慣らしのお話 | 一郎のだまされ日記

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チーム黒山レーシング 黒山一郎でございます。

<慣らし運転のお話>

 

新品のシリンダーとピストンは「慣らし運転」をしないといけない、という洗脳刷り込みの方が多いのですが、この慣らし運転について少し解説します。

 

1)例えば説明に適切かどうかわかりませんが、陸上100mの選手の本番前の「慣らし」について考えてみますと、前準備にジョギング程度の走りばかりをして準備体操は終わり、ではないですよね。やはりスタートダッシュの確認とか、30mくらいは全力走をして息をあげるは当たり前です。

 

2)100mはいきなり全力走の種目ですが、800m〜3000mの中距離走はややおとなし目のスタートをして、ラストの1周は全力走になります。こうなると、中くらいの走り+全力走の走りの心肺機能すべての準備体操というか慣らしが必要です。

 

3)マラソンに全力走のウォーミングアップは見た事がありません。

 

4)一応、イチローさんは元大阪府警陸上長距離の指定選手もしていて、都道府県警察対抗駅伝2部で出場した経験もあり、また別府毎日マラソンに出場しましたが3時間は切れませんでした、という経歴から言えます。言っときますが、今のマラソンは2時間10分を切るレベルの優勝タイムですが、当時は2時間30分を切れば優勝の時代です。

 

5)一般論としてオートバイのエンジンの「慣らし」とは、アイドリング回転に近い回転領域で走ることを言い、急加速急発進はそれが済んでからが常識となっています。でもこれは、前の例えで書いたようにゆっくり走る慣らしが終わっただけで、それ以上の回転域の慣らしはまったく終わっていないのです。

 

6)その昔の下半身強化は「ウサギ跳びが一番」だったのですが、今はもうウサギ跳びをやらせるスポーツ指導者はいません。ウサギ跳びをやらないのは、ひざ関節を痛める悪害の方が多いのが分かったからです。と同じで、低速回転で長時間エンジンを回し続ける弊害の方が大きいことが分かってきたからです。

 

7)今の時代でも、多少は新車エンジンに慣らしは必要です。ですが、ゆっくりとしたアイドリング回転に近いエンジンの回し方を続けて「もう慣らしは終わった」ではない事を知ってくださいね。結論を先に書くと、おとなしい回転の上げ方の慣らし運転は、ここでいう短中距離の選手が準備体操にジョギング程度の走りばかりをしているのと同じで、本番にはほとんど意味がないのです。

 

 

8)シリンダーとその中を上下するピストンとピストンリングですが、低速回転と中速回転と高速回転は、それぞれ金属の接触面が違うということを知ってください。

 

9)だからアイドリング状態に近い状態からアクセルを開けて回転を上げた場合の金属のこすれ面と、中速回転から全開域まで回転を上げた場合の金属のこすれとは、全然、違う部分の金属がこすり合っていると、荒っぽく単純に考えてください。

 

10)こうなると、例えば扇風機の風をオートバイのエンジン周辺に当てながら1時間アイドリングでエンジンを回して、もう慣らしはいいだろうと思っても、それは低速域の領域の慣らしが終わっただけで、中速域や高速域の慣らしは終わっていないのです。

 

11)私達レースを専門にしているチームのメカニックは、すべての回転域を練習で使ったシリンダーとピストンとピストンリングを取り外して、予備のスペアパーツとして持ってレースに臨みます。もちろん同じように、前後スペアホイルに付けているタイヤも練習で「ひと皮むけた」タイヤを付けていきます。前後新品タイヤをスペアホイールに付ける事はありません。

 

12)黒山選手は、大会は各ラップごとに後ろタイヤを交換しますので、2ラップだったらスペアホイルを2本、3ラップだったらスペアホイルを3本持っていきます。もちろんすべてのホイルに、練習で一皮むいたタイヤをつけて当たり前。この事は、今の世界選手権のトップは皆さんやっていることです。

 

13)レース関係者は別にして、ごく一般の民間人の皆様にエンジンのすべての回転域での慣らしなんてどうやったらいいのでしょうか?? になり、結論は「今の性能と品質のいいエンジンに慣らしは必要ありません」「いきなり、ごく普通に乗ってください」が、お答えですね。

 

14)特に専門領域のトライアル競技の場合、レース自体が「一生慣らし運転」みたいな回転の上げ方ですんで、なおのこと慣らし運転は必要ないですよ。2stであれ4stであれ、オイル管理を正しくしていれば「焼きつく」なんていうのは、今の時代「死語」です。

 

15)レースの世界ではシリンダーやピストンやピストンリングは新品部品をそのままは使いません。必ず「角面」のバリをとるというか面をとるというか、これをゴム砥石を使って丁寧にやります。

 

16)民間人皆様には機械的に分かりにくですが、例えば木工であれ金属であれドリルで穴を開けた場合、開け口は90度の角張った切り口になっていますよね。その切り口部分を、ヤスリか何かで斜めに削るというか落としてやると、切り口がなだらかになります。この事を機械加工屋的に大きなものは「座ぐる」で、小さなものは「糸面をとる」と申します。そしてそれ専用の特殊工具のことを「座ぐりカッター」と申します。

 

17)ですので、新品ピストンの下側スカートの部分全周や、ピストンリングの合口面のその部分、つまり製作過程で機械加工切り落としたそのままの部分を軽くゴム砥石でさらえてやるのです。2stだったらポート穴もその面取りさらえ作業をいたします。

 

18)経験上、この動く部分の切り落とし部分すべてを面取りして組み上げたエンジンは、新品組み込み→即全開で焼きついたことはありません。トライアルの比ではない回転の上げ方をするロードレースの世界のメカニックも同じ事を申していますし、必ずやっています。

 

19)新車のエンジンのシリンダー部分、いわゆる腰上部分を、いきなりバラして面取りをするなんて一般論ではありません。ですんで、今の機械加工精度のいい国産部品は「慣らしなしでごく普通に乗ればいい」が結論です。

 

20)でもやっぱり「アイドリング状態での慣らしは必要だ」の洗脳から抜けきらない人は、4stはまだいいとしても2stのアイドリング状態で長時間回しっぱなしはやめてくださいね。2stのエンジン燃焼効率の一番悪い回転域は低回転で、燃焼室から排気系までタールでベトベトになりますよ。この事は、低回転のみで生涯回し続ける発電機に2stがない事で分かります。

 

21)また2stに乗っているトップトライアルライダーが、セクションに入る前にギアをニュートラルにしてクラッチレバーを安全のために握り「エンジンを空吹かし」している意味がここにあるのです。このセクションイン前の「空吹かし」は4stには必要ありません。

 

22)昭和の時代の機械精度の悪いエンジンは「慣らしは必要」だったかもしれません。でも令和の今の時代のエンジンは、どこかの発展途上国のエンジン以外は「慣らしは必要ない」が結論で、一生慣らし運転のトライアル競技は特にそうですよ。でもまあそうは申しましても、オウム洗脳の残党がまだウロウロしているのと同じで「慣らしは絶対に必要」の洗脳から解放するのは無理でしょうから、このお話は読み流しで構いませんよ。

 

株式会社黒山レーシング:Manager/黒山一郎