店を出て帰路につく。

 

奴の数歩後ろを歩く。

もう、並んで歩く事もないのだろう。

ぼんやりと考える。

 

家が近づく。

 

「もう本当にダメってこと?」

 

「私の気持ちはさっき話したとおりだよ」

 

「でも・・・」

 

「・・・まだ話があるなら、聞くけど」

 

私たちは近くの公園のベンチに腰をおろした。

 

「一緒にいたい・・・」

 

同じ事しか言えない。

数パターンしか、バリエーションが無いのだろうか。

 

大きくため息をつく。

「それ、よく分からない。あんな事をすれば一緒に居られないって

分かってたはず。どれだけ私が深く傷つくか。私だけじゃない。

子供たちや、母のことも傷つけた。

私は子供たちが大切。母が大切。

大切に思う人達を傷つけようとなんて絶対にしない。

・・・これを知るまで、あなたに対してもそう。

こんな事をして傷つけようなんて、思った事もない!」

 

「死にたいとは思わない。だけど・・・生きていたくないと

一瞬思った。それでも、すぐに違う。どんな事をしても

生きて行かないとって」

 

「ごめん・・・」

 

「想像力が足りないんじゃないのかな?

この先の事考えてみて。一緒にいたら、私どうなる?

ずっと苦しい思いをして、我慢して。

離婚すれば貧乏になるよ。それは分かってる。

けどさ、それでも一緒にいて苦しんで生きていくより

よっぽどいい。

残りの人生短いの。我慢して生きていきたくないの。

お金よりも、自分の心が穏やかにいられる事を選ぶ。」

 

人生の残り時間が少ないと言ったときに頷く。

そこだけは、齟齬が無いらしい。

 

「こんな事した人と一緒にいて幸せなわけないでしょ。

私、幸せになれないでしょう」

 

奴が首を振った。

え?こんな事して、人を絶望に叩き落したくせに

まだ、私を幸せに出来るとでも思っているのだろうか。

どこまでも図々しい。

 

「知ってから、離婚する道以外考えた事ない。

私が絶対に許さないと、分かっていたはず。

なのに、何で『一緒にいたい』とか言えるわけ?」

 

「我儘なんじゃない」

 

ここにきて「我儘」というワード。

本件に対しての自己分析が、それか。

 

我儘とは: 他を顧慮することなく自分勝手にふるまうこと。

 身勝手なこと。 また、そのさま。

 

後悔や反省の程度が垣間見えた瞬間だった。

 

「私があたなに対して、どのような感情をもっていると思う?

深い憎しみ、嫌悪感しかない。

今回の件で、正直消えてくれないかなって思った。

あんな事されて、まだ情があるとでも?

嫌いなんだよ。嫌いな人間と一緒になんかいられない。」

 

「・・・」


 

「『一緒にいたい』と思うのは、何故なのか。

これは例だけど、親に知られたくないとか、独りになるのが嫌だとか。

深堀してみたら、本当は私と一緒にいたいわけではないのかも。

本当の自分の気持ちを探ってみたらいい。」

 

「私と一緒にいたら、どんな生活になるのか。

自分側だけでなく、私がどういう思いでやっていくかも想像して。

それから、離婚して一人でやっていく未来も。

おのずと、どちらが良い選択なのか、分かると思うよ」

 

堂々巡りの会話に疲れ

方向性をシフトした。

 

「私は、何か行動する事でしか、自分を保てない。

そうじゃないと倒れてしまいそう。

このまま、進めるから。

その間に、よく考えてみて。」

 

「考えは変わらないってこと?」

 

「そう」

 

「変わることもある?」

 

「さあ。無いと思う。

だけど、未来の事は誰も分からない。

私もまさかこんない未来が待っているとは

思わなかったから。

明日、あなたが死ぬかもしれないし、私が死ぬかもしれないし。」

 

「とにかく、考えてみて。

でも、来週の協議書にはサインしてね。

それが無いと、心が落ち着かないから。

さあ、帰ろう」

 

結局、一人で延々と話し続け、終了した。

(書ききれないが、これの3倍以上話している)

 

まあ、いいや。

奴がどう思っていようが、関係ない。

このまま、流れにのっていけばいい。

 

私の立てた目標は「望む条件での離婚」なのだから。