Automatic Striker Johnson / オートマティック・ストライカー  | Talking with Angels 天使像と石棺仏と古典文献: 写真家、作家 岩谷薫

Automatic Striker Johnson / オートマティック・ストライカー 

  ゴールデンウィークなので、趣味の話でも。
 本日はマニアにしか解らないモノスゴイルアーを御紹介!
 男の子は恐竜やメカニックなものが大好き。そんな男心をはげしくくすぐる、ジョンソンのオートマティック・ストライカー。

 おそらく、日本でこれを持っているのは、私だけかも??
 しかも「使える個体」となると、世界中でも私だけだと思います。
 はい。ただの自慢です。汗。

 このルアーは、1930年代のもので、作者のカール・ジョンソンは、歯医者さんでした。
 おそらくこの金属パーツは、その歯科器具を作るメーカーにジョンソンさんが「なぁ…アンタとこの技術で、なんとか金属パーツを作ってくれんかね」とお願いしたような気がします。そのせいか、実に精巧にできており、歯科器具メーカーの営業も釣り好きだったのかもしれません。

 その金属パーツの説明は後に回し、元々は、写真のように塗装が全面かなりハゲテいるものでした。しかもこれは本来、ジョイントルアーで、尻尾があるはずですが、取り外してありました。

 尻尾が付いていると、本来、全長6 1/2インチの巨大ルアーです。
 この傷み具合と、魚でいう半身だったこともあり、とても御安く購入。
 これが、完全体で箱付きだと、私の記憶では28万くらいで取引されるものです!驚

 しかも、こんな貴重なルアーは市場にはほぼ出てこず、私は出会うのに約7年くらいはかかりました!
 明らかに、誰かお爺さんの遺品整理くらいでしか出会うチャンスは無いと思われます。もっとも、小さいサイズのもあるのですが、それなら1年に一度くらいなら出会えるかもしれません。でも、後で説明しますが、このルアーの構造はデカイからこそ意味があるのです。

 はじめてこれを手にした時、喜びと共に「私の技術でこれを修復できるのか…?」という不安もわき起こりました。ルアー修復に関して百戦錬磨の私ですが、実は、それほど構造が複雑で修復が困難だったのです。

 例えば、針をセットする金属パーツの接続方法が不明だったり、そのパーツと木部のアソビをどう防水するか等。また、頭の上の針金も接続方法が不明で、なんとこのワイヤーは、体を斜めに貫いています!どんな方法で貫通させたのか未だに不明!
 さらに、フロントの金属パーツは、おそろしくキッチリルアーにはまっており、塗装を重ねると、ボディーにハマらなくなる正確さ…等々 問題山積だったのです。

 そうした問題を、今までの私の修復技術の粋を一大結集して、一つ一つ、解決、クリアしていくわけです…それはそれは困難で、1月半はかかりました…勿論、これだけやってる訳ではないですが、私のルアー修復史上最も大変な作業でした。

 よく、修復したルアーに価値は無いなどというアホなコレクターが居るのですが、そんなことは絶対ないです!断言!!
 こうしたルアーは放置していても塗装が自然とベリベリと剥がれていきますし、そもそも美術品や歴史的建造物も、修復無しでの存在はありえません!
 (昔、こうしたアホなコレクターの横槍で、私は骨董番組の出演を断られた事もあるので、余計なのですが。爆)
 修復するにしても、私はオリジナルを必ず活かしており、御覧のようにオリジナルの塗装はそのままです。「禿げた部分だけを」描いているのです!
 この技術はかなり高度なのよ!笑 

 しかもルアーは動いてナンボです!!
 額に飾って水に浸けられないようなルアーは死んでいます!!

 アメリカには、デイ・ロバーツ(名前、うる覚え)という悪いリペインターが居て、こんなボロボロのルアーの塗装を全部剥がして、オリジナルと全く違う塗装をし、その上、自慢たらしく「D」の刻印までルアーに押し付けるヤツがいて、余計に修復のイメージが悪くなったような気がします。
 「修復とは、あくまでオリジナルを活かす方法を考えるべきなのです!」

 さて、問題の金属パーツです。
 この金属パーツは、魚が掛かると、パチン!とボディーから離れて、写真のように、針とルアーが分離する構造になっているのです! (右側面の塗装の修復跡も分からないでしょ!)

 なんでこんな構造が必要かと言えば、大きなルアーでは、ルアーそのものの大きな水抵抗で、ファイト中に針が外れたり、巨大魚相手にルアーが傷付いたりするので、それを防ぐためなのです。

 この発想は昔から大きなルアーに採用されており、ヘドンではデラックスバサーやキングジグワグにも採用されています。でも、その分離針は凧糸でボディーと繋がっていたりするのですが、このオートマティック・ストライカーは可動式の針金にしているところがいいですね。もつれたりしません。
 しかもルアーのリップまでをも分離させるので、ルアーの水抵抗をより減らせたはずです。

 この発想の細やかさが歯医者さんらしいのです!
 こんな手の混んだルアーは初めてです!

 しかも構造が非常に精緻に出来ているので、制作上、エラー品も多かったはずで、この構造で現代なら、日本円で1個5~6万じゃないと、儲けにならなかったのでは?とさえ思えます。
 歯医者さんの道楽ってとこでしょうか…

 で、このルアーの肝心の動きのインプレをします。
 (このルアーのインプレができるのは世界中、私だけだと思います。笑 たとえ持っている人が居ても、防水しないと壊れますから…。特にこのオートマティックストライカーは、金属パーツは精緻なのですが、防水技術が未熟で塗装が大きく剥がれるのです)
 ジョイント無しで全長10cmくらいのものですが、ズッシリと重いです。
 持った感じ、携帯電話くらい…私はこの金属パーツの多さから必ず沈むと思ってましたが、なんと浮きました!驚

 フロントにフックが無いので、首は良く振れ、ウォブリングも大きいです。
 褒められた動きでもないのですが、まぁ、ダーダーとしては使えそうです。
 ちょっと動かしているとジョイントを付けたくなってきますヨ。笑

 私の技術では尻尾を復元することも、可能なので、またいつか完成したら、お披露目したいと思います。ただ、このルアーで重要なのはあくまで、前方の金属パーツにあるわけです。

 また、このルアーは実は、ジョイント部分が脱着可能な構造になっており、尻尾の無いこの状態でも使えることを想定していたとも考えられます。

 「Automatic Striker」 名前もカッコイイよね!
 釣りでストライクと言えば、魚がかかったことを意味しますが、
 中学生の頃は、日本のメーカーで「スパーストライカー」というロッドが欲しくてたまりませんでしたが、お金がなくて買えず、開高健さんは「ラッキーストライク」というタバコを釣りの時にふかしていたこともあり、ストライクという言葉には何かあこがれるものがあるのです。笑

 ルアー博物館があったら、このルアーは間違いなく収蔵の逸品です!



岩谷薫(Kaoru Iwatani)『Talking with Angels』ー天使と仏の写真家ー | Facebookページも宣伝