気に授業が活性化するだろう。そのためにはまず教師自身が表面的なきれい事を並べて「上から目線」で説教してしまうクセを見直すべきである。教師自ら自分の陥りやすい思考や言動の失敗パターンをしっかりと自覚し、時には教師の身であるにもかかわらず偏見を持ってしまいがちな素の自分を生徒の前にさらけ出す勇気が必要である。

 そもそも学校や教師がこれまでに果たしてきた歴史的役割、社会的機能(選別、配分、社会化・・・)は「人格の完成」などと言ったきれい事では決して済まされない、ある種のダークな側面を持っている。その自覚を持たない教師が社会科を教えることは本来許されない・・・といった学校教師としての厳しい自覚と思い切った自己開示性が求められるだろう。

 自己開示性の低い教師に対しては、生徒は自分の正直な意見を表に出さなくなる傾向があると思われる。きれい事だけでは教師も生徒も授業を通じて自分の中に潜む差別意識、偏見を深掘りできなくなってしまうに違いない。

 差別や偏見を授業で扱う際は決してきれい事の説教で終わらせてはなるまい。

※参考動画

 【知らないとダマされる】SNSで情報収集する人が知るべき3つの真実

  2022/03/12 原貫太・フリーランス国際協力師 16:48

 ◎マスコミ偏向報道の3パターンを業界歴13年の元マスゴミが解説

  元テレビD さっきーチャンネル 2021/04/27 8:58

 ○なぜコロナ報道は役に立たない情報しか流さないのか?

  元テレビD さっきーチャンネル 2021/05/25 6:23

 ◎【メディア洗脳の手口】マスゴミ印象操作テクニック術をマスゴミ歴13年が解説

  元テレビD さっきーチャンネル 2021/02/28 9:37

※参考記事

 「テレビっぽいもの」があればテレビ局は必要ないのか…なぜ"マスゴミ"と呼ばれ

  てしまうのかを考える 

  プレジデントオンライン 稲増 一憲 2022/10/31 11:15

 日本は主要国で大きく見劣り “SNS情報の偏り”への認知度

  FNNプライムオンライン によるストーリー 2023.7.5

 

※参考文献

「捨てられる教師~AIに駆逐される教師、生き残る教師~」

   石川一郎 SB新書   2023

 非常に刺激的で興味深い内容。今後、あるべき教師像、学校像が明確に見えてくるに違いない。個人

 的には学級担任の廃止という改革プランに意表を突かれ、大いに新鮮さを感じた。確かに学級担任ほ

 ど「何でも屋」を強要される職務は他に無いだろう。生徒指導、進路指導、学校行事、各種の事務仕

 事、教室清掃…それらの多くは石川氏が指摘するように将来的にはアウトソーシングするか、AIに

 任せるべきものではあるまいか。この本では部活動指導の問題がイマイチ大きく取り上げられていな

 いが、やはりこれも社会教育分野としてアウトソーシングすべき職務であろう。そうすることで学校

 のブラック化問題は完全に解消し、画一的管理主義からも脱却して、教師たちが児童生徒の考える力

 を養う、個性や多様性を育む魅力的な授業の創造へと専念していくことを可能とするに違いない。

  基本的には北欧に近い教育改革路線だが、思考力養成のための「シンキングツール」という具体策

 が提案されている点には注目したい。ただしこの具体策に関しては多少、網羅的になりすぎて説明不

 足の印象が残る。もう少しシンキングツールを精選し、具体例を入れて説明して欲しかった。また個

 別学習に軸を置き過ぎていて、協働的学習の意義とグループでの討論、意見表明への具体的言及がや

 や不足している感じも否めない。この点は工藤勇一氏の本で補うべきだろう。

  以上、多少の難点は感じたものの、基本的には非常に分かりやすく、知識の伝授から思考力の養成

 へと授業の重点目標を転換していきたい教師にはイチオシの良書である。特に40代、50代の教師たち

 には必読の書と言えるだろう。

※参考記事

探究学習の「指導に課題」8割 福島大が調査

   朝日新聞社 によるストーリー 2024.1.21

   学習指導要領や教科書、大学入試問題の傾向…などの呪縛から教師たちを一度、解放してあげること

 が「探求学習」導入に先立って実施すべき最低限の政策では無かったのか?これまで教師たちの手足

 をがんじがらめに縛り続け、ブルシットジョブばかりの雑務でわずかな教材研究の時間的余裕すら与

 えてこなかった教育行政側が自らを一瞬たりとも省みることなく、教師の工夫不足、準備不足をまた

 もやなじり始めている。日本の教育行政に対しては呆れ果ててものが言えないほどの絶望を感じてし

 まうのだが、いかがだろう。