信州読書会さんに参加させていただいて、毎週金曜日に
 課題図書の感想文を提出させていただいていますニコニコ

 

  今回は、芥川龍之介の『 トロッコ 』の感想です本

 

  主人公の良平は8歳です。

  小田原・熱海間の鉄道を敷くための工事で使われるトロッコに

  ひどく惹かれています。

  念願叶って、土工の二人とトロッコを押す機会に恵まれます。

  始めは楽しかったのですが、途中からあまりにも遠くへ

  来たことに気がつき、不安になります。

  日が暮れると、土工の「早く帰んな」との言葉に、一人で

  帰らなければならないことを知ります。

  良平は、必死に家へ向かって走りますが、その道は暗くて

  苦しいのです。やっとの思いで、家に辿り着きますが、感情が

  溢れ出て、母親のもとで泣きじゃくります。

  現在、26歳の良平は生活と仕事に疲れています。

  その時、ふと子供の頃のトロッコ体験を、今の人生の

  苦しみと重ね合わせるかのように思い出すのです……。

 

  短編なので、ほとんど最後まであらすじを書いてしまいました(笑)

  

  誰でも、子供の頃はいろんな感情が溢れていたかと思います。

  大人になって、それを制御する術を身に付けて、普段は

  抑え込んでいます汗

  それが、苦しい時やシンドい時に、ふと頭をもたげてくる感じが

  とても絶妙に描かれていますビックリマーク

 

 

 

            『 それぞれの「範囲」 』
 

 八才の良平にとって、トロッコは魅力的だった…いや、魅惑だった。「魅力」が人を惹きつけ夢中にさせてしまう力だと
すれば、「魅惑」は魅力で人を惹きつけ、惑わせてしまう力だ。魅惑に対する免疫は、成長度合いや経験値によって、人
それぞれ大きく違う。
 自らの魅惑に対峙できる力を間違えば、あとは「惑う」だけだ。
良平は、自分の人間としての「範囲」を読み違えたのだ。
彼の「範囲」は、二つ下の弟とその友達とトロッコを十間程動かして飛び乗ること、そして「顔に当る薄暮の風、足に
下に躍るトロッコの動揺」(P.101)を感じるところまでだった。だが、八才の良平には魅力を制御できる力がまだ備わって
いない。だから、麦藁帽の背の高い土工のような存在が必要だった。土工には、良平の範囲が見えるのだ。
 

 しかし、土工のような経験値のない若い男たちは、良平の範囲のことまで考えない。そんな若い男たちの見識のなさを
「優しさ」と取ってしまうほどに良平も幼い。そんな若い男たちと良平が出逢えば…言わずもがなだ。
良平は、自らの「過ち」を振り切るかのように線路を走る、走る、走る…。泣いてしまえば、一気に「惑い」から抜け出せ
なくなることは、感覚でわかっていた。八才なりに。
やっと、彼の範囲内である家の門口へ駆け込んだ瞬間、良平は「魅惑」から逃れられた。長い長い寄り道だった。「範
囲」とは、思う存分泣いていい場所なのだ。
時は流れ…良平が二十六の頃、妻子と一緒に東京に住まう。所帯を持てば、塵労に疲れることは至極当然だろう。
 

 しかし、日々の塵労は「魅惑」を引き寄せる。普段は把握している自らの「範囲」を惑わせてしまう。あの泣いて駆け抜け
た「薄暗い藪や坂のある路」(P.108)が別の意味を持って、二十六才の良平の前に現れる。「全然何の理由もないのに」
(P.108)思い出したと自ら気づかないふりをする良平に、「魅惑」を跳ねのける力はあるのだろうか。二十六才では、背の
高い土工は現れてはくれないだろう。
彼が「範囲」を間違わないように…泣いていい場所を失わないように…願う。
 寄り道は、八才でも二十六才でも破滅的に「魅惑」で取り返しがつかないのだ。

 

 

 

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