弁護士の真実義務と誠実義務の衝突 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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  依頼者から「実は。。。」と依頼事件に関する重要事実を暴露されることがあります。それがそれまでの弁護活動と矛盾する場合に、弁護士は悩ましい立場に置かれることになります。
 例えば、夫婦の性格不一致を理由とする離婚事件を離婚したくない側Bから受任し、離婚するほどの性格不一致ではないと争っているものの、その依頼者Bから「実は不倫してる。まだ相手Aには発覚していないが」と告白されるような場合です。
 依頼者が自らにとって不利益な事実を隠していたが真実はこうだと告白してきたら、弁護士はどう対応すればよいのでしょうか?

 弁護士は、真実義務、つまり、真実に反すると知った場合に真実に反する主張を積極的に行わない義務を負っています。同時に、弁護士は、誠実義務、つまり、依頼者に利益になるよう行動すべき義務を負っています。
 上記の事案ですと、Aが不倫を理由とする離婚を申し出ていたならば、不倫していないと積極的に真実に反する主張を行うことは真実義務に違反し許されないことになります。
 他方、Aが性格の不一致を理由とする離婚を申し出ているにとどまるときは、真実は離婚に値する不倫という事実があっても、それを知らないAに積極的に暴露することはBの利益を侵害する誠実義務違反の行動にあたります。
 たとえBから受任した弁護士が真実義務を負っているにせよ、Aが論点に挙げていないBから聞いた不倫の事実を黙っておくことまで許容しない義務とはいえず、かつ、不倫の真実を隠して離婚するほどの性格不一致はないと主張することは真実義務には抵触しないからです。
 このあたり、弁護士でない人にはなかなかわかりにくい感覚と思います、社会通念に抵触する技巧的な割り切りだからです。
 なお、刑事弁護で名を馳せている佐藤博史弁護士の著書
『刑事弁護の技術と倫理』39-40頁にはこのような記載があります。全ての弁護士は肝に銘じておくべきでしょう。
弁護人は,被告人に最初につぎのように告げるべきだった。
 「大切なことだから,よく聞いて下さい。弁護人である私が効果的な弁護活動を行うためには,真実が何か知っておく必要があります。ただ,私は,あなたが裁判で実現したいと思っていることと異なる事実を知りたいとは思いません。そのようなことを私が知ってしまえば,弁護活動に重大な支障を生じ,最悪の場合,辞任せざるを得なくなります。そこで,あなたが何かを私に伝える場合,あなたが実現したいと思っていることと矛盾しないように注意して話して下さい。」
 。。。そして,不幸にして被告人の要望と異なる「真実」を知った弁護人は,つぎのように告げて,辞任すべきである。
「あなたが私に話したことと矛盾することを実現してほしいと求めるので,辞任せざるを得なくなりました。どうか新しい弁護人には同じことをしないで下さい。それがあなたのためなのですから。」 】