婚姻を継続し難い重大な事由における、別居期間の評価軸(数値)に言及した論文 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 民法770条1項5号は、不貞や悪意の遺棄など婚姻関係を破壊する有責行為がない場合であっても、婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合には、夫婦関係の破綻を理由に離婚を裁判所が命じることができると定められています。その立法趣旨は次のとおりと考えられています。

婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。」

 この立法趣旨の説示は最高判1987/9/2判タ642号73頁ですが、最高裁判例の多くは有責配偶者からの離婚請求の可否を検証するうえで別居期間を斟酌している関係で、有責配偶者ではない者相手の離婚訴訟において、別居期間がどれほどの評価軸を示すのか、残念ながらハッキリしていません

 

 外国ではどうなっているかを調べてみますと(基本コンメンタール親族第4版102頁)、1969年にはイギリスで2年以上の別居と相手方の同意を離婚要件とし、さらに5年以上の別居があるときは相手方の同意を要せず破綻が推定されるものと定めています。1975年にはフランスで同意離婚に加え6年以上の別居による破綻離婚を定めました。1976年にはドイツでも1年以上の別居と相手方の同意、そして、3年別居による破綻離婚を定めました。アメリカは州法ごとに異なりますが。このように別居期間の座標軸を数値で示している国もあります。

 

 そして1996年2月26日法制審議会が決定した法律要綱案では、夫婦が5年以上継続して婚姻の本誌に反する別居をしているときを離婚事由に設定しています。この法律要綱案の数値を、1つの参考になる座標軸になるのではと、《控訴審から見た人事訴訟事件~家月60巻5号17頁》で安倍嘉人裁判官が次のように言及しています。

 「一定の座標軸となる期間を設定して、これより短い別居期間で破綻を認めるのには特別な事情が必要であるとしたうえで、例えば、どんな事情があれば、その期間より短い別居期間でも破綻を認めることになるのか、あるいは、逆にどういった事情があればその期間の別居あるいはそれより長い別居がある場合でも破綻を認めないことになるのかという発想で整理することを考えてもいいのではないでしょうか。
 5年以上というのは、いろいろな議論を経たうえでの数字であったわけですが、これを維持するかどうかは検討課題です。その後の社会の状況を見たうえで、5年がいいのか、あるいは3年がいいのか、4年がいいのか、いろいろ考えはあると思いますが、少なくともこのような議論があったことを意識して、例えば、3年プラス1年マイナス1年という範囲を破綻の1つのおおよその枠として考えることもありうると思います。。。この点、高裁ではいろいろ事案がありますから、何年と言い切ることは難しいことですけれども、やはり3年4年という別居期間では、なかなか破綻を認めることが難しい事案が多いというのが、高裁での実務的な感覚であったと言ってよいように思います。

 そういった意味では、座標軸を設定して、特別の事情は何かといえば、プラスする要因、マイナスする要因はありますけれども、別居の経緯であるとか、別居の形態であるとか、あるいは、別居中の交渉の実情といったものが挙げられると思います。
 別居期間が短くても、その間に大変激しいやり取りがあったということであれば、それはそれで短くても破綻ということを認定しやすいだろうと思いますし、他方で、一定の座標軸の期間が経過したといっても、その間に円満調整の話し合いがされているとか、冷静な意思疎通が続いているとか、そういう事案で破綻を認めるかとうことは、まだ一考の余地があるのかなと感じております」
 安倍嘉人裁判官は続けて、破綻の有る無しを判断するにあたっては別居を直接引き起こした動きが大事だと指摘しています。

 

 東京高判2017/6/28家庭と法の裁判14号70頁では、別居期間3年5か月の夫婦について離婚請求を棄却した原審を取り消して離婚請求を認容しています。ちなみに、別居期間が1年余りの夫婦で離婚を認容した大阪高判2009/5/26別冊判タ32号168頁もありますし、別居から3年3か月の夫婦で婚姻関係の改善が期待できると離婚を棄却した名古屋高判2008/4/8別冊判タ29号148頁もあります。
 いまだ最高裁判例はないものの、別居期間を離婚事由として押し出すにおいては、上記論文を意識した主張立証活動が望ましいように思います。
 

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