ある日のこと。
私はいつもどおり厨房でナギさんの手伝いをしていた。
ナギ
「……」
(あれ?…どうしたのかな、ナギさんがしゃがんだまま動かない…。何かを見てるの?)
かおる
「ナギさん、どうしたんですか?人参を持ったまま固まって…」
ナギ
「見ろ」
かおる
「え?先っぽがかじられてる…」
かおる
「まさか、ハヤテさんがつまみ食いを…?」
ナギ
「いや、 それはないだろ。ネズミか何かの仕業だろ」
かおる
「ネズミ?」
(船にネズミがいたなんて知らなかった…。寝てる間に私のこともかじられたりしないかな?)
(ちょっと怖いな…)
ナギ
「ほら、ぼーっとすんな」
(わ!で、デコピンされちゃった…)
ナギ
「ネズミが食うってことはいい食材の証だ。今はとにかくメシの準備をするぞ」
かおる
「は、はい!」
結局、その場はそれで収まったのだけれど…。
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ハヤテ
「メシだ、メシ~!」
トワ
「ああっ、ハヤテさん。つまみ食いはダメですよ!ていうかそれ僕のです!」
ハヤテ
「知るか!早いもん勝ちだ!」
シン
「いいからお前ら、さっさと席に付け」
ソウシ
「うん、いつもながら美味しそうな食事だね」
トワ
「あっ!だからハヤテさん、僕の分まで取らないでくださいったらー!」
(あれ?トワくん、腕のところを怪我してる?)
かおる
「トワくん、その怪我どうしたの?」
トワ
「あ、これですか?実は夜、寝てる間にネズミにかじられたみたいなんです」
ナギ
「ネズミだと?」
トワ
「はい。最近部屋にネズミがいるみたいで…」
(トワくんの部屋って、確か倉庫の隅っこだよね)
(じゃあ、厨房の食材をかじったネズミも、もしかしてそこを巣にしてるの…?)
ソウシ
「それはよくないな。ネズミはばい菌をたくさん持っているんだ」
ソウシ
「だからネズミにかじられたのなら、ちゃんと消毒しないといけないよ」
ソウシ
「後で医務室に来なさい」
トワ
「はーい」
ナギ
「……」
(あれ…?なんだかナギさん、何かを考えてるみたい…?)
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私とナギさんは、夕食の片付けをしていた。
かおる
「やっぱりいたみたいですね、ネズミ」
ナギ
「ああ、そうだな」
かおる
「食材だけじゃなくトワくんまでかじられるなんて…」
(やっぱりネズミってちょと怖いな…)
ナギ
「行くぞ」
かおる
「え?」
ナギ
「ネズミを捕まえに行くって言ってんだ」
ナギ
「このままじゃ食材がどんどんかじられちまう。放っておくわけにはいかない」
(そっか、さっきナギさんが何かを考えてるように見えたのはこのことだったんだ)
ナギ
「だが、どうやってネズミをおびき寄せるか…」
かおる
「好物でおびき寄せるのはどうでしょう」
ナギ
「好物?」
かおる
「はい。ネズミっていうと…チーズとか好きなんじゃないかな」
ナギ
「チーズか、なるほど…」
ナギ
「それでいこう、かおる」
(わ!…頭撫でてもらっちゃった…)
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(誰もいない…。そっか、トワくんはソウシさんのところで消毒してもらってるんだ)
ナギ
「部屋の明かりは付けるな」
かおる
「え?どうしてですか?」
ナギ
「人の気配がしたら出てこないかもしれないだろ。適当なところに罠を仕掛けて…」
ナギさんは部屋の何箇所かに手早くねずみ取りを仕掛けていった。
ナギ
「あとは見張るぞ」
かおる
「なるほど…」
(あれ?ナギさん、そんな物陰に隠れるんだ…)
ナギ
「お前もこっちに来い」
かおる
「あ、は、はい!」
(わ…でもなんだかすごく密着してるよ…!)
ナギ
「何やってんだ、そんなんじゃ意味ないだろ。もっとそばに来い」
ぐい!
(わぁぁ!か、肩を抱き寄せられちゃった…?)
かおる
「あ、あの!ナギさん、えっと…!」
ナギ
「静かにしろ」
(そ、そんな耳元でささやかなくても…!)
かおる
「でも…!」
ナギ
「騒ぐんだったら、口を塞ぐぞ?」
かおる
「…!」
(どうしよう…。胸がドキドキしてるの、絶対伝わってるよね…!)
ガタン!
かおる
「!」
ナギ
「かかったか」
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部屋を明るくすると、ねずみ取りの中に小さなネズミが一匹かかっていた!
かおる
「わ…!すごい、ちゃんと捕まえられましたね」
ナギ
「……」
かおる
「ナギさん?どうかしたんですか」
ナギ
「かわいい…」
かおる
「え?」
ナギ
「…いや、意外と小さくて…」
かおる
「小さくて?」
ナギ
「…何でもない」
(あれ?さっき、かわいいって言ったような?)
トワ
「あー!すごい!二人共、ネズミを捕まえたんですね!」
かおる
「トワくん、怪我はもういいの?」
トワ
「はい、すっかり!わぁ、ネズミって結構可愛いんですね」
トワ
「ちょっとチーズをあげてみてもいいですか?」
ナギ
「お前なぁ…。たった今ソイツに噛まれた怪我を消毒しに行ってたんだろうが」
トワ
「どれとこれとは別ですよー。かおるさんも一緒にどうですか?」
かおる
「え?じゃあちょっとだけ…」
ネズミ取りの隙間からチーズをさしだした私。すると…
ガブり!
かおる
「いっ!」
ナギ
「どうした」
かおる
「大丈夫です。ちょっと噛まれちゃっただけです」
トワ
「大丈夫じゃないですよ!消毒しないと…あわわわ」
ナギ
「ったく、行くぞ」
かおる
「わわっ」
ナギさんが私を担ぐ。
ナギ
「トワ、お前このねずみを見てろ」
トワ
「は、はい!」
かおる
「お、大袈裟ですって、ナギさん」
ナギ
「黙ってろ、すぐ消毒する」
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ナギ
「ドクター!」
ナギ
「…いないか」
ナギ
「仕方ない、俺がやる」
かおる
「そ、そんな慌てなくて大丈夫ですよ」
かおる
「それに消毒くらいなら私、自分で出来ますし」
ナギ
「いいから黙って座ってろ。ほら、手を出せ」
かおる
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
(あ、ナギさん結構消毒に慣れてるみたい。器用だなあ…)
ナギ
「…トワがかじられたって聞いたとき」
かおる
「え?」
ナギ
「次はお前ががじられると思った。お前、鈍臭いから」
かおる
「ど、鈍臭いですか…」
ナギ
「せっかく捕まえたってのに、やっぱり鈍臭いな、おまえ」
かおる
「すみません…」
(でもそれって…私のためにネズミを捕まえようとしてくれたってこと…?)
かおる
「でも、ありがとうございます、ナギさん」
ナギ
「…別に」
かおる
「そういえば、ナギさんがネズミをかわいいって言うなんて意外でした」
ナギ
「な…?俺はそんなこと言ってないぞ」
かおる
「え?でもそう聞こえましたよ?」
ナギ
「…変だったか?」
かおる
「え?」
ナギ
「いや…男がネズミを可愛いなんていうのは、やっぱり変だったかと思って」
(あ!ナギさんが照れてる…!)
かおる
「そんなことないですよ!私もすごく可愛いと思ったし…それに」
かおる
「その…ナギさんと同じこと考えてたんだと思ったら、なんか嬉しいです」
ナギ
「…そうか、よかった」
ニッとナギさんが笑う。
ナギ
「でも、このことはみんなに言うなよ」
かおる
「え?みんなも」
ぐいっ
かおる
「!」
ナギ
「ネズミより、お前のほうが…」
かおる
「え?」
ナギ
「いや、何でもない」
抱き寄せられた私は、ナギさんの優しいキスに目を閉じるのだった…。