山から里の方へ遊びに行った猿が
一本の赤い蠟燭を拾いました。
赤い蠟燭はたくさんあるものではありません。それで猿は赤い蠟燭を花火だと思いこんでしまいました。
猿は拾った赤い蠟燭を大事に山に持って帰りました。
山では大変な騒ぎになりました。
何しろ花火というものは、鹿にしても、猪にしても、兎にしても、亀にしても鼬にしても、狸にしても、狐にしても、まだ見たことがありません。その花火を猿が拾ってきたというのです。
「ほう、これは素晴らしい」
「これは素敵なものだ」
鹿や猪や兎や亀や鼬や狸や狐が押合いへしあいして蠟燭を覗きました。
すると猿が「危ない危ない。そんなに近寄ったら危ない爆発するから」といいました。
みんなは驚いて尻込みしました。
そこで猿は花火というものがどんなに大きな音を出して飛び出すか、そしてどんなに美しく空に広がるか、
みんなに話して聞かせました。
そんなに美しいものなら見たいものだとみんなは思いました。
「それなら今晩山の頂上に行ってあそこで打ち上げてみよう」と猿がいいました。
みんなは大変喜びました。夜の空に星がふりまくように、ぱあっと広がる花火を眼に浮かべてみんなはうっとりしました。