離婚を切りだして1週間がたった。

 

毎日、謝罪のLINEがきていたが

私はそれを全て無視していた。

 

土日は、長い。

なんせ、個別の部屋はなく

二人一緒の部屋なので、逃げ場がない。

 

ずっとこの状態でいるのもキツイし

私の進捗状況も伝えておいたほうがいい。

 

私は、奴がベッドでスマホをいじっている隣で

おもむろにPC操作をし始めた。

奴が声をかけやすいように。

 

ところが

いつまで待っても、奴が私に話しかける気配はない。

 

「話をしたい」とずっとLINEで言ってたんだから

さっさと話しかけてこいよ。

 

っち。

痺れを切らした私は、仕方なく奴に話しかけた。

 

「ちょっと、進捗状況について話しておきたいから。

 LINEで指定する場所にきて」

 

話しかけたとたん、奴はビクッと肩を震わせ

「分かった」と頷いた。

 

またもや、来客が少なそうな喫茶店を選んだ。

先週と同じく、奴はアイスコーヒー、私はホットカフェオレを頼む。

 

コーヒーを待つ。

前回と違って、沈黙を紛らわす会話は必要なかった。

 

到着したカフェオレを一口飲む。

 

「先週話した協議書のことだけど。今、行政書士に頼んでるところ。

 おそらく、来週半ばには出来るはずだから。

 署名と、押印をして欲しい。

 6月半ばに公証役場を予約した。その後2週間ほどで作成になる。

 だから、早ければ6月末。遅くとも7月初旬に離婚できる」

 

「いや、本当だったらさ。大抵の場合は、不貞をした旦那が家を出て行く。

 奥さんと子供が家に住んで、残ったローンは、旦那が支払っていくんだって。

 まあ、そうだよね・・・だって、そちらのせいでこんな事になったわけだし。

 けどさ、住んでもいない家のために、云千万のお金を

 支払わせ続けるのも、どうなの?って思うんだ。だから、ある程度の

 慰謝料的なものも考慮したうえでの財産分与にした。

 まあ、云千万のローンを抱える事になるけど、それでもいいかなって」

 

案の定、黙りこくる。

 

・・・。私は、沈黙が大嫌いだ。

話しあっているときに、黙る奴を見るとイライラする。

だいたいお前が、話したいと言ったんだろう。

 

「私の話は以上。で、話したいことって何?」

 

また、沈黙。

私は顔の血管がひくついているのを感じつつ、じっと待った。

 

「すいませんでした・・・」

 

小さく掠れた声だった。

私は聞き取れていたにも関わらず「え?何?」と聞き返す。

 

「ごめん・・・」

同じ言葉。聞き飽きた。

 

「一緒にいたい」

っは?私は鼻で笑った。

「ちゃんとするから・・・やり直すチャンスが欲しい」

 

「どの口が言ってんの?チャンスは9年前に与えた。」

 

また黙る。

 

「9年前に与えて、長い年月をかけて信じてきた結果がこれだよ。

もう流石にない」

 

奴の目から涙がこぼれる。

何でお前が泣く。イミフ。

 

「〇〇(地名)に行ってた間の2年、ずっとこうだったわけじゃない

それは、信じて欲しい」

 

おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!

 

最大級のツッコミを入れたくなる。

 

「あ。うん。いつからってだいたい分かってる。けどさ

そういうことじゃないんだよね。期間の問題じゃないの。

最初からじゃないから?そんな事はどうだっていいわけ。

あなた、私が1番許せない事をしたのね」

 

え?ここ数か月の話だからって、刑が軽くなるとでも思ってんのか?

そんな減刑制度はないぞ。

人を殺したら、それが2年前だろうが、数か月までだろうが

殺人は殺人になる。

まさか、こんな発言が出てくるとは・・・。

予想外の発言に、若干面食らう。

 

「ていうかさ、私ずっと仕事で辛い思いしてきたの。

その後、大切な母も亡くなって。それを悲しむ暇もなく

〇〇(娘)の希死念慮が発覚して。助けなきゃって

必死で動いて。

メンタルは強いよ。

でも、流石に辛くて今回は無理だって思った。

あなたに、助けて貰いたかった。

なのに、助けられるどころからトドメを刺された。

絶望を感じたんだよ。分からないだろうけど」

 

「分かってるよ。ごめん・・・」

 

「分かってないでしょ。分かってたらこんな事できないでしょ。

食欲もない、眠れない。

自分がこんな風になるなんて思わなかった」

 

「つーかさ、実家に行って話そう。だってそれだけの事したんだから。

理由話してさ、離婚しますって。色々手続きがあるから

連絡取れなくなると困るのね。だから、予め言っておく。

万が一連絡が取れなくなったら、あなた達が代わりに責任とってくださいねって。

まあ、親に話されるの嫌だろうけど。

でも仕方ないよね、それだけの事しちゃったんだから。」

 

「そんな事はいい・・・」

 

「世界が違う。生きる世界が。色々見たけど。

あのやり取りとか、気持ち悪いって思う。

だいたいさ、前の離婚も女が原因で。それだけはダメだって、許せないって

散々話してきたじゃん。それ知っててやったわけでしょ。

私や子供達の事を傷つけてまでやるんだから、私たちはその程度ってことだよね」

 

「違う・・・」

 

私は、進捗状況を伝えるだけで、奴の話を聞くだけのはずだった。

ああ。なのにまた、私一人が話している。

 

店主が、私たちに声をかける。

「すいません。〇〇時から、予約が・・・」

 

私たちは席を立った。

 

つづく