退職勧奨がパワハラ不法行為に該当するとされたフクダ電子長野販売事件 | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 一審は長野地裁松本支部2017/5/17判時2354号97頁、控訴審は東京高裁2017/10/18ジュリスト1514号4頁労働判例速報です。
 フクダ電子長野販売の新社長が、経理総務係長の女性社員ほかに、退職させる目的で、正当な理由を欠く賞与減額や懲戒処分、侮辱的な発言を繰り返し、あげくに女性社員ほかが一身上の都合と明記した退職願を提出した後、会社都合ではなく自己都合としての退職金処理を行ったことについて、女性社員ほかが、懲戒処分の無効・賞与減額の無効・侮辱的発言を含む一連の行為を違法な退職勧奨として慰謝料請求・会社都合として退職金処理した場合の差額請求をもとめたという事案です。
 

 パワハラを違法と評価するかどうかの抽象的な判断基準に関する裁判例が3つあります。

・他人に心理的負荷を過度に蓄積させる行為は原則として違法である。例外的に、その行為が合理的理由に基づいて一般的に妥当な方法と程度で行われた場合に限り、正当職務行為として違法ではなくなる(福岡高判2008/8/25判時2032号52頁)。

・企業組織で指揮命令関係にある上司が職務を遂行する過程において部下に対し、職務上の地位権限を逸脱乱用し、社会通念に照らし客観的見地から見て、通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような、有形無形の圧力を加える行為は不法行為を構成する(東京高判2013/2/27労判1072号5頁)。

・労働者が自発的な退職意思を形成するために社会通念上相当と認められる程度を越えて、不当な心理的威迫を加えたり、名誉感情を不当に害する言辞が用いられたときは違法になる(東京地判2001/12/28ジュリスト1445号121頁)。

 具体的には、行為の目的・態様・頻度・継続性の程度・被害者と加害者の関係性を総合考慮するのですが、退職勧奨が違法となる類型として、執拗な退職説得の繰り返し、降格配転出向などの人事異動を絡めての退職誘導、日常的接触過程でのいじめ嫌がらせなどがあげられます。

 それから、パワハラ退職勧奨での慰謝料の算定に関しては、退職勧奨の回数・期間・言動・勧奨者の人数・被害者の応答・不利益取り扱いの有無などが総合考慮されるとのことです。
 

 そして、フクダ電子長野販売事件では、一身上の都合と明記した退職届を提出した場合であっても、退職に至る経緯が違法なパワハラに由来する場合には、会社からの退職強要によって退職したと同視できるとして、自己都合ではなく会社都合として取り扱うべきと認定したものです。

 

 この裁判例を取り上げたのは、もっぱら企業側につく某弁護士が書いた売れ行き抜群の著作に「社会一般の認識よりも裁判所は退職勧奨について寛容です。退職勧奨に関する規制がゆるいことを上手に利用した、ロックアウト型のリストラの方法もあります」など誤解されてもしかたない表現を見つけたからです。 「裁判所はパワハラをほとんど認めない」という小見出しもミスリーディングです。弁護士の書いた著作であっても、うのみにすることが危険な場合もあるということを伝えたかったのです
 

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