日本の中学校に通っていれば中3相当の娘が、一足早く文科省の中卒認定試験に合格しました。中卒認定資格は日本の高校に進学する際に必要です。すでに米国の高校に進学している娘にはこの資格は必要ありませんが、娘に中卒程度の日本語力があるということがわかり、私にとってはバイリンガル育児を終わりにする節目となりました。

 

日本では 「母国語の日本語をしっかり話せるようになってから英語を入れないとセミリンガルになる」と、バイリンガル育児への風当たりが強いので娘が小さなときはヒヤヒヤしました。外国に長く駐在している子供の中には、現地の言葉に馴染み日本語をあまり話せない子はいてもセミリンガルは多くはいませんでしたが、日本のインターナショナル・スクールには低学年の時点で日本語から脱落し、高学年になると英語も今一つ...というお子さんは珍しくなく、そうした言い分にも一理あるとは思います。 「現地に友達が出来る程度でいい(←実は日常会話のほうがビジネス会話よりも難しかったりする)」、「祖父母とコミュニケーションが取れるぐらい」、「仕事で困らないように」、「海外の大学に進学させたい」、「ネイティブ・スピーカと遜色がないぐらい」など、子供に求める外国語の能力は家庭によって異なりますが、一応これで私なりに考えた子供の言葉に関する親の責任は果たせたかなとホッとしています。 

 

以下は"私"のバイリンガル育児の備忘録です。

 

私は娘が産まれる前から学習言語は英語、日本語は家庭で使う言葉と考えていました。これは私が子供のころ住んでいた米国で、自分も含め、友達の多くがそのように育っていたからです。学校では英語、家ではそれぞれスペイン語やベトナム語、ドイツ語、韓国語などを話していました。家族・親族にもバイリンガルが多いので日英バイリンガル育児は自然な選択でした。

 

次に考えたのは、いつまでにどれぐらい話せるようにさせるかということでした。私は日本の大学と米国の大学院へ行ったので、子供にも両言語で高等教育を受けられる程度の言語力を付けさせたい...と考え、そこから逆算して中卒程度の語学力を目標にしました。TOEFLはネイティブの高校生が特に準備をしなくても100点以上が取れるような難易度となっていますので、高校で学べる程度の語学力(=中卒程度)があれば、その気になれば大学の授業にもついていけるでしょう。 時期については、私自身が高校生のとき、現地校の勉強が格段に難しくなってきて国語を並行して学び続けるのは不可能と感じていたので、言語・スピーチ教育の専門家のアドバイスも参考にバイリンガル育児は15歳(中学生まで)に終わらせようと決めました。

 

まず日本語をしっかりやり、高校生になってからトビタテという方法もありますが我が家では、親の責任で1) 日本語と英語の両言語を、2) 15歳頃までに、3) 中学卒業レベルに到達させる....という目標を立てました。家人や親族の理解があったのでやりやすかったです。

 

日本語については娘が小さい頃は漠然と漢検3級合格を目標にしていましたが電子機器の普及で漢字をスラスラ書けることの重要性が下がってきたのと、言葉は漢字だけ書けても総合的に使えないと実用性がないので、岩波ジュニア新書を読めるようになることと、文部科学省の中学校卒業程度認定試験に合格するという具体的な目標を掲げました。中卒認定試験は受験料が無料で、OECDで教育への公的支出最下位のわが国としては異例の太っ腹ぶりです。国語・数学・社会・理科・英語の5科目の各科目で60点以上を取ると合格です。娘は過去問を一通り何回か解き、苦手だった理科だけ市販の問題集を使って用語を覚えました。受験資格を満たすのがなかなか大変で、娘は義務教育免除証明書を取りましたが、受験資格を得られない場合も過去問を解いて自己採点すれば立ち位置が分かります。過去問を見てもわかる通り、難しい試験ではなく、日本の学校に通ったことがなくても中学生程度の知識・常識があれば特別な勉強をしないですむのでインターナショナルスクールに通っていたり、ホームスクールのお子さんも活用できる良問です。

 

英語については具体的な目標を設定していたわけではありませんが、日常生活で使わない語彙を増やすために読書を心掛けました。環優舎で毎日10分だけ日替わりで英語詩やNon-Fiction, Fictionの読解や、Idiom, Thesaurusなどの英語をやっていたのも良かったと思います。4度のSpelling Bee出場やCTYのHonor Award、SSATやTOEFLでも常に高得点でした。インターから日本の中学校の国際科に進んだお子さんも、毎日ちょっとだけやっている英語が今頃役立っていると言っています。

 

言語教育は大切ですが、いつまでも子育ての中心に置くことは出来ません。子供が小さなうちは英語のサマー・キャンプだ、日本語の絵本の読み聞かせだ...と親が子供の言語環境を主導できますが、高校以降は子供が自ら選ぶ環境に親がとやかく言うべきではないというのが私の考えです。得意な語学を活かして両言語を必要とする環境で働くかもしれないし、英語や日本語が主言語ではない国で生活を始めるかもしれません。娘は高校に入ってアラビア語を習い始めました。日本語より上達することはないと思いますが、楽しく授業を受けています。
娘が高校生になった途端に、"語学的なこと"はまるで気にならなくなりました。英語の語彙が足りているかとか、日本語の本をもっと読ませたいとか、アラビア語の発音を練習させなきゃとか...といった心配ごとからある日突然ふわっと解放されて、今やっと本当にバイリンガル育児を卒業したという気分でいます。

 

結局娘は日本語よりも英語が強くなりました。日本語で話すときはちょっと自信無さげですし、誤字・脱字も多いけれどセミリンガルと叩かれたくないなぁ。英語は9年生ですが、10年生のクラスを取っています。各種テストの評価は12年生レベルですが、高学年のより専門的な授業に入る前に、文学史や論文の書き方など受けさせたい授業があります。

 

私は子供のころ、「英語の勉強をしなさい」、「日本語の本を読みなさい」と、親から言われるのがとても苦痛でした。ある年齢を過ぎた子供には、たとえ親でも脳内で思考に使用する言語をどれにするか命令することは出来ません。"帰国子女だから日本語が.、英語が、態度が..."と評価されるのもウザかったです。 あれはみんなランゲージ・ハラスメント (=ランハラC) だったなぁ、と思います。言っている人に悪気はなくても言われたほうはグサリときます。娘は全然わかっちゃいないけれど、私は娘にはランハラCはしなかったな。


英語の学校に通わせるのも親の責任なら、学校で教えてくれない日本語を習得させるのも親の責任です。早期英語教育の是非が延々と議論されている日本では、家庭内のことなのに好奇の目線を感じることも多々ありました。経過観察中だったので、そのような議論には敢えて参加してきませんでしたが、これからは今までのノウハウを共有したり、バイリンガル育児をしている人たちを応援していたけたらと思います。